第四百九十三話「解決、……解決?」
色々と言いたいことはある。まずその噂の出所だ。一体誰がそんなデマを流したのか。何か目的があるのか?
俺は生徒会になんて入らない。柾の誘いもずっと断っているし、最初に生徒会室に呼ばれた時もきっぱり断った。俺が生徒会に入るなんてデマが一体どこから流れて、誰が何の意図で言っているのか……。
そして『九条咲耶が生徒会に入るらしい』というデマが流れているとして、どうしてすでに立候補していた者達まで立候補を取り下げるというのか。
まぁ……、正直に言えばわからなくもないよ?
本来生徒会は外部生の心の拠り所となっていた。別にそういうルールがあるわけじゃないけど慣例的に生徒会はこれまで外部生のみで構成されていて、内部生達から守ってくれる盾のように思われていた。その生徒会に内部生の代表のような五北会メンバーが入るとあっては黙っていられないだろう。
外部生は内部生を、しかもその代表のような五北会を目の敵にしている。そんな五北会メンバーが外部生の聖域である生徒会に入ってくるのなら、生徒会そのものをボイコットしてやろうということなんだろう。そう思ってしまうのもわからなくはない。だけど俺は生徒会になんて入らないって言ってるのに……。
もし……、万が一このまま立候補者が足りないままだったらどうなる?立候補の届出期間を延長して選挙も先延ばしになるだろうか?それとも人数が足りないまま次期生徒会がそのまま発足するのだろうか?
恐らくこんなことは前代未聞だ。生徒に無理やりやらせるにしろ今まで立候補者が足りないなんてことはなかったに違いない。一人二人足りないくらいなら先生が生徒に立候補を促してやらせていたと思う。でも今回は七人も足りない。しかも恐らく教職員があちこちの生徒に勧めているだろうけど誰も応じてくれていないということだ。
正直に言えば生徒会がどうなろうと知ったことじゃない。俺は別に藤花学園の生徒会に思い入れもないしこのまま人数が足りなかろうが、選挙が延期になろうが、はっきり言ってどうでもいいとすら思っている。でもこの問題はそれだけで済まない。
このまま……、生徒会の人数がまったく足りないとか、選挙が延期になるとか、そういうことになった場合どうなるだろうか?この噂の当事者である俺が生徒会を潰すためにこんなことをしたとかそういう話になるのは目に見えている。
まさかそんな論理の飛躍が……、なんて暢気に構えていられない。今までだって似たようなことは何度もあった。そしてこのまま放っておけばそういったことの二の舞になる。
『九条咲耶が邪魔な生徒会を潰すために選挙妨害を行った』、『そのため次期生徒会は人が集まらずにおかしくなった』、きっとこのままいけばこんな噂になってしまうに違いない。
どうにかしなければ……、このままではまずい……。非常にまずい……。
「頼む!生徒会に入ってくれ!」
「…………それはますます事態を悪化させます。私に考えがあります。私は生徒会には入りませんが、立候補者は戻るようにしましょう。それで良いでしょう?」
「…………」
「…………」
「……頼む」
よしっ!柾も諦めたらしい。ここで俺と柾が二人だけで生徒会をやっていくのと、俺を諦めて普通に生徒会が開かれるのではどちらが良いか。柾は冷静に判断した上できちんと正しい選択が出来た。それならまだ打つ手はある。
「それでは私は立候補者を戻すための準備に入りますのでこれで失礼いたしますね」
「……ああ。呼び止めてすまなかった……」
あ~ぁ……。柾め。完全にシュンとしてしまっている。まぁ自分が空回った上にこんな事態を招いてしまったんだからな。相変わらず『空転王子』の名は伊達ではないらしい。最初から俺を無理に生徒会に入れようとしなければこんなことにはならなかったのに……。ご愁傷様。
それはそれとして俺も早速準備に取り掛からなければ……。時間はあまり残されていない。もし今回の生徒会選挙がうまくいかなければ俺のせいにされかねない。結果的に失敗だろうが人が足りなかろうが知ったことじゃないけど、とりあえず俺のせいではないというアリバイは作っておく必要がある。
「あっ、もしもし、杏さんですか?急なお電話申し訳ありません。今お時間大丈夫でしょうか?はい。少しご相談がありまして……」
最低限俺のせいではないというアリバイ作りのために俺は早速協力者に連絡を取ったのだった。
