第四百七十二話「成績上位者」
三日間の期末試験が終わった。連日テストが終わるとすぐに空き教室に集まって、翌日のテスト対策の勉強を皆でした。その甲斐もあって今回のテストは皆そこそこ良い点数を取れたと思う。
「咲耶様!今回のテストは楽勝でしたね!」
「え~……、薊ちゃん……」
テストが終わってからやってきた薊ちゃんに何とも言えない気分になる。薊ちゃんのこの自信はいつもどこから来ているんだろうか?はっきり言ってもしテスト対策をしていなかったら、今頃薊ちゃんの成績は真っ赤になっていたと思う。
「私、今回は未だかつてないほどに高得点を取れた自信があります!」
「それは……、期待しておきましょう……」
ぶっちゃけ今回のテストは蕾萌会が用意していた予想問題がかなり出た。ヤマを張って予想問題を中心にテスト対策をしていたから、予想問題を覚えていたらそれだけで相当高得点が狙えただろう。むしろ今回あれだけ予想問題のヤマが当たっていたのに点数が低ければ、どうやっても高得点を取れないんじゃないかとすら思える。
「今回は咲耶ちゃんと一緒に勉強出来たので前よりも良い点数が取れたと思います」
「芹ちゃんは頑張っていましたから」
にっこり笑顔でそう言う芹ちゃんを労ってあげる。もともと皐月ちゃんに次ぐくらい成績は良かったけど、今回は本当に予想問題がかなり当たっていた。塾というのは長年過去問を収集して、その学校の問題や傾向を把握している。それを元に予想問題を作ると結構な確率で当たっているか、相当近い問題が出るものだ。
前世でも塾のテスト対策とかはかなり重宝した。こちらでも蕾萌会はかなりの精度で予想問題を当てていたし、やっぱりプロはプロだと改めて思った。単純なテスト対策だけなら塾に敵う物はないだろう。
「咲耶様!芹だけ特別扱いしてませんか?」
「そのようなことはありませんが……」
まぁ特別扱いしているわけじゃないけど、芹ちゃんは元々一人でも好成績を修めていたし、皆で集まっての勉強会にも真剣に取り組んでいた。日ごろの積み重ねの上にテスト対策までしたんだからそりゃ出来が良くて当たり前だ。
「私も今回は少し自信があります!」
うんうん。蓮華ちゃんだって成績は別に普通だったしね。良くはないけど特別悪くもない。日ごろ勉強してなかったり、効率的な勉強の仕方を知らなかっただけで、今回のように少しテスト対策をすればすぐに成績が上がるだろう。
「私はいつも通りかなー?」
「「「えぇ……」」」
譲葉ちゃんは冗談で言ってるのかな?あれだけ集中的にテスト対策をしたのに、もしこれでいつも通りの成績だったとしたら何を勉強していたのか問い質したくなる。
「とりあえず私も赤点は免れたと思います」
「これからは勉強会を定期的に開きましょう。幸い今はコンサートの練習で集まる機会が増えています。その前後などに少し勉強会も入れましょう」
「うぇ……」
俺がそう提案すると薊ちゃんが渋い顔をしていた。薊ちゃんだって頭が悪いわけじゃない。ただ少し勉強の仕方がわからなかったり、ちゃんと勉強をしていないだけだ。でも本人が勉強が苦手だという意識を持っていたらますます勉強が出来なくなってしまう。
いくら大学までエスカレーター式で安泰だとしても、最低限出来ておかなければならないラインというものは存在するだろう。それに上に立つ者として他の者に示しがつかないというものもある。最低限自分のことが出来て初めて人の上に立つ資格がある。最低限のことも出来ない者についてきてくれる者はいない。
「このグループが、最低限の成績も取れていないのに内部生だからというだけでエスカレーター式に上がれているだけだと言われても良いのですか?」
「「「――ッ!」」」
「そんなもの許せません!」
皆急に顔色が変わった。やっぱりグループの皆がそんな風に思われたり、言われたりしたら嫌なんだろう。俺だって嫌だ。
「では……、どうすれば良いかわかりますね?」
「「「はいっ!」」」
皆力強く頷いてくれた。何かかなり真剣な様子だ。これならテストの前にこう言っておくべきだったな。そうすればもっと勉強にも身が入ったかもしれない。でも別に今からだって手遅れということはない。皆がこうしてやる気になってくれたのなら、いつから始めても遅いということはないんだ。皆まだまだ未来溢れる若者なんだから。
「それではサロンに向かいましょうか」
「久しぶりのような気がしますね!」
「それでは私達はこれで」
「咲耶ちゃんまたねー!」
「御機嫌よう」
サロンに向かう面子と、帰る面子に別れてそれぞれ移動する。テスト期間中は来ていなかったからサロンに来るのも久しぶりだ。
「御機嫌よう」
「「「「「――ッ!?」」」」」
久しぶりにサロンに入ると何かサロン内の皆にギョッとした顔で見られているような気がする。何日か来ていなかったから驚かれたのかな?ともかくいつもの目立たない奥の隅へ向かおう。そう思って歩いていると伊吹が立ち塞がった。
「おっ、おう!咲耶!」
「御機嫌よう近衛様、鷹司様」
「やぁ九条さん。久しぶりだね」
