第6話「KTO」
やはり、実際に動かすと改善点は多いな。
アラだしするのなら、全ての工程の中で四桁は改善すべきミスが発生している。だが追求は、また後日だ。来た、見た、しかも戦ったのだから上等だ。
「電磁障壁整流装置に過負荷がかかったか」
少しでも出力をあげようと、また長く維持しようと大量のEを注ぎ込み続けた結果、大なり小なりの損傷があった。野蛮人の扱いに耐えられなかったのか、あるいは脆い部品だからかなのは判断に悩むな。E管理で優先順位低かったし。
根を詰めていた時だった。フォークストン大佐に誘われて、『士官食堂』とやらで食事をすることになったんだ。交流会と親睦。最近はこればっかり気にしているな。
「士官食堂というものがある。指揮する立場のものが集まり食べる場所だ」
「そうなのですか」
「日蝕号にはないので、作った」
「フォークストン大佐。1000kmもあるのに、細かい部屋を気にするのですね」
「食事は大切だぞ、覚えておくことだ。気の悪い人間と付き合いで食べるのはまいるだろ?」
「たしかにそうです」
集まった顔触れは微妙な表情。コミュニケーションが得意な人間なら、クローンでもなんでもキビ王国で普通に暮らしていたところだ。それができないからここに居場所を探したわけで、まあ……はみだしものにパーティは辛い。
「KTOの方針を開示しておけという達しがきていてな。それを伝える場に丁度良いこともある」
「KTOーー王国軍事同盟ですね」
「そうだ。我々は第一の戦略目標を全て確保した。つまり、寝返らせる国をKTOに引き入れ、軍事力とそれを支える強固な経済圏の確保だ」
「となれば次は、全面的な戦いに移る、ということでしょうか?」
「察しが良いぞ、山中。単独でKTOへの対抗は不可能と判断したのか、各国は緊急で有志連合を編成した。宇宙戦艦二〇隻が参加するという諜報筋だ。KTOも黙ってこれに各個撃破されるつもりはない。戦力をかき集め、最初の決戦を始めようと準備している」
食事時に聞く話としてはヘヴィーだ。
「もちろん、貴殿らが正規艦隊と同列に扱われるわけがない。歯抜けにする防衛戦力の穴埋めとして、後方の星系巡りが命令された」
「忘れがちなんですが、私達はKTO内でどういう扱いなんでしょうか?そのあたりをはっきりさせておきましょう」
「キビ防衛艦隊KTO派遣艦として存在する。書類上は貴殿らはキビ自衛軍だ」
制服はニューカーマインのだけど。
「食事が冷める。さぁ、食べよう」
俺が選んだのは野菜の刺身だ。好き好んでアオムシになりたいわけじゃない。七篠がうるさいのだ。野菜を食べろ、と。
だが俺はこの野菜の下に肉を大量に隠している。策士の策だ。馬鹿な七篠には見破れまい。バレたら三倍にされるけど、お肉大好き。
ぶっちゃけ、何を食べても合成化学の賜物で高栄養だし味も良い、ただの好みの問題だ。
「あら!お裾分け!!」
「どもです。おれ、やさい、すき、おいしい、おいしい」
七篠から隠していた野菜を貰った。クソッタレ!ここは緑の地獄だ。
「山中くん、山中くん」
「もう食わねーよ!絶対載せんじゃねーぞ!絶対だ七篠!」
「いや、載せないから。どんだけ野菜嫌いなのよーーじゃなくて、あんたの問題よ」
「俺がどうしたって?」
「なんか目的とかないわけ?私の目にはどうも、阿保みたいな生き方なのよね」
「わりと失礼だよな、七篠って」
「ぶつわよ」
「こい、全部受け流してやる」
「そーゆー、馬鹿なノリじゃなくて真面目な話」
「日蝕号を強くしたい。計画は立てているんだ。AIとも話を合わせてるし、人間との交流も重視してる。強くある、強くする、男としての夢だ」
棚ぼたの戦艦だ。だが手に入れた力、どこまで試せるかうずうずする。
「あっ、丸山。お前ベジタリアンだったよな、野菜全部食べてくれ」
「山中さん、私、肉食だから野菜食べれない。そういう体なんだ。吾妻なら兎だから食べると思う」
「吾妻ー、野菜のお裾分け」
「いりませんよ!タイプ=ラビットでも葉っぱばかり食べるわけじゃありません!」
「野菜食べねーと、体に悪いぞ。おら、むしゃむしゃしやがれ」
「なら大宮に!頭緑だから緑黄色食べてそうですから!」
「それもそうだな」
「え!?僕はーー」
「ーーやっぱ嫌がってるからやめるわ」
「差別でしょ、大宮と私たちで!」
「馬鹿野郎、天下の大宮さまだぞ。寧ろ野菜を食べてさしあげろ」
大宮大権現だぞ?
