第十三話 試練
「は?勇者じゃないって、君たちが言ったんだろ」
「迷惑してるんだよこっちは。いきなり異世界?俺オタクじゃないから別に楽しくもなんともないし」
「却下。なんの力もないって言ったでしょ。魔王なんて、俺死ぬよ?」
「いいかげん諦めたら?」
何度会いに行って説得しても、イズルは首を縦に振らなかった。
そのうち、ただ城にいるのが嫌になったらしく、時々ふらりと姿を消すようになった。
慌てて護衛や使用人を付けさせたが、それも撒かれてどこかに行ってしまう。
これ以上付け回すと、あることないこと言いふらすと言われて、渋々彼には最低限の部屋付きのメイドを置いた。
――どうやら、イズルには召喚失敗を世間に伏せているのは知られたようだった。
「聞いたよ、君のこと。予言が失敗したんだって?」
ある時彼を訪ねると、愉快そうにそう言われた。
隣でむすりと不機嫌になったベアフレート。イシスは、なぜ彼がそんな事を言うのか分からず、とりあえずうなずいた。
「ええ、予言ではないですが。神のお言葉をどうやら聞き間違えていたようで」
「ふうん。で、今回の失敗だ」
にやり、と人の悪い顔で笑うイズル。
「世の中にバレれば、君は聖女じゃないとかいわれて追放されない?」
「それは、国王陛下がお決めになると思います。私は、自分の判断を自分の責任だと思っておりますので、釈明はいたしません」
「君の判断で、一般人の俺に、勇者を演じさせようって?」
「ええ。再度ご協力をお願いに参りました」
「……」
イズルは、椅子に座ったまま、何かを考えるように手を顎にかける。ベアフレートの方を向いて、
「王太子だっけ?君は、聖女の婚約者なんだろ?」
「そうだが」
「今日も黙ってるけど、それ、君は聖女の添え物ってこと?」
「貴殿にどう思われようと関係はないですが、ひとつ言うならば、私は望んでこの場におります」
ベアフレートはじろりとイズルを睨む。
イシスは、内心焦っていた。
もし喧嘩になろうものなら、話はますますこじれてしまう。
「あの、イズル様、」
「まあプライドはあるんだね」
しかし、さっと目をそらしたイズル。
「ちょっと試したかったんだ。それで――」
彼は立ち上がった。
「条件がある」
「!それは、お話を引き受けてくださると、」
「条件って言っただろ」
イズルは、ぴしゃりとイシスの言葉を遮った。
「俺からの要求は、ひとつ、絶対に俺を死なせないようにして、元の世界に返すと約束すること。それと――」
腕を組んで、目を細めた。
「聖女、君が誠心誠意、謝罪とお願いします、と言うこと」
「どのように?」
「そうだな……まず、膝を畳んで床に座る」
「なっ」
声を上げたのはベアフレートだ。けれど、イシスは構わず床に座った。
「イシス!君はそんなことをしなくていい……」
「いいえ、ベアフレート様。それで?」
「前に手をついて」
イズルはにこりともせず指示を出す。
イシスは迷わず手をつく。
ベアフレートが、同じように床に座り、手をついたのを見て、イシスはやめさせようと口を開く、前に。
「そのまま、頭を床につけて」
「な……」
呆然としたのは一瞬だった。
「ベアフレート様は大丈夫ですからね」
そう言って、イシスは床に額を付けた。
「我々の事情に巻き込んでしまい申し訳ありませんでした。ぜひともイズル様のお力をお貸しください。お願い致します」
「お願い致します、どうかお力添えを」
隣から、ベアフレートの声がする。
王太子にまで、こんなことをさせてしまった。
イシスは悔しくてしょうがなかった。
せめて、ベアフレートと一緒にイズルに会いにこなければと、奥歯を噛みしめる。
「分かったよ。顔上げて」
仕方なさそうな声がして、肩に手を置かれた。
「悪かった。試したんだ、もういい」
顔を上げると、イズルの申し訳なさそうな顔があった。
「立って」
手を差し伸べられて、それを掴むと軽く引っ張られた。
ベアフレートも立ち上がりかけたのを、イズルは手を掴んで握手みたいにする。
「驚いたな、もっと王族ってプライドの固まりみたいなものかって思ってたんだけど」
「……もちろんプライドはありますが、話が解決するなら手段を選びません」
「ごめんごめん」
イズルは恨みがましいベアフレートの視線に苦笑いした。
(態度違いすぎない?)
今までのは演技だったのか。
「座って」
向かいの席にイシスたちが座ると、イズルはバツが悪そうにしながら自分も座る。
「これくらいしないと、君たちを俺は信用できなかった。反省はしないけど、謝るよ。大丈夫、さっき言ったように俺を死なないようにしてくれれば、勇者をやるよ」
イズルは今までで一番真剣に、イシスとベアフレートを見た。
本気らしい。
「……はい!もちろん」




