相性の良し悪し
更新が遅くなってしまいました。すみません。では二十三話をお楽しみください。
「桜っ!」
恭哉にしては珍しい多量の焦りが詰まった叫びが耳に届く。龍護は思わず目の前の敵から視線を外しかけて慌てて自制する。こいつから視線を外すということは自ら殺してくれと言っているようなものだ。
「君の妹さん、やられてるね。いいの?ほっといたら死んじゃうよ」
聖が途切れることなくガラスの破片を飛ばしながら問うてくる。助けに行きたいのは山々だが、目の前のこいつがそうはさせてくれない。
「・・・よく言うぜ」
「ちゃんとわかってんなら気を散らさないことだ。まぁ、わずかに死期が延びるだけだがな」
「勝手に人の死期決めてんじゃねぇよ」
先ほどの量を倍するガラスの破片が襲い掛かってくる。それを銃で撃ち落しながら一瞬だけ桜のほうに視線をやる。彼女は壁に寄りかかって立とうとしているようだ。脇腹に血が滲んでいる。傷口が開いたのか。
「・・・」
「よそ見していると――――死ぬよ」
聖の手のひらに黒い光が集まっていく。そして、以前見たことのある黒い球体が出来上がる。はっ、と短く息を吐いた龍護は黒い炎を拳銃に込めていく。聖の体を漆黒のオーラが、龍護の体を黒いオーラが包んでいく。
「消えろ」
黒い球体が龍護目掛けて飛んでくる。龍護は拳銃をその黒い球体に向け、引き金を引く。銃口から飛び出したのは黒い炎だった。否。黒い炎を纏った弾だ。それは黒い球体にぶつかり、黒い球体を燃やす。
「なん・・・だと・・・・」
ずっと余裕を張り付けていた顔に初めて危機感が露になった。
俺の異能、『闇』が燃やされた!?そんな事今まで一度たりともなかった。それ以前に俺の異能は他の異能をも呑み込む。なのに何故あの黒い炎は呑み込まれず、逆に俺の異能を燃やしているんだ。
「いったいどんな異能を・・・」
「俺の炎は異能者の異能だけを燃やせんだよ」
「異能が、効かない・・・・異能のみを燃やす炎だと・・・」
ふっと口角を上げた龍護は掲げた手のひらに黒い炎を出し、それに視線を落とす。ゆらゆら揺れる炎を見下ろす瞳にぐっと力がこもる。
「俺らにとっては死神だな、お前」
「しまいだ」
ゆるりと持ち上げられた銃口が聖に向けられ、引き金にかけられた指が曲げられる。その時、恭哉の切羽詰った悲鳴が鼓膜にぶつかる。
「桜っ!!!」
聖そっちのけで桜達のほうに視線を向ける。その目に映ったのは誰かの力によって吹っ飛ばされた桜が窓ガラスを突き破る場面だった。そしてその桜の後を追うように必死の形相で窓に向かってひた走る人物。
「螢斗!!」
「あんたを殺せる日を夢見てたんですよ」
汐の槍が渚の体を貫く。彼女の足元には手当てされた悠紀が倒れている。春が翼と瑠璃の攻撃を受け流しながら顔を顰める。渚の体がゆっくりと傾ぐ。
数十分前。
「なんで俺が藤咲となんですか」
悠紀が心の底から嫌そうに翼と戦ってる春に問い掛ける。春はまぁまぁと悠紀を宥めて渚を目で示す。
「だって姉妹が睨みあってるし、この人は俺に向かってくるから悠紀の相手はそいつしかいないでしょ」
「納得出来ませんッ。相手を代わってください。だいたい拳銃と大刀って相性悪すぎですよ」
悠紀の言うとおり大変やり難い。相手は接近戦を得意とするのにこっちは遠距離戦を主とするのだから。だが瑠璃とはやりたくない。傷一つでもつけたら渚に怒られそうだ。春もまだ死にたくない。しかも戦いで死ぬならまだしも戦いの後に守るべき相手に殺されるなど不名誉もいいとこの死に方だけはごめんこうむりたい。
それに、悠紀と翼じゃ力量の差がある。加えて俺の推測が正しければ悠紀の異能は翼の異能と相性が悪い。
彼の迷いを感じ取ったのか、揺れ動く夕空色の瞳を冬空色の瞳がひたっと見据える。
「俺も一緒に謝りますから。それに多分きっとこういう場合ならわかってくれると俺は信じてますよ。それから俺がこいつに敵わないことも薄々わかってました。だからそっちが終わったら援護、頼みますよ」
「わかったよ」
春は銃口を瑠璃に向ける。悠紀はにっと笑い翼に向かって走り出す。
「というわけで選手交代ね。言っとくけど手加減とか出来ない性質だからそこらへん理解してね」
「い~よ。瑠璃も手加減とか苦手だからぁ」
瑠璃は黒アゲハを指に止まらせて妖艶に微笑む。そうしているとどこかの御伽噺に出てくる某お姫様みたいに可愛くて美しい。
「瑠璃、超可愛い」「琉璃さん超可愛い」
