王女様は語りたい。三〇〇年前の物語を
……しかし今、彼女は「サムライ」と言ったか?
「あっ、失礼しました。異世界から勇者として召喚されたシオンと申します。侍と呼ばれるのは光栄ですが、まだまだ道半ばの未熟者です」
「あたしにも自己紹介させて! シオンと同じく聖女として召喚されたカレンです」
「私はリナ。弓使いの勇者です。……あと、あっちで青白い顔をして座り込んでいる二人は、勇者の丁稚のヤスシさんと、奉公のキヨシさんです。自分じゃ名乗れそうにないので」
「そして、俺が職業『サンカ』のタクミだ。全員名乗ったぞ。……であんたは誰なんだ?」
俺はあえて不遜な態度を崩さず、彼女の威圧に対抗した。すると、元兜エルフの美少女は面白そうに片眉を上げる。
「妾はアプリコット王国の王女、プラムなるぞ! 平民風情が、頭が高いわ!」
彼女はそう言い放つと、金細工で大樹の紋章が刻まれた見事な「和弓」を突きつけてきた。
「――というのは冗談じゃ。というか、おぬしら案外ビビらんな。竹蔵ら先代の勇者どもは、妾の身分を知るや否や平身低頭、震え上がっておったものだが」
「三〇〇年後の世界じゃ、身分の差なんてあってないようなもんなんだよ。それより、当時のことを知っているなら教えてくれ。竹蔵って男のこともな」
「なるほど、時代の流れか……。こちらの世界は『瘴気の森』のせいで人、エルフ、獣人の国境が分断されてしもうた。その結果、エルフが奴隷として売られるような違法取引が蔓延る始末。……まずは、それを阻止してくれたことに礼を言わねばな。すまんかった、助かったぞ」
プラムは一度だけ神妙に目を伏せると、語り継ぐように続けた。
「竹蔵だが……あやつは三〇〇年前の『龍魔王』覚醒の折に召喚された勇者じゃな。本人は勇者という概念が分からんと言うて、自らをお前と同じ『サンカ』と名乗っておった。何じゃそりゃと問えば『山の民』だと答えよったわ。我らエルフもまた山の民を自負しておるゆえ共感してな。妾も龍魔王討伐の旅に同行したのじゃ」
「……ということは、プラム王女も前回の勇者パーティの一員だったんですか?」
リナの問いに、プラムは頷く。
「そうじゃ。おぬしと同じポジション、弓使いのプラムよ。この和弓も竹蔵が創ったものじゃ」
「えっ、なんで和弓なんですか? 普通、この世界なら洋弓かクロスボウですよね?」
「勇者パーティに剣士はいましたか!? それって私と同じ侍ですか? 流派は? 私と同じ『天衝幽玄流』だったりしますか!?」
「聖女も当然いましたよね! やっぱり、とびきりの美人だったんでしょうか!」
……おいおい。リナにシオン、それにカレンまで。元勇者パーティの面々にしては、聞くべきことがズレすぎていやしないか?
龍魔王はどんな奴だったのかとか、弱点はどこだとか、どうやって封印したのかとか、もっと戦略的な質問があるだろうに。
「それで、その竹蔵って男は何ができたんだ? その弓、竹でできてるみたいだけど、アプリコット王国には竹が生えてるのか?」
俺の問いに、プラムは大げさに肩をすくめて深い溜息を吐いた。
「呆れた奴らじゃ。仮にも勇者を名乗るなら、敵の情報をもっと欲しがらんか。これでは勇者失格じゃな……。まあよいわ。龍魔王との戦いの歴史、順を追って話してやろう。妾にとっては昨日のことのように思い出せるからの……」
プラムは遠い目をして天を仰いだ。三〇〇年前の記憶の糸を、丁寧に手繰り寄せているようだ。




