俺の記憶 壱
今回は愁さん視点の過去編になります。
グロいシーンがありますので、苦手な方は無理をせず回れ右をしてください。
守りたかった
彼女の中から自分が消えようとも
その笑顔を その声を その心を その全てを
それが、彼女の心の一部を抉る行為だとしても
護りたかった
たとえ、大切なものを全て投げ打ってでも――――
俺と桜と龍は船で知り合い、兄妹のように仲良くなった。この船には桜や龍のように幼い子供はおらず、俺を抜いた一番下は十七歳になる。しかも外人だ。話し掛けにくいにもほどがある。それ以前にまず言葉が通じないだろう。
そういう事情を踏まえて襲撃があった日も龍と桜は俺と一緒にいた。大斗さんは三珠の中でも要だったので桜と龍に構えないことを気にかけており、俺が二人と遊んでることに深く感謝していた。
話が逸れたが襲撃の日、俺たち三人は船中の図書室にいた。そして破壊音と怒号、悲鳴、泣き叫ぶ声が聞こえてきたのでおかしいと感じて部屋を出た。
「なんの音?」
不思議そうに小首を傾げる桜。その動作につられ、首元で紅玉色と炎の中に桜が舞い散るさまを連想させる二振りの太刀のネックレスと、別のチェーンに通された指輪が揺れる。ランクは『B』。
その隣の龍は聞こえてくる音に不快感をあらわにしていた。普段何考えてるかわかんないミステリアスな奴なのに、表情を面に出すなんて珍しいな。黒い銃のネックレスと、別のチェーンに通った指輪を弄っている。ランクは『B』。
「知んねぇよ。取りあえず大広間に行くぞ。大斗さんが大体そこにいるって言ってた」
困惑顔で答えたのが俺、九条 愁。紅梅色の両刃剣のネックレスと別のチェーンに通った指輪。ランクは『A』。
「うん」
元気よく返事をした桜に手を差し出すと、彼女は嬉しそうに手を掴んできた。兄弟がいない俺にとって、桜は妹、龍は弟のような存在だった。無意識に頬の緩んだ俺に手を引かれ、桜と龍は大広間を目指した。
――――それが地獄への片道だとは知らずに・・・。
大広間につくと扉が開いていた。そこから明らかに常軌を逸してる悲鳴と助命を乞う声、そして怒号が途切れることなく飛び交う。俺の顔は自然と強張った。
中でいったい何が起きてるってんだっ。
隣の龍護がはっと小さく息を呑み、桜に気付かれないように俺の腕を小突くと扉を目で示す。その扉には赤い手形がいくつもついていた。それに加え、同じ赤い液体が飛び散ったようなものもついている。
あれって・・・・・・・。
よく知る液体が脳裏を掠めたが、俺はすかさずそれを振り落とした。余計なことを考えんな。桜を不安にさせるようなことは言うな。なんでもないように振舞いながらすぐにこっから離れねぇと。龍に視線でそう訴えると、彼も同じことを考えてたのか小さく頷く。
「父さ~ん」
桜は赤い手形など全く意に介さず走り出す。俺と龍は慌てて桜を引き留める。
「待て、桜。俺部屋に忘れ物しちまったから戻りてぇ」
「俺も部屋に忘れ物した」
「え~。父さんに会いたい」
一応足は止めたが不満げな桜。俺は強張った顔を無理矢理動かしてすまなさそうな表情を作り、どうにかしてこいつを大広間から遠ざけようと短い間で頭をフル回転させた。
「悪い。――――おっ、そうだ。大斗さんに差し入れ持ってってやろうぜ。大斗さん、絶対喜ぶと思うぞ」
自分なりにいい案だ、と思った。案の定桜は紅玉色の双眸を嬉しそうに輝かせる。
「父さん、喜んでくれるかな?」
「あぁ」
「龍兄もそう思う?」
「・・・あぁ。父さん、喜ぶぞ」
龍護にしては珍しく優しい部類に入る微笑を口端に浮かべる。俺はそんな場合じゃねぇのに暫しその笑みに目が釘付けになった。こいつもこんな風に笑えんだな。あんまり笑わねぇから頬の筋肉切れてんのかと思ってた。
口に出そうものなら当の本人に物凄く不機嫌そうな目で睨まれること間違いないことを心の中で呟いてると、桜が勢いよく頷く。
「わかった。行く」