真海姉妹が目をハートにしながら見とれている。瑠璃は藤紫の瞳を渚に向け、小意気にウインクする。ここに男子がいたら一瞬で天に召されそうだ。
彼女の両手の指には小刀が計四本ずつ挟まっている。あれが武器か。
「花よ。可愛い姫の元に集え」
瑠璃の足元の花が増殖していく。その花は物凄い勢いで春の足にしがみつき、動きを封じようとする。春は毛ほども動じず銃を手に耳をほじる。花は春の足に触れた瞬間、逆方向へ弾き飛ばされた。
「これがお前の異能か」
「そう。私の異能は『花』。花を自在に操ることが出来るの。どんな花でも咲かせられるしどんな花でも自由に動かせる」
瑠璃の足元に見たことのない花が咲く。瑠璃はその花を摘み、すり潰す。きつい匂いが漂ってくる。春ははっとした顔で鼻を塞ぐ。少し吸っただけで激しい眠気に誘われる。悔しげに歯噛みして唇に歯をたてる。つぅと血が流れ眠気が少しだけ消えた気がする。
「これはすり潰すと人を眠らす効果があるの。なんて花だったかな・・・忘れた」
「厄介な異能だな」
桜か龍護、恭哉、真夜の異能があれば簡単に燃やせるのに。俺の異能ってこういうときダメだよな、等とつらつら考えていると、小刀が飛んでくる。春は邪魔くさそうに眉根を寄せ、銃で撃ち落とす。
「お前の異能もすごいが、俺の異能も侮るなよ」
「怖い怖い」
瑠璃が手を振ると視界一杯に薔薇が咲き乱れる。それがいっせいに襲い掛かってきた。春は異能でそれらすべてを銃で迎え撃つ。
「あらら?さっきのはもう使えないの?」
「うるせぇ。俺の異能は燃費悪くてな。常に放出してっとすぐ空になっちまうんだよ」
「ふーん」
薔薇に紛れて小刀まで飛んでくる。それも撃ち落として、瑠璃には気付かれないように彼女目掛けて一発撃つ。弾丸が銃口から飛び出すと同時に速度を操作して、気付かれないように次々に薔薇を撃ち落とす。
「花に対してムキになり過ぎ~。春こわ~ぃ」
「黙れ春って呼ぶな」
彼にしては珍しく女性相手なのに棒読みに近い声音で言い放った春。瑠璃は「つめた~ぃ」とつまらなさそうに唇を尖らせる。彼は冷たく「冷たくて結構」と言って瑠璃に向かって撃つ。その弾は瑠璃に届く前に薔薇に邪魔される。くそっと悪態をつく春。
「残念でした」
ぺろっと舌を出す瑠璃。春は湧き上がってくる怒りを必死に抑える。落ち着け。今気を乱せばあの弾が元の速度に戻っちまう。それじゃあダメだ
二、三度深呼吸をして気を落ち着かせる。瑠璃のペースに乗るな。なに言われても反応するな。相手の思う壺だ。あいつの思い通りのなるのは絶対に嫌だ。
「春が乗ってくれなくてつまんない」
「・・・・・・・」
無言で薔薇を撃ち落とすことに専念する。ふと思い至ったように悠紀と翼のほうに視線を向け、わずかに眉根を寄せる。
「悠紀・・・」
ギィーン
何十回目かの金属同士のぶつかり合いに悠紀は肩で息をしながら悔しげに唇を噛む。こいつ、滅茶苦茶強い。あんな重そうな大刀を片手で振り回すなんて。
「どうした?もう息が上がってるのか」
人をおちょくるように指先で挑発してくる翼。正直とても癇に障るのだが、感情のまま斬りかかったら相手の思う壺だということは重々承知しているため、落ち着け、意識を集中して、気を乱すなと繰り返す。
「体力ないもんで」
左手の指先から滴る血を払う。彼の体はぼろぼろだった。なのに翼はかすり傷一つない。呼吸一つ乱してない。常人離れした体力だ。
「っ」
抑えきれなかった感情に呼応するように普段なるべく意識しないようにしている強大すぎる異能が漏れ出す。咄嗟に胸元に手をやり、大きく深呼吸をすることでそれをどうにか押し戻して詰めていた息を吐く。
彼はとある事情で全力を出すことができない。もし感情のまま異能を行使したのなら、それは彼の命が尽きることを意味する。故に、彼はどうしても感情も異能も制御したままの戦いを強いられる。
唐突に地面に手をついた翼が何かを呟く。と、地面からゆらりと動き出した砂が悠紀目掛けて襲い掛かってきた。駆け出した悠紀は氷で壁を作り、もう一丁と言わんばかりに氷で作った分身を上から飛ばし、自分は左から飛び出す。
「ほう。知恵はあるようだな」
感心したように零した」翼は自分から見て右から駆けてくる悠紀の方に走り出す。
「俺には丸わかりだがな」
「っ・・・・」
振り下ろされた大刀を紙一重で避ける。そしてそのまま地面に手をついて大きく後方に跳躍すると翼から離れる。
