53
チワの依頼を受けることになった俺たち。
開拓団の人々に事情を説明した。
後のことは、開拓団の人たちが自分でなんとかすると言ってくれた。
マルスによる街の傷はあらかた修復したし、俺が重力を付与したツルハシなどの工具もあるから、後は大丈夫だそうだ。
「ホント、お世話になりましたっ。ガイアさん、皆さんっ」
開拓団のリーダーが、俺たちに深く頭を下げる。
「おかげで、未来に希望が持てました……正直、この荒野の開拓、絶対に無理だと思っていたので……」
地面が固い上に、転がっている岩の数も尋常ではない。
人力で作業するのは、骨が折れるどころの騒ぎではなかった。
俺が重力付与した工具が、彼らの開拓作業の役に立ってくれたらしい。
「これからも、頑張って開拓していきます。緑豊かな街にしてみせますっ。そしたら……また遊びにきてくださいっ」
リーダーが、ごつごつとした分厚い手を俺に差し伸べてくる。
俺は、その温かい手を取った。
「はい、必ず」
魔人である俺の正体を、この人たちは知っている。
重力を操る化物だと分かっていて、それでも、俺を同じ人間として扱ってくれるのだ。
本当に、優しい人たちだ。
俺は、この人たちのために力を尽くせて良かったと心から思う。
ぎゅっと固く手を握り合った後、俺たちは解散した。
「では、私たち黄昏の竜はザドゥへ向かう。君たちとチワくんはヤヒコへ向かってくれ」
開拓団の皆さんから馬車を譲り受けた俺たちは、予定通り二手に分かれて行動することになった。
「あー、おほん。ガイアくん、ちょっといいかい」
「はい」
俺はギンコさんに呼ばれ、馬車から少し離れようとした。
「あの……リィナ。ノエル?」
気がつけば、二人が俺の左右の腕にぴたりとしがみついていた。
微かな衣擦れの音が響き、二人から甘い香りが漂ってくる。
むう、と二人が低い唸り声を上げている。その鋭い視線の先には、ギンコさんがいた。
「おほんおほん、あー……二人とも? 私はガイアくんと大事な話があるんだ。悪いが、邪魔者はどこかへ行ってくれないか、邪魔だから」
仲間を邪魔者呼ばわりするのは少し胸が痛んだが、大事な話があるというのなら仕方がない。
「悪い、二人きりにしてくれないか」
「「いやっ」」
嫌って。
「絶対ギンコさん、色目使う気だっ」
「……きっと、いやらしいことをするに違いないわ」
いやいやいや。
「な、な、なななにを馬鹿なことをっ。そ、そんなことするわけないだろうっ」
ギンコさんもすっかり呆れてしまっている。それはそうだ。
「この人がそんな破廉恥なことするわけないだろう。ねえ?」
「……あ、ああ……そうだ……するわけない……うん……」
どうしてギンコさん、ちょっと泣きそうになっているのだろうか。
「「むう……ならいいかっ」」
ぱっ、と二人が手を離してくれた。どうやら誤解は解けたようだ。
リィナが俺の顔を覗き込み、目を細めて釘を刺す。
「でもでもっ、えっちの波動を感じ取ったら、あたし……飛んでいくからねっ」
意味が分からない。
俺たちは、リィナたちの視線から少し離れた岩陰へと移動した。
「ガイアくん。ヤヒコに着いたら、これをギルドに提出してくれ」
そう言って、彼女は冷たい金属の手触りがする自身のギルド証を手渡してきた。
「これを提出すれば、ギルドも動いてくれるだろう」
俺たち新人の言うことなど、真面目に聞いてくれない可能性もある。
「でも……チワさんが、一般人が依頼をしたら動いてくれるのでは?」
「相手が貴族ということで、動くのを渋る可能性があるからな」
なるほど。Sランカーの権力があれば、話は通りやすいか。
「それに、依頼人が獣人だからね」
「……なるほど」
一部には、獣人を不当に見下している人々がいる。
自由な組織である冒険者ギルドの中にも、そういう思想を持つ人間は少なからず存在しているのだ。
「お気遣い、ありがとうございます」
「ああ……まあ、その……あれだ。気をつけるのだぞ」
「そちらも、お気を付けて」
ギンコさんは何やら、もじもじと身をよじっている。
「その……あれだ。その……なんというか……」
「はい」
ギンコさんは俺に一歩近づくと、背伸びをして、俺の額にちゅっと軽いキスをしてきた。
いつも大人で冷静な彼女が、一体なにを。
「お、おまじないだっ。上手くいくようにというっ」
「は、はぁ……」
ギンコさんの故郷では、そんなおまじないがあるのだろうか。
「「えっち禁止ぃいいいいいいいいいいいっ」」
猛烈な土煙を上げながら、リィナとノエルが鬼の形相でこちらへと駆けてくる。
ギンコさんはすっごい笑顔を浮かべ、彼女たちをひらりと躱すと、そのまま軽やかに馬車に飛び乗った。
「では諸君っ。武運を祈るっ」
そう言い残し、ギンコさんは颯爽と去って行くのだった。
「さ、さて……俺たちもいこうか……」
リィナとノエルがぷうっと頬を限界まで膨らませると、俺の両脇を指でぎゅうっとつねってくる。
いたたたっ。
「禁止って言ったよね……」
「いや、あれは不可抗力だろ……」
「……ガイアほどの手練れなら、避けられたはずよ」
「いや、まあでも……」
結局、俺は二人にこってりと絞られることになってしまったのだった。
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