よかった、と安堵したのもつかの間、開ききった扉から何かが飛んできた。それは派手に壁にぶち当たり、動かなくなった。背中を向けてる桜には見えないだろうが、最悪なことに俺と龍にははっきりとそれが見えた。
血まみれの体で性別はわからない。あるべき場所に片足がなく、もう片方の足は膝から下があり得ない方向に向いていた。両手はなく、頭もない。欠損箇所からは壊れた蛇口のように赤黒い液体が吹き出していた。
それは紛れもなく、人間の死体。
「うっ・・・・・・・・おぇ・・・」
競り上がってきたものを抑えることは出来なかったのだろう。龍はその場に膝をつき、吐いた。俺は吐きはしながったものの、喉元まで競り上がってきたものを必死に飲み下す。生まれて初めて見た、人の死体。それも最悪の死体を。
「龍兄!?大丈夫?今の、なんの音?」
突然のことに桜は龍の背中をさすり、後ろを見ようと首を回す。俺は無理矢理目の前の光景から目を引き剥がす。一刻も早くここから逃げねぇとヤベェ。その思いだけが胸に溢れていた。
「桜、龍、行くぞ」
短く言い切ると、震える足を叱咤して今まさに後ろを見ようとしていた桜の手を引っ手繰るようにして握り、走る。桜はもつれそうになる足を必死に動かして俺に合わせて走る。口元を押さえたままの龍もその後に続く。
「獲物が三匹」
冷酷な声が俺の耳を打つ。どくんと跳ね上がった心臓が逃げろと訴えてくる。あれに捕まったらヤバイと。確実に殺されると。
ぐっと首から下がってる指輪をつかみ、一息に引き千切る。引き千切った指輪と無残な姿になったチェーンはポケットにしまう。突然の戦闘になったときを考慮して指輪を吊るすチェーンは千切れやすくなっている。
三珠の規則で指輪は肌に触れる箇所につけることとなっている。それは同時にいざという時に取り外しやすくするためでもあるのだ。
「桜、龍!!全力で部屋まで行くぞ。競争だ」
男の声を掻き消そうと無駄に大きな声を出す。我ながらいい度胸だと思った。桜はきょとんとしていたが、ニコッと笑ってぐっと足に力を込める。元々負けん気が強く、一つのことに集中すると周りが見えなくなる性格だ。勝負を持ちかければそれだけに集中するはず。
「まけないよ」
宣言すると同時にスピードをあげる。龍は問うように俺に目を当て、俺が頷くと桜を追って走り出す。
その隙に俺は後ろを一瞥する。湿った漆黒の外套を着た男がこちらを見ていた。無機質で、人を人とも思わないような冷酷な目。手には白地に赤がまだらになった布切れがついた何かを持っていて、そこからポタポタと何かが滴っている。男の持ち手に近い方は、黒い何かを履いている。
――――人間の、足だ。
「っ・・・・・・・・」
俺は後ろを向いたことを即座に後悔した。掌に空気を集め、圧縮し、留める。
「空繭」
空気が俺の手のひらで綺麗な球形になっていく。まるで白い繭のようだ。そう表してくれたのは大斗さんだった。
「吹っ飛べ!!」
これが効かなかったらおしまいだ、と感じながら圧縮した空気を放つ。そして自分は桜達を追う。
「ただのガキじゃなかったようだな。異能者か」
低く呟き目の前に手をかざす。男の掌に淡い光が集まり、圧縮された空気とぶつかる。
「ガキにしてはたいした異能だ」
掌を横にふると圧縮された空気は軌道をそらされ壁を破壊する。やはり愁の異能では男の体には傷一つつけられなかったようだ。いや。
「・・・」
男は己の手のひらを見つめる。圧縮された空気を弾いたとき、一瞬だが淡い光のガードをすり抜けられた。手のひらには小さな切り傷がついていた。男は流れた己の血を舐め、冷笑する。
「惜しいな。さて、皆殺しが命令」
男は逃げた愁達を追い始めた。
やっぱり危険をおかしてでも大広間に行かないと。
俺は船室の一室に桜と龍と共に隠れていた。
「お前ら二人、どっちでもいいから携帯持ってねぇか?」
「うん。持ってるよ」「あぁ」
桜は得意満面の笑顔でズボンのポッケから、龍は仏頂面で上着の胸ポケットから携帯を出す。桜の携帯は桜色が基準となっており、表は紅玉色の桜が彫ってあった。後ろには天空 桜とローマ字で刻んである。
