語られる過去、疑われる現在
「うん、納得! シオン説に一票。……でも重要なのは、竹蔵さんたち勇者がどうなったかでしょ。相転移魔法って、魔力で分子構造を変えて形態を変化させるやつよね? だとしたら、人そのものがエネルギーに相転移して、時空を超えて元の世界に戻ったんじゃないかな? そう考えれば、消えたのも悲観しなくていいかも」
カレンが持ち前のポジティブさで可能性を探る。
「じゃとしたら、タクミは竹蔵の子孫かもしれんな」
プラムがふいに爆弾発言を投下した。
「えっ?」
「竹蔵と同じ『サンカ』という山の民じゃったし、竹細工の魔道具を使いこなす実力は竹蔵に勝るとも劣らん。ただ実戦不足じゃがな」
「実践不足は仕方ないんじゃないかな。私たちの世界は平和だったから、私も弓道で生き物を撃ったことなんてありませんでした。賢龍に襲われて、初めて死を予感したくらいで……。タクミがいなかったら、確実に全滅してたと思います」
リナが真剣な眼差しで答える。
「竹蔵の存在も同じじゃよ。前回の龍魔王討伐で召喚された勇者は五人。それをフォローしたのは各国の軍隊じゃったが、ペオニア帝国だけは竹蔵の創る竹細工の武具をバカにして使わんかった。結果、初期段階で壊滅的な損害を受けたのじゃ」
プラムは遠い記憶を懐かしむように語る。
「それまで、硬い鱗や皮膚に覆われた魔獣を傷つけるには、相当のレベルか聖武具が必要じゃった。だが、竹細工武具はそんな魔獣を容易く切り裂いた。
我らエルフもそれまでの弓を捨て、和弓を使いだしたんじゃ。和弓自体が魔道具で、誰でも魔法付与が簡単にできる。華奢なエルフでも威力が倍増じゃ。さらに短弓が有利とされた馬上でも、上下非対称の和弓はその威力を損なわず、弓騎兵として大活躍したんじゃよ。 ……ただ、それも『四天龍魔』が現れるまでの話じゃがな」
「四天龍魔……?」
「さっき出てきた、拳法使いの賢龍がその一人じゃ。おぬしらも死にかけたじゃろう? 我ら王国の精鋭師団(約千人)も、たった一人に壊滅させられたわ。
賢龍のほかに、魔法を極めた昇龍、剣術を極めた青龍、そして魔獣使いを極めた飛龍がおる。奴らは竜人の頃から次元の違う達人と評されていたが、魔龍化したことで災害級の脅威となった。
四天龍魔と渡り合えるのは、己の技を極めた勇者だけ。今のおぬしらでは太刀打ちできんのも道理じゃ。……封印から目覚めたばかりの有利な条件はあったが、竹蔵でさえ封印するのがやっとだった賢龍を倒したタクミの技量、一体どれほどの研鑽を積めば身につくものやら。勇者ではないと言うなら、いっそアプリコットに永住してくれんかのう?」
「ダメです! タクミはあたしたちと一緒に来るに決まってるでしょ!」
カレンが即座に食いついた。
「そうそう。シオンたちと同じ班行動をするべき」
「私もそう思います。だってこの弓が壊れたり、矢がなくなったら誰が造ってくれるんですか?」
「そうは言っても、今頃タクミはプフラ歌劇団の接待でハーレム状態じゃろう。歌劇団には『セクシャルバイオレット軍団』の異名をとるアイリス三姉妹がおるからの。ブルーテ団長には『ハニトラも歌劇団の仕事じゃろ』と焚きつけておいたわ」
「ははっ、残念でしたー。あのビビりでヘタレの童貞野郎のタクミが、ハニトラなんかに引っ掛かるわけないじゃん。あたしらの顔色見て教室の端っこでイジイジしてたような奴だよ?」
カレンが鼻で笑う。
「私もそう思う。教室でもほとんど目が合ったことがないし……今の凄いタクミとのギャップがありすぎて、急に受け入れるなんてできないよ」
リナも同意する。彼女たちの中にある「タクミ像」は、未だに教室の隅にいた彼なのだ。
「なるほど……タクミは前の世界では、あんなに強かったわけじゃなかったのか?」
プラムの疑問に、カレンとリナは「ありえない」と自信満々に首を横に振る。だが、プラムは違和感を覚えた。この世界は弱肉強食。強者が全てを得るのが道理だ。 女神の加護を一身に受けるなど……。その疑問を感じ取ったのか、シオンがふと真顔になって呟いた。
「……いや。確かにあんなにかっこ良くなかった。存在が空気だったし、勉強も体育も平均以下。……でも」
シオンの武人としての勘が、記憶の奥底を探る。