「逃がすか・・・ん?」
計算どおり。上に飛ばした分身が落ちてきた。そのまま翼に直撃したのを見届けたものの悠紀は構えを解くことなく油断なく目を凝らして翼を待ち構える。今ので終わるような相手ならここまで苦戦しない。
「なるほど。こういう使い方もできるのだな」
氷が直撃したにも関わらず平然と立っていた翼は凍った左腕を逆の手で押さえる。あの腕は当分使い物にならないだろうという悠紀の考えを嘲笑うかのように翼の周囲で砂が蠢く。
「だがお前の異能 『氷』と俺の異能じゃあ相性が悪い。何故かわかるか?」
砂が彼の凍った左腕を包んでいく。冬空色の瞳が大きく瞠られる。氷が・・・溶けていく。
「溶けたんじゃない。氷の水分を奪ったんだ。砂は水を吸い取るだろ?それと同じだ。俺の異能は『砂』。水分を奪うことも、砂を意のままに操ることも可能」
僅かに動いた悠紀の表情から彼の考えを読み取ったかのように薄く笑い、絶句している悠紀の耳元で翼は囁く。
「お前じゃ俺には勝てない」
ほんの刹那、悠紀の動きが鈍った。それを逃す翼ではなく、手に持った大刀が陽光を弾く。
「――――ッ!!」
彼の右胸を翼の大刀が突き刺す。冬空色の瞳が極限まで見開かれ、わずかに開いた口の隙間から血が零れる。翼は悠紀の胸倉を掴み、大刀を一振りして鞘に戻す。
「動きはいい。異能の波動はカスだが使い方はまずまずだ。だが、弱い。」
悠紀の耳元で聞き取れるようにはっきりと囁き、地に投げ捨てる。ドサッと力なく地に落ちた悠紀は競り上がってくる血を吐き出し、何度も咳き込みながら翼を睨みつける。大地に付しながらもなおも力を失わない冬空色の瞳を見て翼は楽しそうに笑いを零す。
「面白い奴が多いな。三珠には」
今にも消えそうな意識を懸命に引き止めながら傷口を凍らせた悠紀は四肢に力を込める。こんなとこで倒れている暇はない。約束したんだ。俺は・・・。
「必ず、お前を護ってやると」
この約束だけは破りたくない。魂に刻んだ、誓い。
「待て・・・よ・・・」
背中を向けて去りかけていた翼が振り返る。剣に縋るような格好になりながらも悠紀が立っていた。急所ではないがあの傷で動けるとはね・・・。
「ホント、面白い奴らだ」
「俺は負けるわけにはいかないんだよ」
薄っすらと悠紀の足元から薄い氷が広がっていく。血染めの体を冬空色のオーラが覆い、彼の上着が漏れ出る力に煽られてふわふわと揺れる。その様子を眺めていた翼は大刀を鞘から引き抜くと挑発するように指を曲げる。
「いいぜ。来いよ」
「絶対、倒す」
自分に誓うように呟くと走り出す。翼は余裕の笑みでそれを待ち構える。
物凄い勢いで迫ってくる槍を防ぐ。渚はもう上がってる呼吸を懸命に宥めていた。こういうときだけ自分の体力のなさを痛感する。はっきり言うと自分の体力のなさを呪いたくなる。今更だが体力をつけようと心に決める。いつも必ずといっていいほど途中で諦めてしまうが。
「もう息が上がってるんだ。体力ないのは相変わらずだね」
「うるさいよ。そっちこそコントロールのなさは相変わらずだね。かすりもしないよ」
言い返しながらもゆっくり深呼吸する。同じ異能同士。相性は良くも悪くもない。こういう場合はどれだけ自分の力を上手く使えるかだ。それからもう一つ、どれだけ長く力を行使できるかが決め手だろう。その面ではこっちのが不利だ。
自分の思考に沈んでいると、水が鞭のように襲い掛かってくる。
「っ・・・・」
最低限の異能量を放出することで鞭を受け流す。集中力がいるが、渚にとってはこれくらい造作もない。以前桜に教えを乞われやり方を教えたが、彼女は上手く出来なかった。元来こういう細かい作業が苦手な桜にはこれは無理だったようだ。
「少ない異能で鞭の軌道をずらしたのか。異能量の少ないあんたならでの異能の使い方だね」
「褒め言葉として受け取っとくよ」
「さっきの槍もそうやって防いだのか。ホント、防御に関しては天才かもね。攻撃はありえないほどダメダメなくせに」
どーもと投げやりに返しながら頭を振る。一瞬両足から力が抜けかけた。これ以上長引いたら本当にヤバイ。早く決着をつけないと。そう思っているとふと脳裏に大喧嘩した日の事が浮かんできた。そしてその日に出来た新しい友達の事も。
渚はどうなってしまうんでしょうか。作者なのに気になる終わり方になってしまいました。次回は姉妹仲がこじれた原因に触れます。ではまた次の話で。




