元凶
倒れている男の傍らにはわたしが荒ら息を必死に整えている最中であった。さて、このような結果になったのには数分前へと遡らなければならないのである。まったく本当、なぜ鴉が頭など良いと説いたのだろうか。ただの大馬鹿だろう。
鴉と男が同一人物。それに対してのショック感と言うかなんというか……目の前で起きた非現実と言うか非科学的な現象に脳が処理能力を上手く発揮できないでいた。するとそんなわたしをあざ笑うかのようにして男が詰め寄ってきた。
「どうです?」
にこやかに笑う男の言葉にわたしは首を傾げた。この男が言っている意味が全然理解できなかったからだ。そもそも理解したくない。このまま扉を閉めて鍵を閉めたい気分である。しかしそんな事をした結果、器物破損の罪にさせるほど呼び鈴を鳴らし続けるであろう。五月蠅過ぎて敵わないので止めてもらう為に出てきたのだ。仕方が無い。
よし、話を戻そう。まったくもって理解できない現状。首を傾げ男を凝視していると、男の眉間に皺が寄る。
「えっと……喜んでいただけたかな?」
「は?」
ここでやっと言葉が出た。しかし意味の無い気の抜けた声だ。けれどそんな事などどうでもいい。今この男は何と言ったのだろうか? 喜んだ? なにが。このゴミをわたしに渡した事をか? 本当に息の音を止めてやろうか。
しかし、そんなわたしの心情など露も知らない男は苦笑交えて話し始めた。
「ほら、女の子って光物が好きだろう?」
確かに光物は好きだがハンガーと針金は光物の分類なのだろうか? むしろわたしには狂喜の分類に入る。このままこの男に刺してしまいたい。
「それにどうやら君の家は皇族のようだね。
昨日は失礼したよ。
何気なく置いた食べ物を片付けられた時は正気か、と思ったけど」
いろいろ突っ込みたい部分があったが全て飲み込んだ。そしてわたしは男を凝視した。いろいろグルグルと頭に駆け巡る考え、そして推理して答えが導く。この前に推理物を読んだ副産物だ気にしないでほしい。さて、わたしが何を言いたいか分かるだろうか。分かって欲しい。二度は言いたくないからだ。
「てめえが犯人か!」
言葉が荒くなったがそれは御愛嬌だろう。わたしにも八つ橋で包み隠す日本人ならではの面持ちはあった。しかしこの事実を告げられればどうだろうか。きっとヤマトナデシコの女性も舞妓で厳しく作法を教えられた気高い京都の女でも荒れるだろう。嵐のように。現にわたしは荒れている。
そうだ。昨日の惨状。憶えているだろうか。あのゴミ、寝ぼけ爺さんのせいではなくこの目の前にいる男の所業だというのだ。まだ寝ぼけ爺さんの寝ぼけ行動ならまだしも、この男は故意で置いたのである。ふざけるな、本当に羽毟って唐揚げにしてやろうか? 絶対食べないが。
そしてわたしはリビングからずっと連れて持ってきていた本に目が行く。どうせ先ほど読み終わった本である。悔いは無い。わたしは腕を上げて振り落とした。本が勢いよく男の顔目がけていったのは当然の結果であろう。狙ってやったのだから。それにしても吃驚するほど綺麗な顔面キャッチである。素晴らしい。拍手を送りたい。自分に。
しかしそこで止まらないのが怒りの荒らし。男が痛みで悶絶しているのを良い事に、わたしは男に突撃した。そして押し倒し、腹に座りこみ、無言で二度目の追撃をしてやる。そしてそこに丁度、騒がしい玄関の音を聞きつけてまんじゅうとだんごが顔を出した。わたしはそれを無言で一瞥すると、目でこの男を指しけしかけた。
すると面白いぐらいに男は動揺した上に気絶してしまった。わたしは無言で男の腹から退く。するとそれを合図にポンと軽い音を出し、男の姿が大鴉へと戻る。それを見届けわたしは前に買った猫のゲージを取りに家の中へと駆けだした。見張りとしてまんじゅうとだんごを置いておく。
一度目を覚ました男だったが、二匹の猫を見て再び撃沈したのは二匹しか知らない。




