竹槍の洗礼と、地を震わすエルフの騎行
「……うわ、なにこれ。鳥肌が止まらないんだけど」
その不気味さに全員が足を止める。気弱なリナは、俺の制服の裾をぎゅっと掴んで後ろに隠れている始末だ。
「……ぐるっと外側を回って、様子を見てみないか?」
「賛成。ペオニア帝国の兵士とかに鉢合わせるのも面倒やしな」
シオンが地図を確認し、城壁沿いに歩き出す。この先にはエルフの国「アプリコット王国」へ続く街道があるらしい。
エルフといえば美形揃い。別にやましい期待があるわけじゃないが……ヤスキヨの鼻の下が伸びているのを見る限り、男の煩悩は世界を超えても変わらないらしい。
しかし、歩を進めるごとに地形は険しさを増していった。
高さ五十メートルを超える断崖の壁。その至る所に不気味な横穴(道)が開いており、そこから魔獣が次々と湧き出しているのだ。
そして――幅五十メートルはある巨大な横道から、派手な剣撃音と魔獣の怒号が響いてきた。
崖に身を潜め、シオンが慎重に中を覗き込む。
「豚頭と牛頭の群れ……人間とやり合ってるわ。助けに行くわよ!」
疑問形ですらない。シオンは言うが早いか、街道へと飛び出した。
戦場は、凄惨な地獄絵図だった。
距離二百メートル、数は百体以上。戦っているのは人間の騎士たちだが、魔獣の硬い皮膚を前に防戦一方。背後には檻を載せた馬車が三台。
「シオン! 豚頭は『オーク』、牛頭は『ミノタウロス』や! それと、檻の中におるのは……エルフやな」
ヤスシの指摘通り、檻に閉じ込められていたのは、耳が長く、黄金比で構成されたような美貌を持つエルフたちだった。手枷足枷を嵌められ、絶望に瞳を曇らせている。 彼女たちを守っていたであろう騎士たちは、すでにオークの餌食となっていた。
「……エルフがオークの苗床にされる……これ、異世界モノの定番やんけ」
不謹慎なキヨシの呟きを無視し、シオンが『連続縮地』(短距離テレポート)で一気に距離を詰めた。
一瞬で数体のオークを切り伏せるシオン。だが、そこで彼女の動きが止まった。
「――なっ!?」
シオンの竹光を、オークが手にした「竹槍」が受け止めたのだ。
この世界には存在しなかったはずの竹。だが、ミノタウロスたちの多くが、その鋭い竹槍を装備している。
「『桜雪一閃』!!」
シオンが竹槍を躱し二体のオークを細切れにするが、今度はミノタウロスの一団が檻の前に立ちはだかった。
「『ウィンド・アロー』!」
上空からリナが放った必殺の風矢。だが、驚くべきことにミノタウロスたちは、その加速する矢を竹槍一本で次々と叩き落としていく。
「嘘……私の矢が、ただの棒切れに防がれた!?」
そこにヤスキヨの土魔法で突き出た岩が、ミノタウロスの突進を止める。
隙を突いて俺も乱戦に突入した。竹槍の扱いなら、サンカの俺に一日の長がある。
「はぁっ!」
鋭い突きを叩き込むが、手応えは最悪だった。皮膚の表面をわずかに掠っただけだ。
(……こいつら、竹が効かない!?)
俺には魔力がない。だけど俺が突く竹槍は魔力を纏っているはずだ。奴らの体皮の硬さは竹の魔力以上なのか?
致命傷を与えることができず、一進一退の攻防。 そこに、地鳴りのような蹄の音が響き渡った。
敵か味方か?現れたのは、エルフの騎馬集団。
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