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布石の話
シキの足音が遠ざかって行くのが廢縞十鬼にも聴こえたはずだった。
さぁ、追ってこい。
俺は『定規』と『芯』を組み合わせて無数の糸の罠を張る。『芯』は鋭く、ほとんど無音で壁面に突き刺さり『定規』を固定する。両足の死んだ俺にできる唯一の抵抗だった。
「……もしもし」
塀越しの声に心臓が飛び出そうになった。しかしそれは俺に呼び掛けられたモノではないらしかった。
「へ? ……あぁ、もうめんどくさいなぁ。わかりましたわかりました、丁度対象にも逃げられたみたいですしね。そっちの仕事を優先させますよ」
パタン、と音がした。……携帯電話を閉じた?
「せっかく楽しい相手だったのになぁ……、あっちが全力じゃなかったのが惜しいけど」
廢縞十鬼のぼやき声が遠ざかって行く。どうやら別の仕事の催促らしい。
「……はぁ」
仕留め損なったのか仕留められ損なったのか俺には判断が付きかねた。
俺はもうあいつはなにをしても死なないような気さえしていた。