~~~~~~~
今朝のホームルームでも担任が生徒会選挙の立候補について説明していた。今日が締め切りだというのに立候補者が足りなくて困っているんだろう。うちの担任は慌てているような言い方をしないから何とも思っていなかったけど、柾にあの話を聞いた後では毎朝熱心に説明している理由がわかったというものだ。
「担任からクラスの出し物について説明がありませんでしたね」
「昨日会議をしなかったってことですよね!教員は弛んでるんじゃないですか?」
「まぁまぁ薊ちゃん……。先生方も色々とお仕事があるのですよ」
興奮している薊ちゃんを宥める。今は文化祭の出し物の会議などしている場合ではないからだろう。今教職員の頭を一番悩ませているのは生徒会選挙の問題のはずだ。そちらの会議ばかりで文化祭の議題は後回しになっているのは容易に想像がつく。
とにかく俺達の文化祭の出し物の会議をしてもらうためにも、そして俺が変な汚名や罪を着せられないためにも、まずは生徒会選挙の問題をどうにかしなければならない。
「咲耶ちゃん……、また一人で何か背負っておられるのではありませんか?」
「え~……、まぁ背負うというほどのものではありませんよ。もうすぐ解決しますのでご心配には及びませんよ」
皐月ちゃんがコソッとそんなことを聞いてきた。どうやら俺の様子がおかしいことに気付いたらしい。様子がおかしいというほど焦ったり大変だと思っているわけではないんだけど、それでも皐月ちゃんは何かを察してくれたんだろう。その気持ちは素直にうれしいけどそんなに心配するほどのことじゃない。
解決策もすでに用意して手を打っているし、生徒会選挙そのものが失敗しても俺には関係ない。あくまで俺にとって重要なのは『今回の生徒会選挙を九条咲耶が邪魔しようとした』という風評被害を受けなければ良いということだけだ。その結果立候補者が戻らなくて選挙が失敗してもそこまでは知らない。
皆と適当に話をしながら、俺はその時が来るのを少しドキドキしながら待っていた。
~~~~~~~
お昼休み……。いつもなら皆と一緒に食堂に向かうところだけど今日はその前にやるべきことがある。皆には後で食堂に向かうからと言って別れて俺は目的の場所へと向かった。
「御機嫌よう、杏さん」
「咲耶たん!準備は万端っすよ!」
昨日の放課後に急に電話して頼んだというのに杏は俺の頼みを快く引き受けてくれた。そしてすでに準備を終えて待ってくれていたようだ。俺はその部屋に入りながら杏と軽く打ち合わせを行う。
「私が事前に説明を入れてもいいっすよ?」
「いえ、私が説明する方が良いでしょう。そこまで杏さんにご迷惑をおかけするわけにもまいりません」
「迷惑ってことはないっすけどね!私はそういうのが好きでやってるわけっすから!」
ニッと笑って杏がそう言ってくれた。でもここまで準備するだけでも大きな苦労をかけてしまったんだ。その上説明までしてもらって全て任せるというわけにはいかない。
俺はこういうのは苦手で今でもドキドキしているけどここまできたらもう覚悟を決めなければ……。杏の方を向くと杏が合図を出した。俺も頷いて返事をすると杏が手元の機器を操作する。
『御機嫌よう、藤花学園の生徒の皆さん。私は一年三組の九条咲耶と申します。本日は事情がありこのお昼の時間を利用して校内放送をさせていただいております』
俺はマイクに向かって言葉を発する。外にどんな音が流れているのかはわからないけど……。俺は今杏に頼んで放送室から校内放送を行っていた。
『このような放送をさせていただいているのは本日が立候補届の締め切り、来週が選挙期間である生徒会選挙についてのお話をさせていただきたいと思ったからです』
何か相手もいないのにマイクに向かって一人で話しているのは妙な気分だ。しかも自分の声が校内全てに放送されているかと思うと変なドキドキが止まらない。本来俺はこういう気分はあまり好きじゃない。自分の声がこれだけ響いているなんて考えるだけでもぞっとする。でも今日は踏ん張ってこれをやりきらなければならない。
『一部の噂で私が生徒会役員に立候補しており選挙に出るという噂があるそうですがそれは真っ赤な嘘です。私は立候補届も提出していなければ出す予定もありません。誰が何のためにそのようなデマを流しているのかについては追及いたしませんが皆さんはそのようなデマに惑わされることなく、立派に生徒会選挙を行っていただきますようよろしくお願いいたします』
