異世界ならお酒もOK!? ツマミは三〇〇年前の記憶
「ここから馬車を降りて歩くの?」
荒れ果てた竹林を見て、カレンが尋ねる。
「竹林の向こうに物見台が見えるじゃろ? あそこが屯所じゃ。門番に合図が送られておるから、見ておれ」
ズズズ……と地響きが鳴り、竹林脇の切り立った崖にぽっかりと穴が開いた。
「あそこから竹林に沿ってトンネルが掘られておるんじゃ。普段は入り口を塞ぎ、必要に応じて土魔法で開閉する仕組みじゃよ」
馬車はそのままトンネルへと吸い込まれる。内部は滑らかに削られ、幅も高さも三メートル余り。まるで城塞の入り口だ。
「瘴気の森と繋がる道はこの一本だけ。この崖はどんな魔獣でも破壊できん。穴を開けられたのは土魔法の適性を持つ竹蔵のみじゃった。竹林とこの壁によって、アプリコット王国は守られてきたのじゃ」
長さ三十メートルほどのトンネルを抜けると、竹林の向こう側にある谷底に出た。
見上げれば物見櫓。その下には高さ五メートル以上の土塁で囲まれた堅牢な砦と厩舎があった。
砦の前に馬車が止まり、全員が降り立つ。
タクミたちの乗った馬車からは、まずプフラ歌劇団の女性たちが艶やかに降りてきた。そして最後に、両側からヤスキヨに支えられたタクミがズルズルと引きずり出される。
外傷はない。だが、その顔は白く、魂が抜けたようにぐったりしている。
馬車の中で一体何があったのか。プラムと目が合ったブルーテ団長は、侮蔑を表す手の甲を向けた裏ピースサインを送り、舌を出した。
それに対し、プラムは右手を開いて上下に振るジェスチャーで返す。大人の女同士の、無言の会話だ。
リナたちが訝しげに見る中、一行は砦の中へ。
そこにはプレハブのような素材でできた二階建ての建物があった。一辺三十メートル、奥行き十五メートル。真ん中に正面玄関がある、左右対称の学校校舎のような造りだ。
歌劇団は左側の入り口へ。リナたちは正面玄関からエントランスホールを抜け、奥の応接室へと通された。
部屋には、年長のエルフ男性たちが直立不動で待ち構えていた。
「うぬらの確認不足でプフラ歌劇団が拉致され、我らの防衛ラインが突破されたんじゃ! 幸い、ここにいる勇者殿のおかげで最悪の事態は防げたが……降格、減給の処分は免れんと思え!!」
プラムの雷が落ちる。
「それと、拉致された歌劇団の者たちの衣服を整え、食事と宿泊の手配を急げ! 部屋が足りなければ、うぬらの部屋を明け渡せ!!」
プラムの剣幕に恐れをなしたエルフの司令官たちは、蜘蛛の子を散らすように部屋を飛び出していった。その迫力に、タクミやヤスキヨも縮こまっている。
「まったく……あやつらがもっとしっかりしておれば……」
ブツブツと文句を言うプラムに対し、カレンが平然と口を挟んだ。
「まあまあ、歌劇団の人たちは無事だったんだから。それよりタクミたち男どもも揃ったことだし、三〇〇年前の勇者たちの話の続きをお願いします!」
さすがカーストトップ女子、空気を読まない強心臓である。
「む、そうじゃったな。……よし、酒でも飲みながら思い出話に花を咲かそうぞ。これそこの者、酒と肴を持て!」
「いやいや、私たちまだ十七歳ですから。お酒は二十歳になってからですよ」
リナが慌てて止める。
「そんなことを言いつつ、ガキの頃から隠れて飲んでおろうが? 心配するでない、この世界では十五から大人じゃ。アルコール度数の低い『エール』ならジュースみたいなもんじゃろ!」
「「「「エール!?」」」」
エールと言われて頭に「?」が浮かんだ女性陣。
対して、男性陣の喉がゴクリと鳴った。
「酒」という単語を聞いた瞬間、タクミの死んだ魚のような目に、一条の希望の光が蘇ったのである。
「エールっていうのはビールのことだよ。ここは日本じゃないから飲んでも大丈夫。……っていうか、日本でもバレなきゃ大丈夫!」
「わいらもジョッキで!」
つい、オタク知識をひけらかしてしまったが、ヤスシの気合の入った一言で俺の言葉は綺麗にスルーされた。もちろん、カレンとシオンもそれなりに「たしなみ」があったようで、飲まない真面目ちゃんは、最初にお酒は二十歳からと宣言したリナだけだ。
そんなわけで、酒を酌み交わしながらの武勇伝タイムが開幕した。




