聖女の後光は竹製(ザル)でした ~不吉な花を添えて~
「わいらの出番、一ミリもなかったやんけ……」
「ほんま。どないしてくれんねん」
ヤスキヨが肩を落として愚辞をこぼす。俺も同感だ。
「まあ、俺も棒立ちだったしな」
「アホか! 巻き込まれ召喚の自分と一緒にすな。なろう系の『実は最強』設定、自分には適用されてへんわい!」
罵倒が心地いいレベルの完敗だ。俺、もう陰から支えるとか無理じゃないか? スローライフに方針転換したほうがいい気がしてきた。
「タクミくん、この弓と矢、最高に使いやすいわ。これからもよろしくね」
「この竹光も、私の手に馴染みすぎる。最速の剣を振るうには、この軽さと強靭さが必要だったのね」
リナとシオンが、俺の造った竹細工を絶賛してくれる。それが唯一の救いだ。 すると、カレンが不満げに頬を膨らませて近づいてきた。
「ちょっと、あたしにはないの? その『バンブーナノファイバー』の一品」
聖女様におねだりされては断れない。俺はリュックから、昨日編み上げた円形の竹細工を取り出した。 菊底編み(きくぞこあみ)――放射状に組んだ竹を緻密に編み込んだ、しかも、その模様はこちらの魔法陣とそっくりで、一尺ほどの美しい円盤状の工芸品だ。ついでに、先ほど摘んだ「竹の花」をあしらった簪も手渡す。
「これ、あげる。カレンにはこれかなと思って」
「簪はいいけど……このザルみたいな盆は何よ?」
「いや、ほら。聖女の絵って、後ろにこういう丸いのあるじゃん」
「あれは後光であって、お盆じゃないわよ!」
カレンの鋭いツッコミが入る。だが、すかさずキヨシがフォロー(?)を入れてくれた。
「まあ待て。その緻密な編み目、魔法陣が描かれた女神アテナが持つ盾『アイギス』にも見えるやん。西洋美人のカレンにはぴったりや」
「そうそう、装備として加工したらええんちゃう?」
「……西洋美人ね。……まあ、タクミがそこまで言うなら、もらってあげてもいいわよ」
意外とチョロい。ヤスシたちの口車に乗ったカレンは、さっそく竹の花の簪を銀髪に挿した。
「それで、この簪にはどういう意味があるの?」
「……それは、伏線ってことで」
不吉の象徴である「竹の花」。それを彼女に持たせたことに、俺自身少しの不安があった。だが、ハーフアップにした銀髪から透き通るような首筋が見えた瞬間、その色気に言葉を失った。
「銀髪に竹の簪。ワビサビが効いてて、エキゾチックで、キュートで、……ファミールだな」
「なによその意味不明な褒め言葉。……でも、悪くないわね」
自分でも何を言っているのか分からなかったが、カレンは満足げに微笑んだ。 斜め上の美的センスを持つ勇者たちを連れ、俺たちは再び、淀んだ空気の漂う「瘴気の森の外苑」へと足を踏み入れた。
道中の雑魚モンスターを戦乙女三人組が瞬殺していく様子を眺めながら、俺たちは竹林から二時間ほど進んでいた。
狭まっていた谷底が不意に開け、目の前に現れたのは、もはや「異様」の一言に尽きる光景だった。崩れた城壁を巨大な樹木が食い破るように飲み込み、空を覆い隠すほどの鬱蒼とした森林地帯――そこが「瘴気の森」の入り口だ。




