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タクミの受難と英雄の追憶

「……タクミ様」

 ふと気がつくと、車内のエルフたちが熱を帯びた視線を俺に送っていた。

 これまでの人生、空気のように目立たず生きてきた俺にとって、これほどまでに必要とされ、賞賛されたのは初めての経験だ。

 俺の『サンカ』の技は人を救う為に磨いたもんじゃない。いたたまれなくなって――俺は両刃鉈を握りしめた。

 その拳に、横から白魚のような手がそっと重ねられた。

 はっとして顔を向けると、そこにはバイオレットの髪を揺らし、泣き出しそうな瞳で見つめてくる美少女……いや、溢れんばかりの色香を纏った女性がいた。

「……震えが止まらないのです。落ち着くまで、こうして手を握っていていただけませんか?」

「あ、ずるい! 私も温めてください!」

 返事をする間もなかった。反対側からもいい匂いのする「物体」が抱きついてくる。さらに、二の腕には柔らかい感触が押し付けられた。

「だったら、あたしも!」

 意識が飛びそうになった瞬間、今度は背中に逃げ場のない柔らかな圧力を感じる。

 ……こんな凄まじい責め苦、六甲山の修行でも経験したことがない。

 弱点である「若さ」と「経験不足」を的確に突かれた時点で、俺の負けは確定していた。

 そこから先の記憶は、残念ながら残っていない。

◆ ◆ ◆

 リナたちが乗った馬車には、今世の勇者と話がしたいプラム王女も無理やり乗り込んでいた。

 狭い車内では、情報収集という名目のもと、女性たちの間で静かに火花が散っていた。

「ねえ、プラムさんが言ってた『竹蔵』って、どんな人だったんですか?」

 リナが単刀直入に切り出す。

「ふむ……あやつは表舞台に出るようなタイプではなかったの。どちらかと言えば影がある男じゃったな。無口じゃが、いざという時は他の勇者を支える『影の実力者』じゃったよ。顔立ちもイケメンとはとても言えん地味な顔じゃったが、瞳だけはキラキラと輝いておった。よく見るといぶし銀のいい男じゃったぞ」

「ふーん、そうだったんだ。……で、プラムさんは竹蔵さんのこと、好きだったりしました?」  カレンが小悪魔的な笑みで核心を突く。

「なっ……! そ、そうじゃな……惚れておったとは思うぞ。一緒に戦えるだけで嬉しかったし、重傷を負った竹蔵を見て、死んでほしくないと胸が張り裂けそうになったこともあった。じゃが、当時の妾には自分の心を見つめる余裕などなかった。恋を自覚する暇もなくな……」

「その気持ち、分かるかも! で、龍魔王を封印した後、竹蔵さんとはどうなったの?」

「わからん……。最後の決戦に妾はおらなんだんじゃ。龍魔王が竹の封印を破る為に放った相転移魔法の中で、勇者三人の姿は跡形もなく消え失せたんじゃ。しかし、竹の封印だけは完成しておった。魔法名は『籠獄ろうごく』じゃったと聞いておるな」

「龍を竹で押さえつけるから『かご』、それを『牢獄』とかけて『籠獄』……シャレが効いてる。誰かがこの戦いを見て、竹編みの籠の字を当てて広めたんじゃ?」

 シオンが感心したように頷く。


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