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珠巡り  作者: 桜咲 雫紅
二章 記憶
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情報通ですな

この話で出てくる二つ名はとある友人が決めてくれました。私はこういうのが苦手なので、正直助かりました(笑)


ですが、書きながら桜さん達にはいろいろと物申されそうだなと思いました。

一連の様子をまるで映画館で映画を見ながらポップコーンを食べる観客のようにチョコレートを頬張って眺めていた戒がぽつりと零す。


「やるね。さすが氷の貴公子」


「なに、それ」


「・・・なんだっけ?」


ガクッと盛大に崩れ落ちる春。話を聞いていた真夜も脱力している。当の戒は眠そうに目元をこすりながら暢気にチョコを食べている。


「おいおい。しっかりしてくれよ」


「え?何が」


もはや突っ込む気にもなれない二人だった。はぁ、と諦め半分呆れ半分のため息をついていると、戒は突然語りだした。


「悠紀ファンクラブで流行ってる呼び名だよ。ちなみに恭哉は炎の皇帝、一夜は森林の剣士、南絃が音速の騎士だったかな」


「お前も情報通だな・・・。ってか知ってんなら最初っから言えや!」


「え・・・。聞かれなかったから」


「聞いただろうが!」


漫才のようなやり取りが目の前で繰り広げられ、真夜は込み上げてきた笑いを口の端を引き攣らせつつもどうにか抑え、内心舌を巻きく。ファン内の呼び名まで筒抜けとは・・・恐ろしい奴。


「龍はなんて呼ばれてる?」


興味本位で聞くと、戒はメモ帳のようなものを取り出し、読み上げる。いろいろな色の付箋が貼り付けてあり、ちらりと彼女の手元を盗み見ると上から下までびっしりと文字で覆いつくされていた。


「黒炎の王子、だよ。螢は紅蓮の王子、春は疾風の嵐王(らんおう)、真夜ちゃんは青炎(せいえん)の女帝。それから桜ちゃんが紅い狼、美優ちゃんが癒しの魔女、真海ちゃんが冷徹の守護神、千夏ちゃんが氷雪の女神。生徒会・執行部メンバーには全員二つ名がついてるんだよ」


「俺、王子って柄じゃないんだけどな」


話を聞いていた螢斗が困ったように微苦笑を浮かべ、頭をかく。彼の微笑を見て色めき立つ女子生徒数名。


「そうだ。真夜と螢斗(おまえら)はこの学園に来てまだ日が浅いから知らねーよな」


「「?何を?」」


唐突(とうとつ)な春の発言に不思議そうに首を傾げる真夜と螢斗。春がなにを言いたいのかわかった戒は「あぁ」と納得の声をもらす。


「そうだね。知っといたほうがいいかもよ」


「だから何を?」


「本気(マジ)ギレしてるとき会ってはいけない奴」


一瞬何を言われたのかわからなかった真夜は首を傾げる。螢斗も同様なのか、困惑気味に目を瞬かせている。


「その人が本気でキレてるときに近付くなってこと?」


「そゆこと。校長と九条さん、あとは恭哉と悠紀くらいかな・・・。いやー、あの時はあぶなかった」


遠い目をして何かを思い返し、ブルッと身震いしてみせる春の横でパクパクとチョコを頬張る戒。もはや興味の欠片もないらしい。


「・・・・・・あの時って・・・俺らがいない間に何かあったのか?」


当然の疑問を口にする螢斗。真夜は言っている意味がよくわからないのか変わらず首を傾げている。


「ん~。まぁ今言った奴等がブチギレそうになったら逃げろとだけ言っておく。あとはお前の妹だ。巻き込まれたくなかったら覚えときな」


自分から話し出しておきながら曖昧に話を濁し、これ以上追求されたくないとばかり話を逸らす。


「噂の皇帝(エンペラー)のお出ましだ」


「恭の番か。楽しみだな」


春に小突かれ真夜が迷惑そうな態を取りながらも恭哉に視線を当てる。その瞳は良く見ないと気付かないが、嬉しそうに笑っていた。それに気付いた螢斗と龍護は顔を見合わせて苦笑し合う。まったく。素直じゃないな。