龍のは黒が基準で表に紅い龍が彫ってあった。後ろには天空 龍護とローマ字で刻んである。世界で一つしかない、桜と龍だけの携帯だ。
「ちょっと貸してくんね?」
「はい」
桜が笑顔で差し出す。龍は桜が渡したので自分のは仕舞う。貸してもらった携帯で大斗さんに電話をすると、待っていたのだろうワンコールですぐに出た。
『桜かっ』
焦りと安堵が入り混じったような第一声だった。その声とともに破壊音や怒号、矢継ぎ早の指示などの音も伝わってくる。
やっぱり何かが起きてんだ。
そう確信した俺は周囲に空気の膜を作り、声がもれないようにしてから大きな声を出して答える。
「九条です。桜と龍なら横に」
『愁君か。三人とも、無事か』
「はい」
『よかった。今、この船は敵に襲われている。そっちまで今すぐ助けに行きたいのは山々だが、あいにく不可能な状態だ。危険だが愁君、三人で大広間に来てくれないか?ただし、南西の出入り口だ。北東は敵におさえられている』
「わかりました」
『電話は切らないように。万が一敵と鉢合わせになったとき、指示を出す』
「はい!」
携帯を後ろポケットに突っ込むと桜の手を掴み、両刃剣を出しておく。龍にも武器を出しておくよう指示する。だいたいの事情を察していたのだろう、何も聞かず彼は頷き、指輪を外すと武器を出す。
「大斗さんが心配してた。早く来いってさ」
「そうなの?じゃあ早く行こ」
桜は満面の笑みで廊下に出る。俺は空気を操り付近を探る。人はいない。よし。桜の手を引いて南西の出入り口に向かう。ここからだとちょっと大回りになる。ちなみに北東はさっきの出入り口だ。引き返しておいてよかった。
「なんで剣出してるの?龍兄も」
「ん?・・・・・・えと・・・・・・親父がいたら・・・・・・一戦申し込もうかと・・・思って・・・・・・かな・・・」
曖昧に語尾を濁す俺。さすがに怪しまれるかな、と内心冷や汗を流していると援護が入った。
「右に同じ」
龍が無愛想にボソッと呟く。桜は「ふーん」と二人を仰ぎ、手間取りながらも指輪を外すと太刀を出す。
「私も一戦申し込もっと」
無邪気に微笑む桜に俺はぎこちない笑みを返す。目線で龍に礼を言うと、彼は気にするなとばかりに首を左右に振った。その後黙々と歩みを続け、南西の出入り口までもう少しというところまで迫った時だった。
「見つけた」
ぞくっと背筋に悪寒が走った。本能としか言いようがない動きで桜と龍を斜めに引き倒す。同時に頭上を何かが音を立てて薙いでいった。視界の端に切断された髪がはらはらと舞う。もう少しで真っ二つになるとこだったということは嫌でもわかった。
「ほう。今のをかわすか」
男の場違いな感心した声が聞こえる。俺は桜を抱き上げ、龍を引き摺り男と距離を取る。男は光景を見て失笑を漏らす。
「そう怯えることはない。どうせすぐに死ぬのだから」
「だっ・・・誰が・・・死ぬもんか・・・」
声が見っともないほど震えている。自分の意思とはどうしようもないほどに。横に視線を滑らせると、龍も同じようにガタガタ震えている。初めて直に感じる体を圧するような殺気に完全に呑まれている。それも並の殺気ではない。刺すように鋭く、こちらの戦意も生気も、根こそぎ吹き飛ばすような錯覚に襲われるほど激しい。
「我の殺気に当てられているのか。可哀想に。そんなに震えて。怖いか?」
俺は震えている腕に爪を立てる。俺が守るんだ。こいつらは俺の大切な、妹と弟だから。だからッ、震えるんじゃねぇよ・・・。
「愁兄。怖くないよ」
驚いて横を向くとまったく怯えていない桜がいた。いつもと変わらない、陽だまりのような笑顔を浮かべている。この殺気を感じていねぇのか?いや、そんなはずない。それならば何故こいつだけ平気な面をしている。
疑問に思ってからはっと気がついた。彼女のむき出しの腕が、小刻みに震えていることに。そして、彼女の笑顔にいつもの元気が欠片も宿ってないことにも、目尻にうっすらと涙の膜が張っていることも。