俺は出ないから立候補を取り下げた奴らはもう一度出ろ、と言えば角が立つ。それに俺が出ると聞いてやめたのに俺が出ないからといってまた立候補したという話になれば俺に目をつけられると思う者もいるだろう。
俺が言うべきなのはその噂がデマであり、俺は選挙に出ないということを伝えることのみ。それ以外の余計なことは言う必要はない。
『私からお伝えしたいことは以上です。お昼時にお耳汚しを放送いたしましたことはお詫び申し上げます。それでは皆さん御機嫌よう』
杏に合図を送るとまた機器を操作して放送が切られた。肩の荷が下りてほっと一息つく。
「ご協力ありがとうございました、杏さん」
「いえいえっすよ!咲耶たんのお手伝いが出来るのならいくらでもするっす!」
う~ん、杏……、良い女だな……。
ニッと笑ってそう言ってくれる杏が眩しい。こういうのが本当に良い女なんだと思う。体育祭のマイクパフォーマンスはどうかと思ったけど、あれも杏なりの気配りだったのかもしれない。杏がああやってイジってくれるお陰で親しみやすい咲耶ちゃん像を広めることに一役買っている可能性もある。
「それでは私達も食堂へ向かいましょうか」
「そっすね!お腹空いたっすよ!今日は何を食べようか迷うっす」
明るくそう言ってくれる杏と一緒に食堂へと向かった。道中周囲からヒソヒソと言われたり、食堂に着いたら着いたでグループの皆に色々言われたけど、別に皆は俺を非難したりはしない。
ただ何故急にあんな放送をしたんだとか、何故相談してくれなかったんだとか、そういうことを言ってくれただけだ。皆が心配してくれているこの気持ちがありがたい。
今回の件に関しては皆にはあまり関係ない話だし、わざわざ言うほど深刻な問題でもなかった。俺が生徒会選挙に立候補するというのはデマであること、立候補希望者達は普通に立候補すれば良いことを全校生徒に知ってもらえば良い。
その結果結局立候補者が足りなかろうが、選挙がうまくいかなかろうがそれは俺には関係ない。俺にとって重要なのは噂はデマであり、俺は選挙とは関係ないとアピールしてアリバイを作っておくことだ。その目的は達成出来たのだからこれ以上は俺の知ったことじゃない。
~~~~~~~
放課後に柾に呼び出されたので少しだけ顔を出す。この後五北会のサロンに行ってから百地流の修行に行かなければならない。長々と柾と話をするつもりはないけど、恐らく選挙関係のことでの報告か何かだろうし、一応俺も当事者の一人になってしまっている。簡単な話くらいは聞いておこうと思って呼び出された生徒会室に向かった。
「失礼いたします。押小路様がお呼びとのことでまいりましたが……」
「ああ……、こっちに来てくれ」
生徒会室に入ると最奥の机に座っている石榴とその横に立っていた柾に呼ばれた。他の生徒会役員達の間を抜けて生徒会長の席まで向かう。
「わざわざすまない。昼の放送のお陰で立候補者が戻った。九条さんの判断と行動のお陰で来期の生徒会もちゃんと出来そうだ。改めて礼を言わせてもらう」
「いいえ。どうしてこのようなお話になったのかはわかりませんが、これで私も生徒会に入れと言われずに済みますし……」
「そうだな。次の選挙は諦める。その次か、あるいは高等科では九条さんが生徒会に入れるようにきちんと段取りをするつもりだ。今回は一足飛びに無理をしようとして失敗してしまった。迷惑をかけて済まなかった」
柾が俺を『九条さん』なんて呼びながらそんなことを言った。でも待って欲しい。九条さん呼びとかどうでもいい。今柾はサラッととんでもないことを言わなかったか?
「押小路様……?何を言っておられるのですか?私は今後も生徒会になど……」
「いい!わかっている!今いきなり五北会メンバーを生徒会に入れようとするのは急きすぎだった。今度はもっときちんと根回しを行い、全校生徒に受け入れてもらえるようにする!」
「だっ、だから私は生徒会になど立候補しないと言っているではありませんか!?話を聞いてください!」
「心配するな!これから一年かけてじっくり準備していけば皆わかってくれる!」
まずお前がわかれ!俺の話を、言ってることをわかってくれ!こんな言葉も通じない奴が生徒会役員になって本当に大丈夫なのか!?