柔らかな青い目を視界の隅に映した悠紀の表情がわずかに動く。冬空色の瞳が愁(うれ)いを帯びて揺れ、薄く開かれた唇がわずかに動くと引き結ばれる。


とても嬉しそうで、誇らしげで、慈愛に満ちた、どこか母親を思い起こさせる瞳。


それは、悠紀がもう見ることのできない大好きなあの人の瞳とひどく似通っていて、胸が鈍く痛んだ。


恭哉は足元にサッカーボールぐらいの火の玉を作り、その火の玉(たま)を足で蹴り始めた。火の玉を上に蹴り上げ膝で受け、器用にリフティングを始める。これに女子は大受けで絶えず黄色い歓声がそこかしこから上がる上がる。


「「「キャー。カッコイ~」」」「カッコイ・・・バタバタ」「「「私の恭哉ぁ~」」」


女子の黄色い悲鳴があがり、数人が目をハートにして崩れ落ちる。恭哉はふっと口元に笑みを刻むとさすがサッカー部と言いたくなるような技で女子を虜(とりこ)にしていく。暇さえあれば女子に笑顔を振り撒(ま)きまくっている。性質(たち)の悪い女タラシだ。

しかも、自分が女子に与える魅力をわかった上でやっている分、余計に質が悪い。確信犯だ。


「「恭哉く~ん」」「「カッコイー。こっち向いてぇ」」「「「キャー、ステキー」」」


女子の歓声が止まないうちに次の人になった。次は桜だ。


「おっ。桜の番だ」


嬉しそうな螢斗の呟きに応えるように試験官の前に進み出た桜は二、三語言葉を交わす。おそらく学籍番号と名前を告げているのだろう。数歩試験官から離れた桜は何故か俯き、フルフルと肩を震わせ始める。


「相変わらずお前と違って気ィ短けぇな、あいつ」


「俺も結構短い方だと思うよ?」


「お前が短気だったら世界中の全員が短気だっての」


額に手を当てて深いため息をつく龍護に笑みを堪えるように少しばかり首を傾げる螢斗。二人の会話を聞いていた春がポンポンと螢斗の肩を叩き、心の底から述べる。


「取り巻き共(てめえら)うっせーぞ。黙ってろ。それが出来ねぇなら言え。一秒で沈めてやる」


黄色い歓声に耐えられなくなった桜は痺(しび)れを切らして怒鳴る。女子は意に介した様子もなく更に沸く。桜は永瀬と同様に一部の女子からも人気があるのだ。本人にとってはとてつもなく傍迷惑極(はためいわくきわ)まりない話だが。


「天空 桜さん。急いでください」


「・・・スミマセン」


試験官に促され、渋々女子を無視することにした桜はすっと手を上に上げる。と、そこから『終焉の劫火』が生み出され、劫火は蛇のようにうねり、桜の周囲をぐるぐる回っていく。桜は指揮者のように指を動かし、劫火の蛇を操っている。劫火の蛇は彼女の意思どおりに自由自在に動き、時には形を変える。


やっぱこれだけじゃつまんねーな。


心の中でぼやき、ため息をつく。うっさい女共にでもぶつけてみるか、と物騒な思いつきが脳裏を過ぎり、さすがにそれはマズイだろうと渋々ながら実行を断念する。


彼女の様子を遠くから見ていた数人が舌打ちしている。ランク『S』の自分達が優等生だと信じ込んでいるなんともおめでたい連中だ。


「チョーシこいてんじゃねぇよ」



ひゅっ



短い風切り音が周囲に群れている生徒の耳に届いた時、数人分の悲鳴があがった。悲鳴の元を見ると、舌打ちした数人全員の両頬を挟むように先ほどまで桜が操っていた劫火の蛇が矢となり、突き刺さっていた。しかも、少しでも動けば燃やされてしまうほどスレスレに。


チョーシ云々(うんぬん)とほざいていた奴には他の奴らの倍の矢が体に添って刺さっている。くしゃみでもしたら即大火傷を負うこと間違いなしだ。誰かこしょう持ってない?