「こわくないよ。だって、わたしも、龍兄もいるから。だから、こわくない、よ」
桜の手が俺の頬に触れる。するとすぅ、と体の震えがおさまった。そうだ。震えてる場合じゃねぇ。俺がこいつらを守るんだ。そっと桜の手に自分の手を重ねると、彼女は薄く微笑む。
「龍兄も、ね」
俺から手を離し龍の頭を撫でる桜。龍は放心したように目を瞬いていたが、数秒もするといつもどおりの無愛想な面になる。
「そうだな。お前と螢斗がいれば俺に怖いものなんかないっ」
きっぱりと断言するその双眸には強い自信が込められていた。俺は龍と桜、そしてこの場にいない天空 螢斗の三人の太い絆が見えた気がした。
「一瞬でも時間を稼げ。その隙に南西の入り口に走りこむぞ」
「任せて。足には自信があるの」
にっと不敵に笑ってみせる桜。その隣で龍も了承の頷きを見せる。
「やるぞ」
「おう」「うん」
先手は俺が打った。両刃剣の鍔から伸びる剣先に圧縮した空気の玉を作り、男目掛けて放つ。男をそれを手のひらで弾き、間合いを詰めてくる。その男に劫火が雨霰と降り注ぐ。
「こいつも異能者か」
「俺もだ――――よ」
劫火に気を取られたほんの一瞬の隙を突いて男の懐に潜り込んだ龍の手から銃声があがる。
『愁君!?今のはもしや、龍の銃の音じゃ・・・』
「はい。今敵と応戦中。指示を願います」
『桜、龍の炎に君の空気をぶつけ、爆発を起こせ。一瞬でも隙ができるはずだ。そしたら』
「逃げろ、ですね。了解」
桜と龍にその指示を告げると、二人は顔を見合わせて笑う。
「「燃やせ!」」
桜の劫火と龍の炎が絡み合い、螺旋状に渦を巻きながら男を襲う。息がピッタリだ。合図もなしにここまで息が揃うなんて。そのことに驚きながら俺はトドメとばかりに空気を放つ。
三人はくるりと身を翻し、一目散に逃げ出す。
「見えた」
こっちのドアも開いていた。廊下には見知った顔の大人が大小あれどみな傷を負っていた。その中でも仲の良い大人を見つけた俺は大声で呼ぶ。
「辻川さん!関原さん!」
「愁じゃねぇか。今までどこに・・・って、さっ・・・桜ちゃんに龍護君!?」
「桜嬢!龍坊!」
「大斗さん!!愁が桜ちゃんと龍護君連れてきたぞ!」
大斗、と呼ばれた男性は切れ長の桜色の瞳をわずかに動かし、いっそう声を張り上げる。
「聞こえてる。――――負傷者から先に小船に退避!!全員、生きて帰るぞ!!」
「「「おおッ!!!」」」
大斗さんの掛け声でまだ残って戦っていた人達が怪我人に肩を貸し、あるいは援護をしつつゆっくりと撤退準備を始める。それを見送り、所々に跳ねてる薄黒の髪を鬱陶しげにかきあげつつ近くにいた仲間に怒鳴る。
「無能力者の数は!?」
「あと50人弱!!異能者は残り約100人です!」
「結構残ってんな。無能力者の避難を優先させろ!!攻撃系の異能者は敵の足止め!!全員、一瞬たりとも気を抜くな!」
「「「「「おぉっ!!」」」」」
力強い返答とともに反撃する三珠の人達。桜は俺に手を握られたまま固まっていた。状況を呑み込めてないのだろう。事情を簡単に説明しようとした瞬間。
何かが爆破される爆音がしたと思ったら船体が軋む音が大きく響いた。その場にいた全員は例外なく体勢を崩し、近くの物で体を支える。
「「大変です!!船底を破壊され、この船はあと1時間もしないうちに沈没します!」」
三珠の何人かが大斗に届くよう大声でわめく。報告を受けた大斗は怒りでか表情を歪めた。
「「なんだと!!?」」
「ちっ。避難状況は!!」
「まだ合わせて100人以上はいます!!」
ざわっとどよめく三珠の人々を尻目に、素早く思考を切り替えた大斗さんが避難状況を随時確認している人に訊く。訊かれた人は間髪入れず大斗さんの問いに答える。
「クソッ。俺が塞いでくる。桜、龍、手伝ってくれるか?」
「?うん」「わかった」
大斗さんは桜と龍に死体や血を見せないように肩に顔を押し付けさせ、辻川さんを呼ぶ。
「瞬間移動頼めるか」
「任せてください」
