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枯れ果てた聖域への帰還

「実力を隠している感じじゃなかった。いや、隠していたとしても、武道をやっていた私の目は誤魔化されないはず……。

 異世界転移のボーナスって言われてるけど……、でも私たち、神様に会ってないよね。

 ……それに、初めて手にした力を振るう時の『ぎこちなさ』がなかった。あれは、子供の頃から血反吐を吐くような訓練で鍛え抜かれた動きだった」

「じゃあ、タクミの生まれ育った環境が普通じゃないってこと? 過去を隠してまでヘタレの演技をしてたって……意味わかんない」

 カレンが首を傾げる。

「シオンの家も天衝幽玄流本家だったから何となくわかる。あれは何か目的があって鍛えてるのは間違いない。素性を隠さなければならない理由……例えば、強大な国家権力や組織に追われていたとか? そういう『闇の世界』に、シオンも実は憧れる……!」

 シオンとカレンの話が陰謀論の方へ転がり始め、リナが慌てて反論する。

「そんなこと……ありえないよ! 普通の高校生でしょ!?」

「いや、『人知れず巨大な悪と戦っている』……竹蔵もそういう過去を持っている雰囲気じゃったな。この世界に来る前に、修羅場を潜り抜けてきたような目をしていた。そして時々万華鏡のように色彩が渦巻く虹彩が宿る瞳をしていてな。それが『サンカ』という職業の宿命を覚悟しているようでな……」

 プラムが意味深に補足する。

「太古から人知れず邪悪な陰謀を阻止してきた秘密結社「サンカ」の構成員……だけどそのことは誰にも知られてはいけない。当然口外はできない。そんな宿命を背負って、ヘタレを演じて生きてきたタクミ……だとしたら、カッコよすぎでしょ!!」

 カレンが目を輝かせた。

「うん。シオンは道場の跡継ぎとして、タクミを婿に迎えてもいい!」

「あの力だと、金メダリストとかすぐなれそう。メジャーリーガーなら、あたしと釣り合うかな?」

 タクミが「陰の実力者」認定され、まんざらでもない様子のリナだったが、シオンとカレンがキャアキャアと伴侶候補に名乗りを上げ始めると、露骨に不機嫌な顔になった。

「そんな目立つことしたら、敵の組織にバレちゃうんじゃないの。今まで通り目立たず平凡がいいよ。……それより、竹蔵さん以外で私たちみたいに召喚された人はいなかったの?」

「竹蔵以外では、『お松』と『お梅』それに『松彦』と『梅吉』がおったな。お松は賢者で、お梅は聖女、松彦が剣士で梅吉は拳士じゃった。

 そういえば、おぬしら勇者なのに『神聖武具』はどうしたんじゃ? 竹細工魔道具でも戦えるが、本来なら勇者専用の『限界突破トランセンデンス』を引き出す聖剣や聖杖が与えられているはずじゃが?」

「あ、それはまだ王都に行ってないので……。魔法を使った実戦経験を積んでから出発することになって……」

 リナが言いよどむ。

「何もできずにタクミに助けられるだけだった自分たちが情けなくて。瘴気の森の魔獣にリベンジして、自信を取り戻さないと先に進めないと思ったんです」

 珍しく、リナが胸の内を吐露した。

「懐かしいのう。松と梅も同じ気概を持っておった。『ヤマトナデシコ』じゃったかの? 時代は変われど、民族の本質は変わらんのじゃな。奥ゆかしいところもそっくりじゃ……」

 プラムの優しい言葉に、リナは照れたように下を向く。その初々しさに、言ったプラムの方も少し顔を赤らめた。

「おっと、アプリコット王国の国境が見えてきよったぞ。あの竹林を越えたところに屯所があるんじゃ!」

 プラムが馬車から身を乗り出し、大声で前方を指差したのは照れ隠しか。

 その声につられ、リナ、カレン、シオンも進行方向を見る。そこには、行く手を塞ぐように広がる竹林があった。

 自分たちが召喚された時、生み出されたあの青々とした竹林と同じもの。だが、そこにあるのは無残な姿だった。茶色く変色し、灰色の葉を風に散らせるだけの枯れ果てた林。

「この竹林は竹蔵が召喚したんじゃ。ただ、一週間前に花が咲いたと思ったら、一斉にこんな風に枯れてしまった。これは王都ピクルスの竹林公園でも同じ現象が起こっておる」

 枯れた竹が、自重に耐えきれずバキバキと音を立てて折れ曲がっている。

 かつて屈強な魔獣たちの侵略を阻み、その成長力で魔を屠ってきた最強の防壁が、今はただの屍と化していた。


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