不吉、開花と、蹂躙される異形の群れ
翌朝。俺たちはまたしてもギルド裏の鍛錬場に引きずり出された。
そこで始まったスキル特訓だが、俺はサンカ流のイメージ法を伝授した。
「魔力に体を動かさせるんだ。魔力が先行し、肉体がそれを追いかけるイメージを持て」
俺がオーラを操るのに十日かかった修行を、天才勇者様たちはわずか半日でモノにしてしまった。魔力が可視化されているこの世界では、イメージの具現化が驚くほど速い。……正直、ちょっと凹む。
昼食のサンドイッチ(コーヒーがないのは死活問題だ)を流し込み、俺たちはついに「瘴気の森」へ向けて出発した。
学生制服の上に革鎧という、なんともアンバランスな格好だが、門番たちは俺たちを「辺境伯の客人」として恭しく見送ってくれた。
人通りのない街道から外れ、岩陰に隠れる。 作戦はこうだ。カレンの『ワープ』で、俺たちが最初に転移してきた「竹林」まで一気に跳ぶ。
だが、カレンのワープはまだ不安定だ。
「……で、なんで俺が一番手(生贄)なんだ?」
「あんたが一番ダメージが少なそうだからよ!」
「誰にとってのダメージだよ!」
文句を言う暇もなく、カレンが後ろから俺を抱え込むように手を回してきた。 どこにも触れていない絶妙な距離感。女子にここまで接近されたことなんてない俺は、正直『ワープ』より先に心臓が止まって死にそうだ。
「ふらふらするな! 死にたいの!?」
「タクミ、その竹槍を芯にして重心を固定しろ!」
シオンの助言に従い、竹槍を体の中心に立てる。すると不思議なことに、竹がカレンの魔力を増幅させ、安定させていくのがわかった。
「いくわよ……『ディメンション・ゲート』!!」
視界が暗転し、上下左右の感覚が消失する。 次の瞬間――。
ドサッ、と地面に叩きつけられた衝撃。目を開けると、そこにはあの「竹林」が広がっていた。
「……欠損はない? 指とか耳とか、ちゃんと付いてる?」
後ろからカレンが不吉なことを聞いてくる。慌てて全身をチェックしたが、幸い五体満足だ。振り向くと、カレンの顔が予想以上に近くにあり、心臓が跳ねた。
……が、彼女はすぐに距離を取り、「大成功!」とヤスキヨたちを迎えに消えていった。
あっという間に、班員全員が竹林に集結した。
「よっしゃー! 実戦だ!」 ヤスキヨが奇声を上げ、シオンが竹光を構える。だが、俺は一人、ギルドマスターのアーロンがいないことに気づいた。
「あれ、ギルマスは?」
「ああ、ワープ直前に『急用を思い出した』って逃げたわよ。あの体格だと、ワープ中にどこか欠損しそうだったしね」
……賢明な判断だな、おっさん。
俺たちはシオンが預かった地図を頼りに、竹林の先「瘴気の森」へと歩みを進める。
だが、その一歩を踏み出した時、俺は異変に気づいた。
「……花が、咲いてるのか?」
竹の節から、笹の皮が密集して生え、その先に不気味なめしべが顔を出している。
竹の花。六十年、あるいは百二十年に一度しか咲かず、咲いた後には竹林がすべて枯死する。古来より「不吉の前兆」とされる現象だ。
(物語の伏線じゃなきゃいいんだが……)
すでに白く変色し始めた竹から、俺は誰にも気づかれないように数枝の花をむしり取った。
枯れゆく竹林の囁きに背中を押されるように、俺たちは「地獄」の入り口へと足を踏み入れた。
竹林を抜けた先には、幅八十メートルほどの広大な谷底が続いていた。
かつての地殻変動や巨大な河の流れが刻んだ、天然の迷路。そびえ立つ断崖に囲まれたその景色は、圧倒的なスケールで俺たちを拒絶しているようにも見えた。
「これ、昔はすごい川だったんじゃないかしら……」
「そうだな。カルデラ湖が決壊して一気に削られたような跡だ。六甲山にも似た地形はあるけど、規模が違いすぎる」
カレンの呟きに答えながら、俺は必死に足を動かしていた。
勇者認定されたクラスメートたちは、魔力による身体強化でスキップするように進んでいくが、俺はオーラを全開にしてようやくついて行けるレベルだ。これが「スペックの差」というやつか。切ない。
谷底が狭まり、道が険しくなったその時だった。
横道から、飢えた獣の唸り声が響き渡った。
現れたのは、百数十体もの魔獣の群れ。巨大化したシカ、イノシシ、そして装甲車のようなサイ。
彼らは俺たちという「獲物」を見つけるやいなや、地面を揺らして突撃してきた。
「隠れる場所も躱す場所もないわね。……正面突破よ! カレン、リナ、援護!」
シオンが竹光を抜き放つ。
「『フレイム・ブレード』!」
竹の刀身が紅蓮の炎を纏う。彼女は『縮地』で滑るように群れの中心へと躍り出た。
空からはリナが『飛翔』で舞い上がり、和弓を番える。
「『ウィンド・アロー』!」
放たれた矢は巨大なつむじ風を巻き起こし、群れを抉るように突き進んだ。射程五百メートル。もはやレイルガンだ。矢の軌道上には切り刻まれた魔獣の残骸しか残らない。
逃げ遅れた個体にはカレンの容赦ない追撃が飛ぶ。
「『ウォーター・ニードル』!」
無数の水の針が魔獣の急所を正確に貫き、突進の勢いを削ぐ。そこへ、炎の旋風と化したシオンが肉薄した。
「天衝幽玄流奥義――『桜雪一閃』!」
一振りの刹那、無数の斬撃が桜の花びらのように舞い、巨大な魔獣たちを一刀両断する。切られたそばから魔核を残して燃え尽きていく様は、もはや虐殺劇だった。
わずか数分。百を超える魔獣の群れは、俺の出番が来る前に全滅した。
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