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俺たちは荒野の岩陰で、一旦休息を取ることにした。
乾いた風が吹き抜け、微かに砂の匂いが鼻をくすぐる。
ひと息ついたところで、助け出した獣人の女性から事情を聞いておきたかった。
獣人の女性は、俺たちの前に進み出ると深々と頭を下げる。
「改めまして、助けていただき、ありがとうございます。わたくしはチワと申します」
チワは少し垂れ気味の耳を揺らしながら、何度も俺たちに向かってお辞儀をした。
「私は黄昏の竜のギンコ。こちらは星空の夜のガイア君。我々は冒険者だ」
「なるほど……どうりでお強いわけですね。あの巨大な砂蟲を倒すだなんて」
「優秀な仲間たちの協力があってこそだ」
ギンコの言う通りだ。
個人での撃破は、絶対に不可能な敵だっただろう。
「協力……」
じっと、チワが俺の顔を見つめてくる。
「どうしました、チワさん」
「いえ……その、見えない力を使っていませんでしたか。ガイアさん」
心臓が小さく跳ねた。
初見で俺の重力魔法を見破る人がいるとは予想外だった。
大抵の人は、俺が戦闘中に何もしていないと非難してくるのだから。
この世界に重力という概念が存在しない以上、それは当然の反応だと言える。
だが、この人は俺が何かしらの力を使っていると見抜いてきた。
少しだけ警戒心が頭をもたげる。
「そ、そう警戒なさらないでくださいまし。ただ、似たようなことができる人が、わたくしの近くにいたんですわ」
似たようなことができる。
それはつまり、魔人ということだろうか。
俺以外に、人間に味方する魔人がいるなんて驚きだ。
とはいえ、すべての魔人と出会ったわけではないし、皆がマルスのような危険な連中とは限らない。
師匠も以前、そう言っていた。
魔人が悪かどうかは、己の目で見定めろと。
「して、チワさん。一体あなたは、こんなところで何をしていたのだ」
ギンコの静かな問いかけに、チワは少し慌てたように答える。
「助けを求めて、街の外へ出てきたのです」
「助け。街の外とは」
「わたくしはここからさらに西へ行ったところにある、ザドゥからやってきたのですわ」
「ザドゥ……」
その名には聞き覚えがある。
師匠から教わった知識が脳裏に蘇った。
「迷宮都市ザドゥか」
すると、リィナがちょこんと小首をかしげる。
亜麻色の髪がさらりと揺れた。
「はいはいっ、迷宮都市ザドゥって、なぁにっ」
ノエルが呆れたように、小さくため息をつく。
「……リィナ。あなた、仮にも学園を出ているんでしょ」
「てへへっ」
「……一応言っておくけど、褒めてないからね」
「えーっ。詐欺じゃんっ」
頬を膨らませるリィナに向けて、俺は丁寧な説明を心掛ける。
「迷宮都市ザドゥは、俺らが拠点としてるゲータ・ニイガの北西に位置する辺境都市だ」
「あれあれ、ここも西の果てだよねっ」
そう、隣接しているわけではないが、距離的にはかなり近い。
だからこそ、チワはここまで逃げてきたのだろう。
「文字通り、ザドゥは迷宮を中心として発展していった都市だ」
巨大な迷宮があれば、そこで富を得ようと大勢の人間が集まってくる。
彼らを相手に商売を始める者も現れ、そうして独自の経済圏を築いていったのがザドゥという街だ。
「あれ、でもダンジョンなんて世界各地にあるよね。わざわざザドゥに行かなくてもよくなぁいっ」
「ザドゥは世にも珍しい、塔の形をした迷宮を持っているんだ」
「塔。天までびよーんって伸びてる、あれのことっ」
「ああ。塔の内部では、通常の迷宮では見つからない未知の素材が手に入るらしい」
あくまで師匠から聞いた話なので、実際にどのような希少素材が存在するのかは俺にも分からない。
とはいえ、珍しい品はそれだけ高値で取引される。
一攫千金を夢見て、多くの冒険者たちがザドゥを目指すのだ。
「チワちゃんはザドゥから逃げてきたってことだけど、何かあったのっ」
そこは俺も一番気になっていた点だ。
「……実は、ザドゥは現在、ある貴族の支配を受けているのです」
「支配」
「はいですわ。その名も、ゲーヒィン」
俺にとっては聞き馴染みのない名前だ。
だが、ノエルがわずかに目を丸くした。
それは本当に一瞬の変化で、彼女はすぐにいつもの冷静な表情へと戻る。
「……ゲーヒィンが、街を支配」
「はい。ゲーヒィンは他所から流れてきた方らしいのですわ。ザドゥはそういうよそ者を、快く受け入れる風習がありますから」
最初はゲーヒィンも大人しくしていたのだという。
「しかしいつからか、ゲーヒィン派閥とでも言えば良いのでしょうか。彼に賛同する人間が不自然に増えてきたのです」
その勢力は日増しに膨れ上がり、ついには街の過半数がゲーヒィンの言いなりになってしまったそうだ。
「ゲーヒィンは街の人たちに強制労働を強いました。まるでこの街の、長であるかのように……」
チワは悔しそうに唇を噛む。
よそ者が突如として現れ、街を乗っ取ってしまったのだ。
昔からその地で暮らしてきたチワにとっては、耐え難い屈辱だろう。
「わたくしたちはゲーヒィンを追い出すべく、行動を開始しました。ですが、気づいた時には街の人間のほとんどが、彼に支配されていたのです。残るはわたくしと、家族だけになっておりました」
チワの言葉に疑問が残る。
どうして彼女の家族だけが、ゲーヒィンの異常な支配に抗えたのだろうか。
「家族はわたくしを逃がすだけで手一杯でしたわ。今頃は……」
おそらく、ゲーヒィンに捕らえられているだろうと彼女は言う。
ゲーヒィンを打ち倒し、家族と街を救うため、危険を冒して外へ助けを求めたというわけか。
そして偶然にも、俺たちと遭遇した。
「お願いします。どうか、ザドゥを助けてくださいっ」
チワは地面に膝をつき、必死の形相で頭を下げた。
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