砕け散った簪(かんざし)――回収された不吉と、深淵の雷光
先頭を駆けるのは、美形揃いのエルフの中でも一際目を引く、気高き美貌の持ち主。装飾の施された美しい兜と胴鎧を身に纏い、その手には――
「……和弓!?」
この異世界の地で、なぜ日本古来の武具が……?
そのエルフの女騎士が弓を引き絞った瞬間、戦場の空気が一変した。
「まさか、日本人の転生者か!?」
脳裏をよぎる疑問を振り払い、俺は目の前の光景に集中した。
エルフの女騎士。彼女は馬を自在に操り、至近距離から次々と「和弓」を射かける。その鮮やかなヒット&アウェイ。俺やシオン、ヤスキヨが足止めしているミノタウロスの眉間を、正確なヘッドショットで撃ち抜いていった。
「――なら、俺が道を作る!」
俺は戦法を切り替えた。ミノタウロスが突き出す竹槍の穂先へ、俺の竹槍を真っ向から叩き込む。
力では魔獣の勝ちだ。だが、いなす槍捌きなら『サンカ(俺)』が上!
兜のエルフが射抜くコンマ数秒の間だけ、奴らの動きを封じればそれでいい。
「お見事! 竹は切った瞬間から魔力を注がん限り、魔力が抜けだすんじゃ。おぬしのはただの竹じゃがその技は見事なり! ほれ、代わりじゃ」
どこから出したのか、竹槍を投げ渡してきたエルフ。新たな竹槍を得た俺と彼女との絶妙なコンビネーション。
それに触発されるように、シオンとリナも動きをシンクロさせ始めた。
シオンが 至近距離のテレポートで敵を翻弄し、リナが動きが止まった瞬間に空から急降下してヘッドショットを叩き込む。
ヤスキヨは 土魔法で壁を作り、足元を液状化させてミノタウロスを泥沼に沈めて動きを止め、兜エルフたちの援護に撤する。
兜エルフと一緒にきた騎士団は三人一組の洗練された連携で、確実に残党を間引いていく。
やがて、オークとミノタウロスの群れは崩壊し、生き残りは命からがら「瘴気の森」へと逃げ帰っていった。
死と隣り合わせの緊張から解放され、俺たちの肩からふっと力が抜ける。
「……ふぅ。やっとアタシの出番ね。『エリアヒール』!」
後衛で檻を死守していたカレンが、負傷したエルフたちへ向けて回復魔法を放った。
その温かな光が、倒れていた「人間の騎士たち」にも降り注ごうとした瞬間――。
「そいつらに、回復魔法は必要ない!!」
兜のエルフから、突き放すような怒声が飛んだ。
その凍てつくような拒絶に、俺たちは思わず身構える。
だが、エルフたちの怒声以上に恐ろしい「何か」が、そこにはいた。
城壁の向こう、瘴気の森の深淵から放たれた、魂を凍りつかせるほどの絶対的な殺気。
「「「「――来る!!」」」」
俺と勇者三人の絶叫が重なった。
思考だけがクリアに冴え渡り、時間は無限に引き伸ばされる。スローモーションの情景の中で、俺は見た。
森の奥から放たれた、全てを呑み込む漆黒の雷光。
あまりの速さに、誰も動けない。
カレンが咄嗟に腕を顔の前に掲げた。その瞬間、左腕の竹細工――俺が贈った「アイギス(盾)」が、どす黒い魔力に呼応するように聖なる光を爆発させた。
――ドォォォォォン!!
「っ……!!」
雷光を受け流し、後方へ吹き飛ばされるカレン。
その衝撃で、彼女の銀髪を束ねていた「竹の花の簪」が身代わりに砕け散った。
鮮やかなピンクの毛先が、ふわりと空に広がる。
簪という名の「伏線」が最悪の形で回収されたその時、漆黒の雷光が放たれた場所から、ゆっくりと「それ」が姿を現した――。




