投擲の話 捕食の話
廢縞十鬼がジャケットの袖の部分を引っ張るとジャケットが破れた。そういう仕込みをしてあるらしい。どうでもいいが下の服は縞模様の灰色だった。大きく円を描くように振り回す。布の軌跡が美しい。とか思っている場合ではないらしく裏地のあちこちから大小様々なナイフが宙を舞った。
「 “捕食者”が殺し技第一位、『蜂の巣』 」
ゾッとするような悪寒が体を覆いその刹那後に金属の刃が一斉に俺に向いて飛来した。
とはいえ別に超能力とかではなく信じがたい速度の手掌と指の動きで空中のナイフを一手に四、五本を投擲。それを落下するまでのあいだに両手で繰り返しているのだが正直それは超能力の領域だろ?!
同じ殺し屋として見とれるような指使いだったが死の恐怖がギリギリで恍惚を上回り俺は後ろのブロック塀の向こうに跳んだ。
間に合うか……?!
走り高跳びのベリーロールの要領で高い塀を飛び越えて途中で突っかかれば俺は死ぬとか言う考えを振り捨て頑張って跳んでる最中に左大腿に二本と脹ら脛に一本と右足首に一本の計四本のナイフが突き刺さり傷口から灼熱が噴き上げた。
だがそれだけでは終わらない。落下。衝撃と同時に四本のナイフが更に深くまで抉り筋肉繊維を食い破る。
「っ……、」
俺は悲鳴を押し殺した。痛覚神経、いまだけ死ね。
投擲されたナイフの数は目算で4〜50本はある。
いかにあの化け物でも全神経を集中させる必要があるはずだと信じたい。そうであると仮定してその中で俺の塀からわずかに伸びた足に突き刺さった“たった”四本のナイフに気づけるだろうか?
塀を見る。血は張り付いているだけで向こう側を越えていない、と思うが確信はできない。
あまり多くの情報を与えるべきではない。
完全にかわせたと思い込ませたい。
「シキ、行け……」
こちらに居たシキは戸惑った目をしながらも一応、俺に従う。
軽い足音が遠ざかる。
できる限りの布石は打った。あとは罠。
これで無理なら、死ぬしかないか。




