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 チワの依頼を受けることになった俺たち。

 開拓団の人々に事情を説明した。


 後のことは、開拓団の人たちが自分でなんとかすると言ってくれた。

 マルスによる街の傷はあらかた修復したし、俺が重力を付与したツルハシなどの工具もあるから、後は大丈夫だそうだ。


「ホント、お世話になりましたっ。ガイアさん、皆さんっ」


 開拓団のリーダーが、俺たちに深く頭を下げる。


「おかげで、未来に希望が持てました……正直、この荒野の開拓、絶対に無理だと思っていたので……」


 地面が固い上に、転がっている岩の数も尋常ではない。

 人力で作業するのは、骨が折れるどころの騒ぎではなかった。

 俺が重力付与した工具が、彼らの開拓作業の役に立ってくれたらしい。


「これからも、頑張って開拓していきます。緑豊かな街にしてみせますっ。そしたら……また遊びにきてくださいっ」


 リーダーが、ごつごつとした分厚い手を俺に差し伸べてくる。

 俺は、その温かい手を取った。


「はい、必ず」


 魔人である俺の正体を、この人たちは知っている。

 重力を操る化物だと分かっていて、それでも、俺を同じ人間として扱ってくれるのだ。


 本当に、優しい人たちだ。

 俺は、この人たちのために力を尽くせて良かったと心から思う。

 ぎゅっと固く手を握り合った後、俺たちは解散した。


「では、私たち黄昏の竜はザドゥへ向かう。君たちとチワくんはヤヒコへ向かってくれ」


 開拓団の皆さんから馬車を譲り受けた俺たちは、予定通り二手に分かれて行動することになった。


「あー、おほん。ガイアくん、ちょっといいかい」

「はい」


 俺はギンコさんに呼ばれ、馬車から少し離れようとした。


「あの……リィナ。ノエル?」


 気がつけば、二人が俺の左右の腕にぴたりとしがみついていた。

 微かな衣擦れの音が響き、二人から甘い香りが漂ってくる。

 むう、と二人が低い唸り声を上げている。その鋭い視線の先には、ギンコさんがいた。


「おほんおほん、あー……二人とも? 私はガイアくんと大事な話があるんだ。悪いが、邪魔者はどこかへ行ってくれないか、邪魔だから」


 仲間を邪魔者呼ばわりするのは少し胸が痛んだが、大事な話があるというのなら仕方がない。


「悪い、二人きりにしてくれないか」

「「いやっ」」


 嫌って。


「絶対ギンコさん、色目使う気だっ」

「……きっと、いやらしいことをするに違いないわ」


 いやいやいや。


「な、な、なななにを馬鹿なことをっ。そ、そんなことするわけないだろうっ」


 ギンコさんもすっかり呆れてしまっている。それはそうだ。


「この人がそんな破廉恥なことするわけないだろう。ねえ?」

「……あ、ああ……そうだ……するわけない……うん……」


 どうしてギンコさん、ちょっと泣きそうになっているのだろうか。


「「むう……ならいいかっ」」


 ぱっ、と二人が手を離してくれた。どうやら誤解は解けたようだ。

 リィナが俺の顔を覗き込み、目を細めて釘を刺す。


「でもでもっ、えっちの波動を感じ取ったら、あたし……飛んでいくからねっ」


 意味が分からない。

 俺たちは、リィナたちの視線から少し離れた岩陰へと移動した。


「ガイアくん。ヤヒコに着いたら、これをギルドに提出してくれ」


 そう言って、彼女は冷たい金属の手触りがする自身のギルド証を手渡してきた。


「これを提出すれば、ギルドも動いてくれるだろう」


 俺たち新人の言うことなど、真面目に聞いてくれない可能性もある。


「でも……チワさんが、一般人が依頼をしたら動いてくれるのでは?」

「相手が貴族ということで、動くのを渋る可能性があるからな」


 なるほど。Sランカーの権力があれば、話は通りやすいか。


「それに、依頼人が獣人だからね」

「……なるほど」


 一部には、獣人を不当に見下している人々がいる。

 自由な組織である冒険者ギルドの中にも、そういう思想を持つ人間は少なからず存在しているのだ。


「お気遣い、ありがとうございます」

「ああ……まあ、その……あれだ。気をつけるのだぞ」


「そちらも、お気を付けて」


 ギンコさんは何やら、もじもじと身をよじっている。


「その……あれだ。その……なんというか……」

「はい」


 ギンコさんは俺に一歩近づくと、背伸びをして、俺の額にちゅっと軽いキスをしてきた。

 いつも大人で冷静な彼女が、一体なにを。


「お、おまじないだっ。上手くいくようにというっ」

「は、はぁ……」


 ギンコさんの故郷では、そんなおまじないがあるのだろうか。


「「えっち禁止ぃいいいいいいいいいいいっ」」


 猛烈な土煙を上げながら、リィナとノエルが鬼の形相でこちらへと駆けてくる。

 ギンコさんはすっごい笑顔を浮かべ、彼女たちをひらりと躱すと、そのまま軽やかに馬車に飛び乗った。


「では諸君っ。武運を祈るっ」


 そう言い残し、ギンコさんは颯爽と去って行くのだった。


「さ、さて……俺たちもいこうか……」


 リィナとノエルがぷうっと頬を限界まで膨らませると、俺の両脇を指でぎゅうっとつねってくる。

 いたたたっ。


「禁止って言ったよね……」

「いや、あれは不可抗力だろ……」


「……ガイアほどの手練れなら、避けられたはずよ」

「いや、まあでも……」


 結局、俺は二人にこってりと絞られることになってしまったのだった。


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