引ったくるように大斗さんの腕を掴み、異能を発動する。彼らの足元で陣が展開し、四人の姿は赤い光の中に消えた。
「ここです!」
ドサッと格好の悪い着地をした大斗に怒鳴る辻川。龍護は桜を立たせてから周りを見て、ちっと不機嫌丸出しに舌打ちする。
船底には大小様々な穴があちこちに穿たれており、その周りには火の手が上がっていた。穴からは水が侵入し、沈没するのも時間の問題だいうことが嫌でもわかる惨状となっていた。
「このままじゃ燃料に引火するな」
心底苦々しげに顔を歪ませた大斗は瞬時に方針を決めると桜と龍護に目線を合わせるため膝をつき、二人の肩を掴む。
「桜、龍護。あの炎を操れるかい?」
「あぁ」「うん、父さん」
「大斗さん!!いくらなんでも無茶だ!!まだ子供だぞ!?」
「他に火を操れる奴はいるか?いたとしてもこの子達の方が遥かに上手く操る。元々の素質が違うんだ。桜は『煉獄の業火』を操る母を持ち、『地獄の業火』を操る兄を持つ、全てを焼き尽くす『終焉の劫火』を操る者なのだから。そして龍は『死神の炎』に選ばれた者なのだから」
言い合う2人から少し離れた所で桜は太刀を抜き、眼前に突き立てる。龍護は銃を構え、上にあげる。
「「炎よ!!」」
短く叫ぶと燃え盛っていた炎が桜と龍護の武器に集まっていく。炎に意思があるんじゃないかと疑いたくなるほど綺麗に桜と龍護の元へ行き、太刀と銃の周りをぐるぐる回る。
「さすが」
嬉しそうに呟きをこぼした大斗はおもむろに穴を顧みると手のひらを向ける。彼の動作につられて胸元で桜色の鎌とワインレッドの拳銃がちゃり、と音を立てる。穴は徐々に塞がっていき、ついには元通りになった。だが、今の残り少ない大斗の異能では穴を一時的に塞ぐだけで精一杯だ。先ほどの戦闘で『消えない劫火』を使い過ぎたらしい。
大斗の異能が消えれば、再び穴は開く。
「早く、無能力者と、異能者を、外に、出せ」
苦しげな呼吸の合間に唸るような声を絞り出す大斗。その額には早くも脂汗が滲んでいる。
「あと100人弱です。どうにか耐えてくださいよ」
桜と龍護は全ての炎を鎮火ひ終わると大斗に駆け寄る。
「父さん、どこか痛いの?」
「大丈夫か?父さん」
「辻。先に桜と龍を連れていけ。そして、直ぐに戻ってこい」
辻川の顔を一瞬迷いが過ぎった。
「・・・・・・了解」
頷くと同時に龍護の手を掴み、桜を脇に抱えると転移する。転移する一瞬に見えた桜の泣きそうな顔と龍護の悔しそうな顔が大斗の脳裏に焼き付いた。
「泣くな、桜、龍。必ず生きて帰るから」
俺は、俺の無事を祈り、俺の帰りを待っていてくれる人の元へ、必ず帰る。
「螢斗も、そして、お前も待っていてくれてるだろ、夕美」
愛しげに囁いた息子と最愛の人の名前。四人を瞼の裏に思い描き、大斗は残る力を振り絞った。
桜咲 「今回からは桜さん達の仕事仲間・上司達のプロフィールを聞いていきたいと思います。始めはこの人です」
九条 「九条 愁。22。身長178cm。体重63kg。血液型は忘れた。職業は刑事。こんなんでいいか?」
桜咲 「・・・なぜ血液型は覚えてないんですか?」
九条 「どうでもいいことは忘れる主義だ」
桜咲 「血液型は大事だと思いますけど・・・。では続きをお願いします」
九条 「好きなもの(こと)は仕事。嫌いなこと(もの)は青葉と夕空(千秋)とマヨネーズ。怖いことはない。これで終わりか?」
桜咲 「九条さんはなぜ青葉さんと千秋さんが嫌いなんですか?お二人ともいい人じゃないですか。美人だし」
九条 「嫌いなもんは嫌いだ。テメエにとやかく言われる筋合いはねぇ」
桜咲 「ヒィッ、睨まないでください。ただでさえ九条さん人相悪いんですから。そういえばずっと気になってたんですが・・・その左頬から顎にかけての傷、どうしたんですか?」
九条 「テメエには関係ねぇだろうが。余計な詮索は寿命を縮めるぜ。――――むしろ俺が縮めてやろうか?」
桜咲 「スンマセン!マジスンマセン(汗)最後に一言お願いします」
九条 「ねえ(きっぱり)」