「あぁ、失礼。手が滑ってしまいました」


手が滑ったレベルじゃないほど正確に突き刺さった劫火の矢を見てゴクッとつばを飲む舌打ちした数人。桜は最高に明るい笑顔で劫火で作った弓を下ろす。なぜだろう。物凄く寒気を誘われるのは。


「今度何か仰られましたらその首燃やしますからね?その覚悟を持って発言なさった方がよろしいかと存じ上げます」


顔は笑っているのに目は一ミリも笑ってない。冷やか過ぎる瞳で舌打ちした数人を睨みつけると指を横に動かす。


「私の視界から失せろ。貴様らの存在自体が目障りだ」


桜の言動と共に劫火の矢が霧散(むさん)する。舌打ちした数人は魂を抜かれたような顔をしてふらふらと蛇行(だこう)しながら退場していく。


試験官が用紙に何かを書き込み、次の人を呼ぶ。桜は物足りなさそうな顔をしつつも頭をかいて交代する。


「あーらら。評価下げらんなけりゃいいけどな」


「大丈夫だろ。外してたし」


春の言葉に笑いを噛み殺しながら龍護が答える。その後ろでは真夜が蹲(うずくま)っている。体調が悪いのかと思いきや、肩が大きく震えている。つまり、湧き上がってきた爆笑の波を必死に抑えている。隣の螢斗は柔らかく微笑み、「正確性が上がってるね」と嬉しそうに呟く。些(いささ)かズレた感想に真夜の肩がさらに震える。


桜が恭哉達の元へ戻ると、春達にとって初めて見る男子が混ざっていた。瞳が紫水晶(アメジスト)で髪は黒。外見は一言で表すのなら真面目。これに尽きる。並より端正な顔や、切れ長の瞳などを除けばの話だが。


「螢斗、龍、真夜。あいつ、誰だかわかるか?」


「ん?」


春の目線を辿りなんとか笑いを抑えた三人もその男子を見て、首を傾げる。三人共見たことないようだ。戒に聞くか。


「戒は知ってっか?」


口一杯にチョコを詰め込んでいる戒に訊ねると、彼女は男子を一瞥(いちべつ)しただけで頷く。パラパラとメモ帳をめくり、読み上げる。


「ふぇんにゅうせいの久遠 優(すぐる)君でふぉ。ごくっ。二年前の事故のとき知り合ったんだって。藤咲さんの恋人だよ。知らないの?春って馬鹿なの」


「んだとコラ!」


最後の一言を聞いた途端戒に掴みかかる春。戒は胸倉を摑まれているにも関わらず悠々とチョコを咀嚼(そしゃく)している。


「久遠 優」


龍護が噛み締めるように繰り返す。聞いたことがある。三珠の一員だったが、四年前に事故に遭い昏睡状態が続いていたとか。


「ふーん」


真夜はどことなく面白くなさそうに唇を尖(とが)らせる。螢斗は楽しそうに笑って「友達多いんだな、桜は」と嬉しそうに龍護に話しかけている。


その後、龍護と春、真夜、螢斗の試験も終わり、談笑を楽しんでいるとばたばたと騒がしい足音が近づいてきた。目を向けると同時に聞き馴染んだ声が呼び掛ける。


「螢兄!龍兄!」


桜が満面の笑顔でこちらに走ってきていた。後ろからは恭哉達も歩いてくる。彼らのちょうど真ん中にいる悠紀と渚は周囲に見られないよう絶妙な位置で恋人繋ぎをして何か言い合っている。というか渚が一方的にまくし立て、聞き手に徹している悠紀が謝っている、という様子だ。


