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祈ればいいってもんじゃない!  作者: 鹿音二号


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第十四話 建設的な話をしよう

イズルが手慣れたようにベルを鳴らして使用人を呼んだ。

見慣れない少女と、妙齢の、たしか子爵の令嬢だった気がする。

お茶を、とイズルは申し付けて、それでようやく自分たち以外に部屋には誰もいなかった事に気づいた。イズルは、イシスたちのさっきの姿を誰にも見せるつもりがなかったのだ。

ほう、と無意識に張っていた肩から力が抜けた。

これで――ようやく、魔王討伐への一歩だ。


「死なないようにって自分でいっといてなんだけど、具体的には?このままだと俺はちょっと人より強いだけなんだろ?」

「絶対的に強い武器と防具を作ります」

「チートってやつ?」


聞いたことがない単語だ。


「……良くは分かりませんが、ドワーフの伝説に、最高級のミスリルの祝福精製、さらに聖女の祈りで防護と刃を極限まで高める鎧や剣の生成があるようです。ドワーフたちはとある理由で、まず人間とは交流をしませんが――」

「我が国の威信をもって、彼らと交渉します」


ベアフレートは、あまり機嫌が良さそうではない。けれど自分の立場をよくわかっている。

対してイズルはすこし楽しげだ。


「じゃあ、それで。負けなしってことだろ?」

「とある国に過去の勇者様がお使いになった剣が残っているのですが、千年近く経っているというのにサビひとつつかず、触れるだけで指が落ちるとか。実際、この目で確かめております」

「そりゃいいな。伝説の武器って、いかにもだな」

「そして……もちろん、帰還の儀式は行います。我が名をかけて。ですので、魔王を倒すよりも、ご自身の命をお考えください」


イズルは、きょとんとしたようだ。


「無理を承知で、何も知らない貴方様をこの世界に呼んだ……そして、命を懸けろというのはあまりにも身勝手だと、最初から思っていたのです」


それに縋るしかなかった。世界が滅ぶかもしれないときに、一縷の希望。

けれど、何も彼が命をかける理由は、なにもないのだ。

じっとイシスを見る黒い瞳は、まっすぐで、吸い込まれそう。


「……分かった。心に留めておくよ」


部屋にノックの音が響いた。

メイドたちはもうお茶の準備をしていたのか、お菓子やお茶のポットをきれいにトレーに並べて抱えてきた。


「ありがとう」


微笑むイズルに、少女なんて赤面している。

……分かっていて、イズルはやっている。

どうやら、思った以上にいい性格らしい。

テーブルに並び終えて、メイドたちが去っていくと、イズルはにこりと笑う。


「大丈夫だって、手は出してないよ」

「イズル様……女性の前でそんなことを……」

「はは、出瑠様、なんてかしこまらなくていいよ、俺は君たち流で言えば平民なんだし」

「「え?」」


予想外だ、元の世界での貴族だと思っていた。

所作は美しいし、服も見慣れない形だが上等のものだった。


「平民……失礼、貴族ではないのですか?」


ベアフレートは面食らったまま聞き返す。

イズルは得意げに笑う。


「ド平民さ、父も母もサラリーマン……ええと、商館とかいえば良いのかな、そういうところに雇われてる一介の働き人さ。特別裕福でもないし……ああそう、俺の国じゃ貴族はとうの昔に特別階級から降りて一般人……みんな平等だよ」


世界の大半がそうだな、と、あまりにも不思議なことを言われて、開いた口が塞がらない。


「で、では、国はどのように成り立っているのですか?」


ベアフレートが身を乗り出すと、ストップ、とイズルは手を前に突き出した。


「今度話すから。今は、ほら、勇者についてだろう?」

「は、はい」

「かしこまらなくていいってば。俺たぶんイシスさんより年下よ」

「え!?」

「17歳」

「……見えない」

「だって横柄な態度でしとかないと、舐められたら困るしね」


イズルは肩をすくめる。


「でも、必要なかったみたいだね。俺、たまにいなくなってただろ?城の中や外で、国と王族、聖女の話を聞いてたんだ」

「……それは、言ってくだされば……」

「護衛もつけてもらってたけどさ、監視じゃないかって疑ってたよ。そういう感じじゃないんだ」

「ええ、御身になにかあれば大事です」

「ほんとに親切だなー」


目を細めて、イズルは笑う。


「嘘つかれて人形みたいに勇者させられて、土壇場で裏切られたりしたらたまったもんじゃないって。この世界のことまったく知らねえんだもの。異世界人に人権なんてないだろうし」

「じんけん?」

「え?それもないの」


うわーほんとに中世って感じ、となにやら呆れているイズル。


「まあそれも今度な。で、聞きまわって、どうやら本当に魔王が復活しそうで、困ってるっぽいってのは分かった。それに、この国に、少なくとも王族は俺を利用して利益を貪ろうとか、ていのいい使い捨ての駒に、とか、そういうことを考えているやつがいなさそうってのも」


疑心暗鬼だった、とイズルは言った。


「そういう物語でもあったのですか……?」

「ん?ああ、そういうのもあるし、そもそもいきなり自分の意思関係なく拉致られて異世界にって、驚くしビビるだろ」

たしかに、いきなり見知らぬ土地に行かされて、さあ勇者をやれっていわれたりしたら、イシスだって警戒する。

「おまけに人違い?とか言われたら、いいかげんにしろって思わない?」

「それは……」

「けど、さっきのでだいぶ気が済んだから、この話はいったん置いておく」


始終冷静に見えていたけれど、怒こっていたのも本当だったらしい。今は腹の虫がおさまったのかイズルはしれっとしていた。


「で、疑ってた俺は、まあ、冒険者?っていうの?国に所属してなさそうな人たちにも近づいて……」

「ぼ、冒険者ですか!?」

「まさか、近づいたというのは」

「まあ聞けよ。それで、国について確信と、もうひとつ事実が分かった。

どうやら俺には、魔物にだけなら、すぐに殺せる強い力があるみたいだな」

「え!?」

「やっぱり冒険者と仕事をされたのですか!?」

「あははは」


呆れ返るイシスたちの前で、イズルは初めて声を出して笑った。



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