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あいにく魔力がないもんで。――古武道、魔龍を凌駕す

「あ、あいつは……四天魔龍の一角、『賢龍けんりゅう』!」

 人影を見た瞬間、エルフの女騎士の顔から血の気が引いた。

 直後、彼女の手から放たれたのは、風魔法で極限まで加速された数十本の矢。矢筒が空になるまで撃ち尽くされたそれらは、もはや一筋の閃光となって森を穿つ。

 俺の目では残像を追うのが精一杯。なのに――。

「いきなり撃ってくるとは、相変わらず失礼な長耳ですね」

 賢龍と呼ばれた男は、その邪悪な魔力とは裏腹に、優雅な動作ですべての矢を回避してみせた。丁寧な言葉遣いがかえって不気味さを煽る。

「そっちこそ、いきなりなによ! 死ぬかと思ったじゃない!」

 尻もちをついていたカレンが立ち上がりざまに『ウォーター・ニードル』を放つが、奴は踊るような足取りでそれさえも躱す。

 あまりに余裕がありすぎる。……いや、違う。奴は攻撃が放たれる「前」から回避を始めているんだ。

(先読みか……!)

「しばいたるわ!」「なめんなや、コラァ!」

 ヤスキヨコンビが動く。土魔法で地面を液状化し、賢龍のフットワークを封じにかかった。

 だが、ヤスシが竹槍を突き出す寸前、賢龍の手が吸い込まれるように彼の腹部へ伸びる。

「がはっ……!?」

 鋭い貫きぬきてがヤスシの腹を貫通し、背中まで突き抜けた。

 ヤスシの背後から隠れるように死角を突いたはずのキヨシも、同様のクロスカウンターで腹を貫かれる。

「……ふむ。自己犠牲ですか? ヒューマンにしては良い連携でしたが、私にはすべて『視えて』いますよ」

 賢龍は腕を軽く振り、串刺しにした二人を血の海へと放り捨てた。ピクリとも動かない二人。その惨状に、シオンが唇を噛み切るほどに強く噛んだ。

「あんたの動きは、この『天衝幽玄流』の私が見切る……! その首、二人の墓前に供えてあげるわ!」

 シオンが竹光を鞘に納め、『テレポート』で至近距離へ肉薄。

 抜刀の構え。だが彼女が放ったのは斬撃ではなく、上段へ鞘ごと振り上げ、同時に鞘を飛ばすという奇策だった。

「――『桜雪一閃おうせついっせん』!!」

 鞘を躱そうと体勢を崩した賢龍へ、幾筋もの斬撃の煌めきが襲いかかる。

「捉えた!」と、シオンが確信したその瞬間。

 賢龍の姿がブレ、掻き消えた。

 直後、彼女の背後に現れた賢龍の手が、その心臓を貫こうと伸びる。

(後の先……! 鞘の投擲まで読んでいやがった!)

 だが、その死の一撃を止めたのは、俺の竹槍だった。

ガキィィィィン!!

「いつの間に……。その万華鏡のように色彩が渦巻く虹彩、遠い昔の勇者と同じ瞳の色……。相変わらず、魔法の痕跡を残さぬ姑息な真似ですが、まさか私が不意打ちを受けるとは」

 呆然とする賢龍をよそに、俺はシオンを抱えて後方へ跳んだ。 奴の『先読み』は本物だ。魔力の流れを読み取り、相手の意識の先を行く。まるで格ゲーの「無敵ゾーン」に入ったような無双状態。

 だが、奴には読めないものがある。俺には奴が読むべき「魔力」がない。そして俺には、その先を行く古武道の真髄がある。

「……その技、やはり、見覚えが……」

「『縮地しゅくち』だよ」

 静かに答える。本物の縮地とは予備動作を一切消し、静から動へギアチェンジする特殊な歩法。相手には「一瞬で目の前に現れた」ように錯覚させる、サンカ至高の体術だ。

「縮地、ですか。惜しいですね。今の不意打ちで私を殺せていれば……、仲間を助けるために唯一のチャンスを捨てるとは……」

 賢龍の魔力が膨れ上がる。本気だ。

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