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三百年目の後始末と、暗殺者の特別授業

 当時のトレミエール王女が女神アステールの神託を受け、異世界から勇者を召喚。多大な犠牲を払いながらも龍魔王を封印することに成功したが、その際に勇者はこう言い残したと言われている。

「この封印も、三百年しか持たない――」

「龍魔王の正体は、この世界が生み出した最大の『被害者』であり、憎悪の化身でした。封印が解けつつある今、ローズ王女が再び神託を受け、召喚されたのが……あなたたちなのです」

 ソフィアさんが話を締めくくると、部屋には重苦しい沈黙が流れた。

(……なるほどな。勧善懲悪のヒーローショーじゃない。これは三百年前に人間がしでかした『大火傷』の後始末だ)

 サンカとして「裏の歴史」や「ドロドロした権力争い」を見てきた俺にとっては、龍魔王の動機は理解できすぎるほど理解できた。だが、そんなバケモノ相手に、俺たち(主に俺以外の勇者様たち)が戦わされるってわけか。

「……タクミ、あんた顔色悪いわよ。怖気づいた?」

 シオンが挑発するように笑うが、その手はわずかに震えている。

「いや、ただの寝不足だよ。……それよりソフィアさん、龍魔王の弱点とか、封印の方法とかは?」

「それが……記録には一切残っていないのです」

(――おいおい、マジかよ)

 希望の柱だの勇者だのと持ち上げておいて、攻略本なしの無理ゲーかよ。

 ソフィアさんの重すぎる歴史講義はそこで幕を閉じた。

 悲劇的な話ではあるが、肝心の「龍魔王の倒し方」も「封印の方法」も不明。これ、詰んでないか?

「魔力自体が質量を持って、あらゆる存在を擦り潰す……か。あれやな、宇宙戦艦ナ〇シコの『相転移砲』みたいなもんやな」

「局所的なビッグバンを起こしてるってことか? 勘弁してくれよ……」

 アニオタコンビのヤスキヨが独自の解釈で盛り上がっているが、要はエネルギーの塊が物理的な暴力に変換されるわけだ。そんなのどうやって防げばいいんだ。

 だが、シオンとカレンは意外にもポジティブだった。

「要は当たらなきゃいいんでしょ? 私の『縮地テレポート』なら空間ごと回避できるはずよ」

「あたしの『ワープ』もね。二人でハイタッチして勝利を確信してるけど、それ、まだレベ1のスキルだからな?」

 ソフィアさんのまとめによれば、明日の午前中にスキル特訓、午後には「瘴気の森」で実戦。

 ……急展開すぎるだろ。ご都合主義な神様に振り回される俺たちの身にもなってほしい。

――教師・秋山 side――

 城塞都市セラムの夜は早い。 だが、その暗がりに紛れて動く影があった。

「……ふむ。警備の間隔は三〇〇秒。魔法障壁の揺らぎは左記の通り。C判定ね、魔法を使うまでもない。甘すぎるわ」

 月光を背に、屋根の上を音もなく駆ける女が一人。 メガネを外しタイトな教師服を「忍び装束」へと着替えた秋山――いや、『忍者アキヤマ』だ。

 彼女が狙うのは暗殺者ギルドから依頼された、セラムの街を裏で牛耳る悪徳商人、ガストン。 表向きはセラムへの物資供給者だが、その正体はエルフの奴隷売買に関与し、ペオニア帝国に資金を流している男だ。

一時間目―― 忍び(シノガラ)の真髄

「『遮断サイレンス』……。魔力値三〇もあれば、この程度の魔法は呼吸と同じね」

 ガストンの屋敷。重厚な扉の前に立つ二人の衛兵は、背後に立つ秋山にさえ気づかない。

 彼女は懐から取り出した極細の鋼糸を、音もなく衛兵の首に巻きつけた。

「……っ!?」 「静かに。教育的指導の時間よ」

 一瞬の交差。

 抵抗の暇もなく衛兵たちが崩れ落ちる。秋山は彼らを抱きかかえるようにして、床に「音を立てずに」横たえた。殺してはいない。ただ、神経を遮断しただけだ。

二時間目――暗殺という名の「授業」

 豪華絢爛な寝室。

 酒の臭いと女の香りに包まれて眠るガストンの枕元に、秋山は「影」のように現れた。

「だ、誰だ……!? 貴様、衛兵はどうした!」

「彼らなら夢の中よ。ガストンさん、貴方の帳簿を見せてもらったわ。帝国との繋がり、そしてエルフの拉致……。貴方の成績表は『落第レッドカード』よ」

「ひ、ひぃっ! 助けてく――」

 絶叫が上がるより早く、秋山の手元で冷たい刃が閃いた。

 それは彼女がこの世界に持ち込んだ『サンカ』のクナイ。

惨事間目――スキル:『暗殺』発動。

 心臓を一突き。魔法で強化されたその一撃は、ガストンが隠し持っていた「身代わりの守護石」ごと、その命を貫いた。

「……ふぅ。これで一人目。少しは街が綺麗になったかしら」

四時間目――プロの事後処理

 秋山は返り血一滴浴びることなく、手際よく証拠を隠滅していく。

 彼女の目的は単なる殺害ではない。ガストンが持っていた「トレミエール王国の王族や貴族との取引契約書」だ。

「これをゆすりのネタに王族の中に潜り込めば、タクミの監視も楽になるわね」

 秋山は不敵に微笑んだ。

 生徒たちが必死に生きる術を学んでいる間、彼女はすでにこの世界の「闇」へと手を伸ばしていた。

「頑張りなさい、タクミくん。先生わたし手の平で……、死なない程度にね」

 再び「凛とした女性教師」の表情に戻った彼女は、夜の風に乗って闇の中へと消えていった。

◇ ◇ ◇

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