「紹介するね。新しい生徒会・執行部のメンバーの久遠 優君だよ。支部は第一(特別)支部に所属してもらう事になってる。まぁ特殊な仕事の時だけだけどね」


「久遠 優です。よろしくお願いします、先輩方」


礼儀正しく頭を下げる優。外見だけでなく中身も真面目らしい。悠紀と気が合いそうだ。螢斗達は順に名乗る。


「天空 螢斗です。よろしくね、久遠君」


「・・・天空 龍護」


「天空 真夜です。よろしく」


「夕空 春。友達に女の子がいるなら紹介してネ。よろしく」


「大路 戒。チョコいるかい?」


「・・・どうも」


苦笑しつつチョコを受け取る優。


「異能確認が終わった生徒は教室に戻れ。まだの奴は急げ」


マイク越しの指示と共にほとんどの生徒が教室へ戻っていく。桜と渚、美優、螢斗はもう一つの異能確認が終わってないことに遅ればせながら気付き、慌ててそれぞれの場所に急ぐ。恭哉達はもう終わっているので先に教室へ帰っていく。


「天空 桜」


「はい!」


少し裏返った声で返事をし、前に出る。試験官が用紙に目を落とし、微かに目を瞠(みは)る。それは長年捜し求めた宝物を見つけたような歓喜や喜びに似た鮮やかな変化だった。


「・・・・・?あの・・・。どうかしましたか?」


固くなった試験官を見て桜が恐る恐る声をかける。試験官ははっとしたように表情を改め、近くの木を指差す。


「あの木に何らかの変化を起こす試験です」


「わかりました」


すっと瞑目(めいもく)して気を静め、木に意識を集中させる。と、彼女の体から桜色のオーラが立ち上り、木を覆うと見る見るうちに枯れていく。周囲からざわめきが起こる。桜はそれを気にした様子もなく、さらに集中力を高める。

彼女の体から先ほどより濃い桜色のオーラが立ち上り、木を覆っていく。すると、木は目を瞠(みは)るスピードで成長していき、数秒前より大きく、若々しくなる。


桜は無意識に詰めていた息を吐き出す。少しの脱力感が押し寄せてきた。完全に死滅(ころ)さなくてよかった。そうしてたら再生の異能でも無理だもん。


「――――やはり」


試験官の両眼が喜悦(きえつ)に満ちた。だが、それも一瞬のことで試験官は用紙に何かを書き込み、次を促(うなが)す。


「終わった~」


大きく伸びをして肩を揺する。あとは授業終了のチャイムが鳴れば昼休みだ。お腹減った~。


「そっちも終わったんだ」


「渚じゃん、って・・・・・・お疲れのようだな」


声をかけてきたのは若干やつれた気がする渚。気のせいかもしれないが目の下に隈(くま)がある。この短時間でいったいどうしたらそんなになってしまうのか。人込みが平気な桜にはまったくわからない。


「美優ちゃんはまだ?」


「美優ちゃんなら私が終わったときまだやってたよ。見てく?」


「もっちろん」


「あ~。疲れたねぇ、二人とも」


「「!!!!」」


美優の所へ向かおうと方向転換した桜と渚の真後ろに美優その人がいた。二人は寸前でそれに気付き、慌ててぶつからないように身を捻(ひね)る。


「ふぅ、セーフ」


ドサッ「い・・・痛い」


「大丈夫かい、渚さん」


桜は日頃から鍛えているので転ぶことなく立っているが、渚は運動神経の悪さが災いしてバランスを崩し、派手にしりもちをつく。美優が不思議そうに小首を傾げながらしりもちをついた渚を見下ろす。