「フォークストン大佐はニューカーマイン軍の所属なのですよね」
「そうだ。気になるのか、君と同じ制服の軍は」
「はっ。KTOを呼びかけ、それに同調する動きを見るに随分と前から準備されていたのかな、と」
「オフレコだが、KTOはある意味では第二案、状況の変化に合わせた想定外を見越した想定だ」
「ぶっちゃけますね」
「ニューカーマインでは常識だよ。そうだな……確かに他星系の情報は漏れにくいか。だが、星系内の機微に目を向けるのは良いぞ」
「はっ。こころえます」
「さぁ、いかにもニューカーマインの軍人が私なわけだが、普通との違いがわかるかね?」
「サイバネティクスを多用していることでしょうか」
「そうだ。ニューカーマインの軍人は、レベル三の機械化が義務づけられているし、無改造者も国費でサイボーグになる……あぁ、安心しろ。君達がニューカーマインの軍服を着ているからと、強要はしないさ。KTOへ参加する各国にもな」
キビだと、サイボーグはあまり歓迎されない。文化の違いだな。
「サイバネを赤子のときから施術する家も少なくないな」
「え!?」
驚きの声は誰だろうか。あるいはキビ出身の全員の代弁だろうか。
「異文化か。私としては、人工知能のほうが怖いがな」
「どうしてですか?」
「笹葉か。君は人工知能と親しい人種だったな。ならばわかるだろう?君は、人工知能を深く理解できたとき、周囲の反応は好意的だったか?」
「いえ……」
「私達は怖いのだ。まったく違う思考で、同列の存在が立つのはな。機械に劣りたくはない、とサイバネに頼るのも面白い観察対象だが」
「まさしく文化の違いですね。人工知能をあらゆるインフラ管理に入れてる星系もあるでしょう」
「キャッツ星系などはそうだな。ただ彼女達と話すときは、君でも頭が痛くなるかもしれんが」
「どうしてですか?」
「彼女達は宗教と殉教を知っている」
「それは……はい」
笹葉、フォークストン大佐とは滑らかに話せるんだな。日蝕号のAIが近くにいるのか?あるいは、大佐のサイバネとも親和があるのかも。
「うりゃ」
「……なにやってんの、七篠」
「お前ハムスターみたいだなごっこ」
「俺の頰を指で突くな」
「お肉詰め込んでたからね」
「お前どうすんだ。俺がもし種マシンガンよろしく、ぽぽぽぽ!て吹き出してたら参事だぞ」
「それ面白い」
「面白くない」
なにやってんだか、まったく。
誰の食べてくれなかった野菜をもしゃもしゃ食べた。全部詰め込んで、纏めて食べてしまおう。随分と長く口の中で暴れるが、飲み込めない。野菜は嫌いだ。
「まずは一勝?君は満足?」
「全然、まったく。おんぶに抱っこの戦いだ。俺はひとりで三人を倒せる強くある戦艦に日蝕号を育てたいし、その上で二対一で敵をタコ殴れる状況を作るには、日進月歩」
「先は長いねぇ」
「お前はどうなんだ七篠」
「うん?」
「居場所を探してるだろ、お前は」
「そうだよ」
「見つけられそうか?」
「君次第だよ」
「じゃ、頑張ろうかな」
「頑張れ、頑張れ」
「ったく……」
「不満があるの?山中君」
「全然」
俺は両手をあげた。頰にはまだ野菜が満たされたままだ。にっがいなーもう。
「KTOでの戦いは、思ったより違和感なかったわよ」
「重畳」
苦いものも噛み砕く。飲み込む。
長い戦いになる。まずは、補助輪で一勝だ。KTOのヘラクレスⅱについてだが、戦場に立った。間違いなく、日蝕号で作った勝利だ。ひとりでは不可能な勝利だ。
長い戦いになるだろう。
だがーー
「日蝕号は、諸君とともにある」
食堂が少し静まってしまった。
だが、すぐに元に戻る。もう少しだけ、騒がしくなって、七篠には大ウケされて。




