勇者到来、そして覚悟
俺は未来を見る力で、この先、勇者がいつ襲ってきてどこを襲うのかというのをしっかりと把握した。魔族を救うため俺はできる限りの力を尽くした。
それからの日々は次の勇者到来への対策の日々だった。攻めてくるであろう場所の補強、そこに住んでいる魔族の避難などやることは様々だ。
対策はかなり順調だった。これだけやれば未来も少しは変わってきているだろうか…
もうそろそろ未来を確認してもいいのではないかと思い、もう一度未来を確認した。
…嘘だろ…
悪化している。明らかに対策を取る前より今の方が状況は悪くなっている。元気で働いてくれている魔族、家族を守るためだと言って毎日欠かさずに手伝ってくれている魔族…
ボロスさんもクレスもみんなみんな死んでしまっている。
こんなの嘘だ、なにか嫌な夢でもみているんだろうと自分に言い聞かせもう一度未来視を使ってみる。やはり変わらない。
勇者がチートすぎるのだ。こちらの取った対策は打ち破られ、その対策にイラついた勇者はその怒りに身を任せ魔族を殺す。だから、対策を取ったがゆえに状況が悪化した。
多分、この勇者とやらは元は俺と同じような奴なんだろう。こいつらは元から人族の生活圏でこの世界に生まれたのだろう。魔族が悪者だと思いそう教えられこのようなことをしているのだ。それは決して悪いことではない。仕方の無いことなのだ。
畜生、俺はこの力でみんなを救えると思った。その行動が裏目に出てしまった。その事実が今俺にのしかかってくる。何もしない方が良かった、俺なんかが調子に乗ったからこうなるんだなどと後悔の念が押し寄せてくる。
だいたい、こんなこと俺を信じてくれているボロスさんやクレス、魔族のみんなにどうやって説明すればいいんだ。
いや、待てよ…
まだ完全にダメになったわけじゃない。対策の取り方を変えればいいのではないか?
と、翌日からも試行錯誤して対策を取っていった。毎日毎日夜寝る前に見る未来はこの街の消滅、魔族の抹殺だ。もうダメなのだと俺に思わせる。トラウマになってしまった。毎晩もう仲の良くなった者たちの死に顔を見るのだ。こんなの耐えられるわけが無い。
対策を取り、皆が万全だと思っている中俺は絶望した。その絶望の中ついに勇者が翌日現れるところまで来てしまった。俺は一体どうすればいいんだ…
「ライデンさん!こんな所にいましたか。お疲れではないですか?今日はしっかりとおやすみください、ついに明日私らの運命は決まります。とは言ってもあなたの目には明日のことがハッキリとわかっているんですよね。」
「クレスさん…」
この何も疑わない目、明日勇者を退けることができると信じきった声、その全てが俺の意識を罪の意識へと向けていく。心無しか顔が歪んでいく。そんな表情をクレスは見逃さなかった。
「どうしましたか?なにか嫌なことがこの先あるのでしょうか?」
「そ、そんなことはありません!!必ず明日勇者が撤退する所を見ることが出来るでしょう!!!」
あー最低だ嘘を吐いた。そんな未来どう見たってないのだ。
「嬉しいです。そこまで私らのために尽力して頂いたのもそうですが。そんなに考えてくれているというのが。明日何が起きても私はあなたへの感謝は変わりません。多分おじさんもこの街のみんなも変わらないと思います。」
何かを悟ったように、俺の嘘に気づいたかのように
それでも言及せずに、感謝の念を伝えてくれている。本来の俺なら可愛い女の子こんな言葉をもらい心が飛んでいるはずだった。
ただ、俺の心は今痛い、痛すぎる。明日この笑顔もこの子も全て無くすのだと考えると辛い。
「優しいお方ですね。そのような真っ直ぐな心、俺はあなたのこと好きになってしまいそうだ。」
未来視では言うはずのない言葉、ふと心の内から出てきたこの言葉。この時に気づく、未来とは必ず一通りじゃないんだと…
「す、好きだなんてそんなこと言われたら…」
クレスの顔が赤くなっていく、そのうち走ってどこかへ言ってしまった。これも未来視では見れなかったことだ。言葉1つでこれほどまでに未来が変わるのか…
気づくにはあまりに遅すぎたのかな。
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ついに、勇者到来の日
俺は眠れずにほぼ徹夜状態だった。ゆっくり眠れる方がおかしいんだ。
あの後俺は独り言を繰り返し未来を見るというアホみたいなことを繰り返していた。当然なにも未来が変わるわけでもなく、何度も何度も知り合いの死に様を見るハメになった。
今の俺はひどい顔をしているだろう。クレスには見せれないなこんな顔
「おー小僧!!お前のおかげで昨日はよく眠れたぞ!お前は元気がないみたいじゃないか。まぁこれまでの日々の労働がかなりキツかったのだろう。お前のおかげでこの街は安泰なのだ。寝ておけ寝ておけ!!」
