勝者と敗者
「勝者、チャシャ猫!」
寝ぼけ爺さんの言葉によりラッパ音が再び耳を襲う。しかし、それと同時に襲ってきたのは怒鳴り声であった。
「納得いきませんわ!!」
首を動かせば、女が顔を赤らめて憤慨する姿があった。わたしは女の言葉も気持ちも最もだろうと思い何も言わず静かに頷いた。すると女は「同情しないでくださいまし!」と再度怒鳴られてしまった。寝ぼけ爺さんは困ったようなに眉を下げて片手で頬を撫でた。
「しかしのぅ……」
「第一、私はこの人間の為に”力”を一切使わずに闘ったんですわよ!」
「当り前じゃ。
大人なんじゃから、子供には広い心で立ち向かわねば」
「だからって、あの人間は私の伴侶になる人を盗った、云わば泥棒猫なんですわよ!?」
「ちょっと待て!?
なに勝手にわたしの事を、”泥棒猫”なんか言ってるのよ!
わたしは”あんな男”と結婚する気なんて、一切ない!!」
地団駄を踏む女の言葉に流石のわたしも黙ってはいられず、つい口を出してしまう。すると女はわたしに睨みをきかせて見つめてきた。あまりの迫力に言葉を噤んで、生唾を飲み込んでしまう。
「”あんな男”ですって!
あの方に向かって、なんて物言いを!!」
「あんな男を”あんな”って言ってなにが可笑しいのよ?!」
「あの方は大鴉の中でも最高地位の者なんです!
貴女のような人間がおいそれと合える御方では無いですわよ」
「たかが鴉が、地位も最高も無いわよ」
「なんですって!」
女の怒鳴り声で空気が震えた。しかし、わたしは臆することなく立ち向かう。
「第一、なんでわたしが鴉と結婚なんてしないといけないのよ!」
「鴉ではありません、大鴉です!!」
「どっちも大差ないわよ」
「ありますわ!
鴉は私達と違い異端の血が入った言わば混血の集まり、大鴉はいまなお受け継がれている純血を守る純血一族ですわ!!」
「別に鴉の内情なんて興味無い」
「聞いておいてなんですの、その物言いわ!」
「別に聞いてないわよ、勝手にアンタが喋り出したんでしょう?」
「あーいえば、こーいう!」
憤慨する女を前に、わたしは一人思った。
(なんだか母と話している気分)そんな言葉など口に出せないと心で笑いながらわたしは再び女と対峙した。その近くで、男がわたしたちのやり取りを見ている事を忘れて。




