03 -クリスティーネ side-
——俺は綺麗だと思ういますよ。貴女によく似合ってます
目の前の男が発したその言葉に、私は思わず息を止め、体を大きく震わせた。
化け物。そう言われて生きてきた。
昔、この国は人間と魔物は共存して生きていた。しかしそれも昔のこと。いつからか人間は人間は魔物の住処である森に攻め入り森を燃やし、魔物を狩るようになった。魔物の鱗や牙はこの国の貴族に高く売れるからだ。 魔物たちもまた人間を襲い、街を襲った。
そんな魔物たちを統べる魔王が私の父なのだと、私はお母さんからよく聞かされていた。
初めは信じられなかった。だって、魔王なんて、空想上の生き物だと思っていたから。けれど、成長するに従って目立ってきた私の背中に生えた翼が、お尻から地面に垂れる尻尾が、額の二本のツノが、間違いなく私が魔物の血を引いていることを告げていた。
私とお母さんは二人で村のはずれに住んでいて、お母さんは私を決して家から出そうとはしなかった。今思えば当たり前のことだ。見るからに魔物の血を引いた娘など、他の人に見つかりでもしたらなにをされるか分かったもんじゃない。
けれど、幼い私にはそんなことは理解できなかったのだ。ずっと家に引きこもっていることが不満だった私は、お母さんの目を盗んで外へと抜け出した。
それが地獄の始まりだった。
私の姿を見た村人たちはこぞって私に石を投げ、罵詈雑言を浴びせた。お母さんが助けてくれなかったら殺されていたかもしれない。私たちは命からがら村から逃げ出し、そこからいろんな村や街を転々として過ごしていた。
背中の翼を服で覆って、お尻の尻尾はスカートの中にしまって、額のツノは帽子の中に隠して。そうすれば私は人間となんら変わらない見た目をしていた。お母さん譲りの銀髪に、空を閉じ込めたような青い瞳。村や町の人も、最初は私を見て可愛いねなんて言ってくれる。
けれど、時間が経つにつれていつかばれてしまう。そのたびに人々は態度を一変させた。私のことを可愛いと褒めたその口で醜いと、化け物めと言い放つ。
そうしてまた逃げるようにして別の街へと移り住むのだ。
体が弱かったお母さんはそんな生活に耐えきれず、一年前に病気で亡くなった。
それからずっと、この街で独りで住んできた。
けれど私はまた化け物だと言うことがばれてしまって、さっきまで追われているところだった。
目の前の男に出会ったのも、逃げている途中でぶつかったことがきっかけだった。謝って慌てて駆け出そうとしたら風が吹いて、帽子が飛んでいって——その時、彼は確実に見たはずなのだ、私のツノを。
けれど、彼はなにも言わなかった。それどころか帽子をキャッチしてくれて、笑顔で返してくれた。
信じられなかった。私のツノを見てそんな笑顔を向けてくれる人なんていなかったから。
気がつけば、彼の手首を掴んでここまで連れてきてしまっていた。
「......綺麗?ほんとに?」
その言葉はみっともなく震えていた。
「うん」
そう頷いて、また柔らかく微笑む彼。
覚悟を決めて、着ているワンピースを脱ぎ捨て下着姿になった。その瞬間、ばさりという音とともに収納されていた翼が大きく広がる。隠されていた尻尾が大きくうねり、びたんびたんと地面にうちつけられる。
「.....これ、でも?」
私の姿を見て、彼が目を見開いたのが分かった。けれど、その瞳に嫌悪の色は浮かんでいない。彼はゆっくりと私に近づいてくると、「すごい。かっこいいですね」と言って笑った。
——ああ。
涙が一筋、頰を滑り落ちた。