ボロスさんだ。俺のことを完全に信頼している。疑う余地がないって言うほどに…それが俺を苦しめる。
いても立ってもいられなくなり、おれはこの場所から走り去っていった。
どんな言葉でもどんな対策でもこの街はもうダメだ。俺のせいだ。俺が俺の力を過信しすぎたせいでこの街は…
「ライデンさん?こんな所にいましたか。」
来るのはわかっていた。わかっていたがやはり顔を合わせられない。
「そんなに思いつめないでください。どんなことでもお話ください。私らはあなたのおかげで希望が持てているのです。ただ、絶望するだけだった勇者の到来を希望が少しでもあると思えているのです。たとえこれが上手くいかなくても、誰もあなたのことを責める人はいません。ていうか、責める人は私が許しません!」
あー多分この子は俺の嘘に気づいている。昨日は半信半疑だったのが、嘘だということで確信しているんだ。隠せないなこの子には
「この街は焼かれます。それも対策を取る前よりも遥かにひどいことになります。この街のみんな殺されます………」
未来で見たこと、事実を伝えて言った。
クレスは悲しい顔をしたが、最後には笑顔でこう言ってくれた。
「そこまで私らのことを考えてくれていたのですか。これは魔族のことであって、人族のあなたには関係がないことです。なのにここまで尽力してくれたあなたには感謝しかありません。」
嘘じゃない。嘘をついている目ではない。本心で心の底から出てきた言葉だった。
「失望…しましたか?」
「何をおっしゃいますか!あなたはとても優しいお方です!これは私もおじさんもみんなわかっているのです!そんなお方を責める言葉はありませんよ!!!」
どこまで優しいんだこの子は…
そして、守りたい、この子も俺を信じてくれるみんなもと強く思うと
「逃げましょう!!!」
ふと出た言葉、昨日もあったな未来視では見れてないこの感情に任せた言葉。そして、未来が変わっていく
街は焼かれているがみんな無事だ。山奥に逃げたんだ。
笑えてきた。今まで悩んでた俺はなんだったんだ。
表情がどんどん晴れていく。クレスは頭から?が出てるような顔をしている。不思議がっているな。
それもそのはず、絶望して真っ暗だった俺の表情がいきなり快晴になったのだ。不思議に思わないはずがない。ただ、説明している時間はない。何も言わずに広間へ走っていった。
広間へ行くとそこでは、ボロスさんが街の人たちに声をかけていた
「小僧が勇者への対策をしてくれた!!!この街は安泰だ!そうだろみんな!!!」
「「「おーーーー!!!」」」
「俺は寝る!!!」
いや、なぜ寝る…なんてツッコミは置いておいて
「皆さん!!!」
「お!小僧さっきはどうした?」
「その説明はあとでさせてください。皆さんあの山奥まで避難してください。必要最低限の荷物をまとめて急いで山奥まで!!!」
がやがやしだした。ただ、皆はなんの迷いもなく荷物をまとめ30分もしないうちに荷物を持って広間へもどってきた。ここまでは俺の未来視でみたのと変わりない。
このまま行けば!!!…
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山奥に避難できた。街とは言ってもあそこにいたのは魔族1000くらいだ。かなり少ないほうだろう。
「しかし小僧よなぜ逃げたんだ?対策は…」
「おじさん!話があります。来てください」
クレス…この子は優しい。俺の口から伝えるのは辛いだろうと気持ちを汲んでくれたんだ。
ボロスさんとクレスがもどってきたとき、ボロスさんは悪いことをしたと言うような顔をしている。なぜそんな顔をする。期待を裏切り嘘を吐いたのは俺なのに…
「すまねぇ小僧、辛い思いをさせたな。」
「失望しましたよね。期待させて嘘吐いて、謝らないでください。謝るべきは俺なんです。」
「失望?何言ってんだ小僧、俺らは今生きてる。街はやられたかもしれねーが命が無事なんだ。それは誰のおかげだ?俺はわかるぞ。いや、みんなわかっている、お前のおかげだ。確かに嘘を吐いたかもしれないが、救ってくれたことに変わりはないんだ。だから、ここにお前を責めるやつなんて一人もいやしない。」
「そうだ!!!」
「そうです!!!」
ボロスさん…みんな…
クレスといいボロスさんといい。やっぱり魔族って優しいや
涙が出てきた。
「だから言ったでしょう?ここにはあなたを責める者などいやしないと」
クレスは飛びっきりの笑顔でこう言った。
ただ、俺は知っているこの後クレスは一人で泣きじゃくる。それもそうだ。先代から受け続いできたあの街をあーも簡単に焼かれているのだ。泣かない方がおかしい。
俺はクレスを泣かした勇者、人族に怒りを覚える。俺も他人のために怒れるんだな…
そして、誓うのだ。もうこれからクレスが泣かなくていいような未来にすることを
魔族のみんなが幸せである未来を作ることを




