第十五話 勇者と国王
これ以上は国王と一緒に話し合いを、と提案すると、今までの気難しさが嘘のようにあっさりとうなずいたイズル。
夕方、謁見が許された国王は、とても嬉しそうだった。
「ありがたいことである。イズル殿、よろしくお願い申し上げる」
「勝てるかどうかとか、本当に分かりませんよ」
「構いません」
『勇者』を召喚した以上、魔王討伐は必ず行わければならない。
言い換えれば、形だけでもイズルが魔王討伐へ向かうということが、カヤマンディ王国にとっては責任を果たせるということなので。
「それで、魔物に対しては、強い力をお持ちであると聖女から報告がありましたが」
「ああ……」
イズルは考えながら、教えてくれた。
彼の元の世界は、魔法もなく、魔物もいない、教会はあるが聖女のように目に見えた奇跡を起こせるような人間はいないらしい。
昔に世界中を巻き込む戦争をして、甚大な被害を出した。それに懲りた各国は平和を目指して戦争は悪だと考えるようになった……つまり、争いがなく平和であり、この世界よりも安全で、イズルのような一般人は剣やその他の武器を触ることはないという。
「俺は運動神経は悪くないし、剣は訓練すれば人並みにはできそうだ」
こっそりと抜け出して、冒険者と混じって弱い魔物と戦っていたとか。
「魔法は……徹底的に教えてもらわないと」
冒険者であり魔道士である仲間に簡単に教えてもらったが、イズルの魔力は強すぎてコントロールができない。制御できず危険で、よっぽどがないと使わなかったようだ。
「だけど、魔物に対しては、剣は型も何もなく振り回したのに当たる深く刺さるわ、魔法も、唯一カタチになったあの小さい火が出る『着火』も、火の玉になって魔物は燃えるし」
あとからもう一度同じ要領で魔法を使っても、魔法の名前のとおり焚き火の火種程度が出てくるだけ。魔物がまるまる焼けるような大きな火は出なかった。
「まだ実証段階だけど……今のところ、魔物にだけ、そんな強くなるっぽいな、俺は。仲間に手合わせとかさせてもらったけど、全然ド素人は間違いなかったし」
「……イズル様」
ベアフレートがこめかみに手を当ててうめいた。
「今度からはお一人であぶないことは……」
「あれ、口調もどっちゃったわけ」
からかう笑みで王太子に答えるイズル。
「大丈夫だって、次は止められないんだろ?無茶はしないって」
「それなら良いのですが」
「ああ、でも、冒険者は続けたい」
「なぜです?」
これから魔王討伐に向かうというお人におかしなことかもしれないけれど、わざわざ危ないところへ行くような職に就きたいだなんて。
「実戦経験が欲しいし、あと、魔王討伐の際の仲間を自分で選びたいんだ」
「なるほど、腕のいい冒険者を見定めるということですね」
イシスは納得する。
けれど、ベアフレートは難しい顔をした。
「騎士団の強い者をつけようと思ったのですが」
「その人にも会わせてくれ。だが、決定権は俺に欲しい」
「……分かりました」
イヅルの言うことは合理的だった。
自分の戦う技量を上げるために冒険者としての実績を上げる。
これから世界の敵と戦うための大事な仲間を、自分の目で見極めたい――粗悪な人間に出会うこともあるだろうけれども、イズルほどの慎重さがあればそうそう引っかからないだろう。
ベアフレートは国王と頷きあう。
「国として支援はできる限りいたします。それと……イシス」
「はい。祝福ミスリルの武具を、ドワーフに作製するように要請をしたいと思います。それができ次第、旅立っていただけたらと」
重要なのは、勇者としての力を持ち合わせていなかったイズルの能力の底上げだ。
「ふむ、伝説の……」
国王が顎を撫でて、何やら感慨深そうだ。
「うちに、伝説の武具ができるかもしれぬということか……」
「父上……」
年に似合わずきらきらとした目になった国王に、ベアフレートが呆れた顔になった。
「真面目な話なんですから。おとぎ話に感激する子どもと変わりませんよ」
「いいや、こう、俺も、そういう伝説とかには弱いな」
「イズル様まで?」
国王に相槌を打つようなイズル。
国王はぱっと笑顔になる。
「わかってくださるか!」
「話になってた千年前の聖剣とか気になるよな~」
「おお、それは!今度見に行かれる良い。友好国であるから儂が頼めば無理もなかろう」
「え?ホントですか!」
なんだかキャッキャと会話が弾む国王と勇者に、聖女と王太子はすっと身を引いた。
「気が合うようで何よりですわ……アフィ、一緒に混ざらなくてもいいの」
「いや……私は、これからの予算編成が気になってそれどころじゃないんだよ……」
国王はそういうところはお気楽で、伝説の武具がいくらで作られるのかは興味がないのだ。お鉢が回ってくるのは宰相と、次期国王のベアフレート。
これから忙しくなりそうだ。




