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祈ればいいってもんじゃない!  作者: 鹿音二号


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第十六話 勇者の悩み

出瑠がこの世界に呼ばれて、半年が経った。

最初は、突然『別の世界』だという見知らぬ場所に、自分の意志も関係なく『誘拐』され、呆然としていた。

さらには漫画かゲームのストーリーのような意味不明な話を、見慣れない格好の人間たちにさも当たり前のように聞かされて、そのうち腹が立ってきた。


(期末どうするんだよ!単位はどうしてくれんだ!)


自分は平凡な高校生だったが、それでも夢があった。父と同じ、医者になるという夢が。

生半可な努力ではなれない。幸運なことに、自分の頭の出来は良い方だった。あとは努力するだけだ――と、中学に上がる頃には覚悟を決めていた。

それを、


(人生めちゃくちゃってやつ?)


一体、元の世界でいなくなった自分が、どんな扱いになるのか不安だった。

行方不明?家出?ちゃんと息子を可愛がる両親だったから、突然姿を消した出瑠を心配してくれるだろう。それも心苦しい。

たしか、行方不明になって一定の年数が経てば、死亡扱いになるとか。

冗談ではなかった。


それに、召喚とやらをされた先では、魔王とかいう世界の危機から救ってくれ、と、とうてい信じられないお願いをされた。誘拐し、退路を断った上で、お願い。脅迫だ。

けれど、似た話は知らないわけではなかった。流行りのネット小説でいくつか読んだ。普段は読まないライトノベルというジャンルで、何かの暇つぶしだったか、よく覚えていないが有名になっていたタイトルをつまんだ程度だったが。

ただの小説だと思っていた、しかもこんな状況を喜べるほどオタクでもない出瑠が、なぜ。喜びそうな奴は他にいただろう。

さらには、人違いだと言う始末。

出瑠が怒ったのは、無理もないはずだ。

しばらくは感情が高ぶって、周りを信じられなくてずいぶん時間を無駄にした。


不幸中の幸いなのか、異世界の生活は悪いものではなかった。そのうちに、やはりこの世界は本当に困っているのだと、実感するようになる。

とくに、自分を召喚した聖女、イシスとかいう少女は、可哀想なほど必死だった。

出瑠に決心させたのは、この少女だった。

――一度召喚とやらをされてしまっているのだ、なら、彼女たちが気が済むまで付き合ってやってもいいかもしれない。

どうせ期末試験は終わってしまっている。




ガキンッ!、と派手な音がして、出瑠の手から剣の柄がすっぽ抜けた。すぐにそれは近くの地面に落ちて、出瑠の目の前には別の剣が切っ先を向けていた。


「……参りました」

「ふむ、やはり筋は良いようですな」


壮年のヒゲを顎にたくわえた男性が、出瑠に向けた剣(刃は潰してある練習用)を脇にしまうような仕草をした。


「そうですか?」

「今の敗因は?」

「……踏み込みが甘かった?あともう少し思い切って数歩大きく足を伸ばしていれば、まあ……剣はまだ俺の手にあったと思います」

「よろしい」


満足そうに男性……騎士団長は、さらに2、3言出瑠にアドバイスしてくれた。

騎士団長というからには、兵士のトップだ。権力だけご立派というわけではないらしく、実力はやはり国でも頂点らしい。そんな人がぺーぺーの素人に付き合ってくれるとは……期待の高さがわかってちょっと心苦しい。ありがたいことではあるし、バカにせず褒めてもくれるというコーチ力の高さ。さすがと言える。


彼は今日はここまでらしく、丁寧に礼をして去っていった。

訓練場――城の一角にある騎士団の詰め所に併設されたそこに、騎士はまだたくさんいる。彼らの中から次の練習相手は好きに選んでいいと言われ、出瑠は辺りを見回した。

ふと、目の端に何かが写った。

練習場の周りは建物と回廊に囲まれていて、その中にちらほらと『勇者』の姿を見ようと見物客の姿もある。

目に入ったのは彼らの姿かと思ったけれど、違和感を感じて、もう一度目を凝らして……


「すみません、少し休憩させてください。気晴らしに、ひとりで……」

「かしこまりました。あまり遠くへは行かれませんよう」


従者としてついてくれている騎士に、練習用の剣を渡した。以前安全のためと無理やりついてこられていた時より、今はかなり融通がきいて出瑠もほっとしている。

出瑠のやり方はずいぶん知られたようで、練習場を離れても誰もついてこない。


「……こっちだったよな?」


建物が古い部分で、石造りの回廊が複雑に入り組んでいる。迷わないように慎重に、けれど少し焦って出瑠は進んでいく。

何度か左右に曲がり、そうして見つけたのは……


「……君!」


城の中心には程遠い、外側の回廊、その端にうずくまる人。


「大丈夫か!?」


その人の近くに出瑠が膝をつくと、その人はのろのろと顔を上げた。

「……イズル様……」

「具合が悪いのか」

「たいしたことでは……少し立ち眩みがしただけです」


そう言いながら、彼女の顔は青白い。さっき、建物の影に隠れるように移動していたときから、フラフラしているように見えた。


「大したことに見えるけど?立てるの?」

「ご心配には及びません」


そう言い切ると、彼女は何事かを呟き、それから立ち上がった。


「お見苦しいところを」

「……忙しそうだけど、休んでる?」

「ええ、もちろんです」


にこりと笑う彼女が、明らかに何かを隠しているわけだけれども……


「――そう」


彼女の口を割らせるには、根気がいりそうだ。

それでは、とお辞儀をして、彼女は足取りはしっかりと去っていく。


「……うーん」


残された出瑠は、もやもやとしたまま、しばらく立ち尽くしていた。


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