「美優ちゃんも終わったの?」」


「うん。そしたら桜ちゃんらしき人と渚さんらしき人が話していたので、後ろに潜ませていただきました」


「後ろに潜ませていただきました、じゃないよ。居たんなら声ぐらいかけてよ。心臓に悪いから」


渚に手を貸して立たせてやりながらこの年頃の女子と比較しても標高が低い胸を押さえてみせる。美優は邪気(じゃき)のない笑顔で湯飲みに口をつける。


「以後気をつけます。・・・・・・・ズズー・・・・・・・・・・・・多分」


「長いことかけて多分つけんな!」


軽く頭を小突き教室へ向かう三人。その三人をさっきの試験管がじっと凝視(ぎょうし)していた。



――――まるで、獲物を狙う狩人(ハンター)のように。



それとは別に三人を面白くなさそうに見ている奴らが数人。彼らは互いの顔を見合い、頷く。多少の違いはあれど、全員の顔には悪意に満ちていた。


「思い知らせてやろうぜ」


『Z』の分際で生意気な一年共に。










屋上。今は生徒及び教員も下に行っているので誰もいないはずの場所に二つの影があった。二つの影は下の人間に気付かれないように一部始終を見ていた。そのうちの一人が口を開く。


「Is it good?Those fellows will start things by the end of today. (いいのか?あいつらは今日中に事を起こすぞ)」


流れるような流麗な英語を話しているのは外国人と思しき筋骨隆々とした男性。灰色の瞳に髪も灰色(アッシュ)。日本では珍しい色の瞳と髪をしている。前髪が長く左目が隠されていて、下には眼帯がつけられていた。


「(いいんじゃないの。この程度で死ぬような奴らじゃないし。万が一死んだとしても私の知った事じゃないわ)」


こちらは白銀の瞳に腰まで伸びた長い銀髪の女性。彼女も日本では珍しい色の髪と瞳をしている。あからさまな嘲笑を含んだ声音で男性同様流麗な英語が唇から滑り出す。


彼女の言葉を聞いた男性が困ったように眉根を寄せる。


「(どうしてお前はそういうことしか言えないんだ、シェリー)」


叱るような口調になった男性の言葉に聞く耳を持たず、女性は懐から鉄扇を取り出し弄り始める。男性の眉間に深々としわが刻まれる。そこへ、


「お待たせしてスンマセン!クロウさん。クリスさん」


息を切らせながら屋上に飛び込んできたのは眩しい金髪の背の低い男子生徒だった。耳にはピアスがついている。見た目は何処にでもいそうなチンピラ。男子生徒は上がった呼吸を宥めながら額の汗を拭う。


「思ったより、長引いちゃって、来るのが、遅れました」


「謝らなくていいぞ、レイン。ここから全部見てた。異能確認お疲れさん」


灰色の瞳を細めて落ち着いた声で男子生徒を労う男性。男子生徒にクロウと呼ばれた方だ。女性の方は苛立たしげに眦をつり上げ男子生徒を睨みつけている。今にも怒鳴りだしそうな雰囲気をかもし出している。それに気付いた男子生徒が反射的に一歩引く。それほど恐ろしい目付きで睨んでいるのだ。


