三度目の正直の意味
「うむ。話せば長くなりそうじゃ。幸い、ここから少し行った場所に妾たちの屯所がある。そこでゆっくり話すとしよう。魔獣の手から取り戻した同族たちも、安全な場所で休ませてやりたいしの」
もっともな提案だった。
檻から解放されたエルフたちは、カレンの魔法で傷こそ癒えているものの、その表情には深い疲労が刻まれている。何より衣服がボロボロで、男としては目のやり場に困るほどだ。
「そうですね。早くその屯所へ行きましょう」
カレンが同意すると、シオンとリナもコクコクと深く頷いた。
俺はヤスキヨに肩を貸し、なんとか立ち上がらせる。二人は竹槍を杖代わりに、ようやく自立している有様だ。
こうして俺たちは、保護したエルフたちを元の檻——今度は安全な移動手段としての馬車——に乗せ、プラムの拠点を目指すことになった。
ただし、女性陣はプラムと同じ馬車へ。そして男連中は、別の馬車へと押し込まれることになったのである。
揺れる馬車のなか、保護されたエルフの一人が俺たちに向かって深々と頭を下げた。
「私はプフラ歌劇団の座長、ブルーテと申します。この度は……私たちを助けていただき、本当にありがとうございました。二度の絶望を味わい、もうダメだと諦めかけていました。あなたたちのおかげで『三度目の正直』という言葉の本当の意味を知りました」
彼女は嗚咽を漏らしながら、絞り出すような声でお礼を述べる。
「あー、ええと……そんな、頭を上げてください。俺たちも腕試しのために瘴気の森に近づいただけで……」
俺は照れ隠しに後頭部を掻いた。
だが、その言葉に嘘はない。偶然とはいえ、賢龍とかいう龍魔と戦うなんて貴重すぎる経験だったし、何より龍魔王との戦いの厳しさを嫌というほど思い知らされた。一歩間違えれば、俺たちが全滅していてもおかしくなかったのだ。
「ほんま、タクミと違ってわいら何の役にも立ってへんしな……。でも、死という絶望から救われたんはわいらも同じや。あの程度の大怪我やったら死なへんって分かったんは朗報やけど」
「そやな。あのままやったら、あんたらの方が悲惨やったはずや。べっぴんさんが酷い目に遭うくらいなら、わいらは命を捨てられる。……しかし、『二度の絶望』っちゅうことは、わいらが来る前にも一悶着あったんか?」
ヤスキヨもどうにか体力を回復させ、会話に混じってきた。
三度の飯より美少女が好きな彼らにとって、目の前の美しきエルフを前にくたばっている場合ではないというのが本音だろう。
それにしても、聞きにくい過去をさらっと聞き出せるのは、大阪弁の持つ不思議な特権だろうか。
「……はい。まさに一難去ってまた一難という状況でして。私たちは本来、アプリコット王国の王立歌劇団に所属しております。ミュージカルを生業にしており、他国でもそれなりに人気を博していたのですが……」
ブルーテさんの話を要約すると、事の顛末はこうだ。
ペオニア帝国から届いた公演依頼は、彼女たちをおびき寄せるための卑劣な罠だった。帝国騎士団は懇親会の席で飲み物に睡眠薬を混入。彼女たちが意識を失っている間に、魔法を封じる呪いの首輪と手枷を填め、奴隷として檻に放り込んだ。
「「それはめちゃくちゃやんっ!」」 「まったくです!」
ヤスキヨの怒声に俺も激しく同意する。
だが、絶望はそれだけでは終わらなかった。帝国へ連行される途中、一行はオークやミノタウロスの群れに襲撃されたのだ。
皮肉にも、エルフたちを「商品」として傷つけぬよう厳命されていた騎士団は、命を賭して戦い、そして全滅した。結果、生き残った彼女たちは魔獣の手によって瘴気の森の奥深く――すなわち、魔獣の「苗床」として嬲り殺される運命へと引きずり込まれる最中だったというわけだ。
この世界の闇は、奈落よりも深い。
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