「えっと・・・その・・・」


いつまでも睨みつけてくる女性の視線に耐えかねたのか、男子生徒が濃紫の瞳を左右に泳がせる。そして助けを求めるようにクロウを見上げた。


「シェリー」


男子生徒の視線に気付いたクロウが窘(たしな)めるように名を呼ぶ。女性、シェリーは不機嫌そうに舌打ちすると柵に寄り掛かりあらぬ方を見やる。


「クロウさん。奴らが動き出しますよ」


全身から安堵した様子が窺(うかが)える男子生徒は真剣な顔で言う。その言葉にクロウは静かに目を閉じる。


「そうだな。お前はどうしたい?レイン」


「学園(ここ)では五十嵐 時雨って呼んでください、クロウさん」


普段の馬鹿っぽさからは想像もつかないような真面目な顔つきで薄く笑ってみせる男子生徒、時雨。


「五十嵐 時雨。今はそう名乗っているのか?」


「そッス。ストーム・レインの名前はこの任命中・・・あれ?任期?違うな・・・・・・なんだっけ?まぁいいや。とにかく忘れるよう言われてるんで」


一瞬懐かしむような口調になる。久しぶりに口にする己の真の名。この名に戻るにはまだまだかかりそうだな、と心の中で呟き、軽く頭を振って思考を切り替える。


「馬鹿っぽいとこは変わってないな」


「俺は様子を見たいと思ってます」


シェリーの眉がピクリと動く。それを知ってか知らでか、時雨は自分の意見を補足する。


「この程度で奴らが死ぬとは思えません。それに、たとえここで死んだとしてもそれは奴らが弱かったってだけで、俺らの知ったことではない。そうでしょ?」


時雨が最後まで言い切った瞬間、彼が来てからずっと黙っていたシェリーが口を開いた。


「オレの真似してんじゃねーよ。ガキがぁ!」


その口調は紛れもない男のもの。それにしても女性に似つかわしくない言葉遣い。そこら辺は桜に通じるものがある。いや、桜より口が悪い。


「うわっ。スンマセン!」


怒鳴られた当人は鞭で打たれたかのように背筋をピシッと伸ばして謝罪する。まだ何か言おうとしていたシェリーだったが、沈痛な面持ちでこめかみを押さえているクロウを視界に捉えて標的変更。


「おい。ンだその態度は。文句あんなら言ってみろぉ!」


「これより我ら“蒼天の天馬(ブルースカイ・ペガサス)”は三手に分かれる。ただし、なにが起こっても手は出さないように。それと、決して気付かれないように細心の注意を払え」


「無視んなぁ!」


「事が終わり次第あらかじめ決めといた場所に集合だ。それからな。その外見でその言葉遣いはやめておけよ。シェリー」


そう言い残すとクロウの姿はかき消える。一秒後、彼の立っていた場所に鉄扇が突き刺さる。


「ちィっ。逃したか」


本気で悔しがるシェリー。ここに第三者がいたら「お前らは仲間じゃないのか?」と疑問を投げかけていたことだろう。


「俺も先に失恋します」


「失礼だぁ!誰に失恋してんだ、貴様」


時雨は鉄扇を拾い上げているシェリーに一礼すると戸から去っていく。見るからに外国人のシェリーに突っ込まれるとは日本人としてどうなのだろう。


残されたシェリーは手の中の鉄扇を見つめ、次に空を見上げる。視界一杯に広がる少しぼやけた秋空。


「大斗さん・・・・・・」


彼女の頬を、一筋の雫が滑り落ちていった。

関ヶ原 「関ヶ原 芯。年は三十二やったかな。身長は180cm。体重は67kg。血液型はO型。職業は三珠関係。好きなことは寝ること。嫌なことは仕事。恐いもんは女房。これでええか?」


桜咲 「ありがとうございます。ずっと気になっていたんですが関ヶ原さんは関西の出身なんですか?」


関ヶ原 「ちゃうで。俺の親父が関西の人やったさかい、たまに関西に遊びに行ってたら中途半端に覚えとっただけや」


桜咲 「へぇ、そうなんですか。ところであなたは無能力者から異能者になったんですよね。心傷的異能者ですか?損傷的異能者ですか?」


関ヶ原 「損傷的やで。大型トラックが対向車線(こっちがわ)にはみ出してきよって追突されて、足が潰されて車内から出れへんでおるうちに意識が朦朧(もうろう)としてきたんよ。あん時は死を間近に感じたで。そん時異能に目覚めてなぁ、車からちびっと離れた所に転移したんや。その後すぐ車が爆発したらしゅうてな。異能に目覚めるのが遅かったらほんまにお陀仏やったで」


桜咲 「そうだったんですか。あれ?でも関ヶ原さんの異能は・・・」


関ヶ原 「そうや。俺の異能は条件発動。陣を書かな異能は発動できへん。そん時の事はよう覚えておらへんのやけど、異能と一緒に目覚めた具象化が流れた俺の血で陣を書いたらしいで」


桜咲 「なるほど。では最後に一言お願いします」


関ヶ原 「寝る子は育つ。ちゅうわけで、俺は寝る」


桜咲 「おやすみなさ~い」

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