コソコソと目立たないように奥の隅へ向かおうと思っていたのに、伊吹と槐に絡まれたせいで何だか注目されてしまっている。それにしても伊吹が話しかけてくるなんて随分久しぶりのような気がする。確か六年の時に会長をさっさと桜に代われと言ってからヘソを曲げてあまり近寄ってこなくなったはずだけど……。
まぁ今日話しかけてきた理由はわかっている。今はもう七月の中頃だ。この時期に伊吹が話しかけてくる内容なんて近衛家のパーティーのことだろう。それに手に招待状を持っているのが見えている。別に伊吹も隠しているわけじゃないだろうけど、招待状が見えているから用件は丸わかりだ。
「咲耶!これを!」
「……拝見いたします」
伊吹が招待状を差し出してきて催促してくるので目を通す。ここまで予想通りなので特に驚くことは何もない。
「はい。確かに拝見いたしました」
「俺達は許婚だ。パーティーではペアを組むぞ。良いな?」
伊吹が事実を捻じ曲げて捏造しようとしているので訂正しておく。
「許婚ではなく近衛家より一方的に許婚候補宣言を受けているだけです。パーティーへの出席やペアについては家に帰り家族と相談した上でお返事させていただきます」
「おう!」
許婚じゃなくて近衛家が一方的に俺を許婚候補宣言しているだけだと言ったら伊吹もぶっきらぼうに応えた。これはつまり伊吹も俺との許婚候補宣言なんて納得していない。さっさと解消したいと思っているという意思表示だろう。
たぶん会長交代の件で俺に小言を言われて腹を立てているままなんだろうし、いい加減許婚候補というのもやめたいと思っているに違いない。ただ伊吹の方からやめると言えばまた伊吹に群がってくる女が増える。それに面子などの問題もあるから、特に理由もなく取り下げるというのも難しいんだろう。
あと何年か待てばうまく解消される……、と思っていたけど、この世界はゲームの『恋に咲く花』の世界とはかなり変わってしまっている。本当にこのまま放っておいたら高等科で俺が婚約破棄というか、許婚候補から外されるというか、そういうイベントが起こるのかあまり自信がない。
もっとこちらとしても積極的に動いていった方が良いんじゃないか?本当にこのままで大丈夫なのか?
それは心配になるけど、今すぐどうこうということもないし、今の所は他の許婚候補の相手との兼ね合いもあってペアのパートナーを務めるしかない。
どうせ母はパーティーに参加して伊吹のペアを務めろと言うだろうし、下手に余計なことを言うよりも、伊吹とは今の距離感のまま自然と許婚候補が解消されるようにもっていこう。
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期末試験が終わって、試験が終わったことで弛緩した授業が続き、各テストも授業があると戻ってきて、土日を挟んで月曜日。今週の中頃には終業式があるけどその前に今日は大変なことが起こる。
「おはようございます咲耶様!」
「御機嫌よう咲耶ちゃん」
「御機嫌よう皆さん」
別に先週にイベントがあったわけでもないのに今日は皆朝早い。その理由は……。
「そろそろ張り出される時間ですよ。行きましょう!」
「おー!」
一度席に荷物を置いて皆で揃って玄関口近くまで戻ってくる。今日は成績発表の日だ。藤花学園では期末試験後に、中間、期末の主要五教科の点数の合計が張り出される。とはいえ全員ではなく成績上位者だけなので、一定以下の者の名前や成績は張り出されない。
前述通り中間、期末の五教科合計点なので千点満点だ。成績発表とはいってもペーパーテストの点数だけなので成績表の内容や順位と同じとは限らない。あくまでペーパーテストの点数上位者発表というべきだろう。
「あっ!一年生はもう張られていますよ!」
「咲耶ちゃんはどこかなー?」
皆浮かれて名前を探してるけど俺はわかってるんだよね……。期末はまだテスト結果が戻ってきていない教科もあるけど、自己採点で結果がわかってるから……。
「「「えっ!?」」」
「さっ、咲耶ちゃんが……」
「千点満点で……」
「「「一位っ!?」」」
「え~……、まぁそのようですね……」
中間テストは全教科満点だったし、期末も副教科の家庭科でケアレスミスで一問間違えて九十八点だった以外は全て満点だった。張り出される五教科は全て満点だったから千点で一位しかあり得ない。同率一位は居ても俺を超える点数は絶対にあり得ないからな……。
「すごい!すごいです咲耶様!」
「本当に凄いですね」
「さっすが咲耶ちゃんだねー!」
「皆さん落ち着いて……。あまり大声で言うようなことではありませんよ」
成績が張り出される以上はどうせ全校生徒に見られる可能性がある。だけど自分達で騒いでは何だか自慢しているみたいに思われかねない。俺はあまりそういうことをしたくないし、そう思われたくもない。出来ればひっそりと皆にスルーされるくらいが丁度いい。
「それよりも他の方も見てみましょう」
「「はーい」」
とりあえず俺のことはおいておいて他の上位陣も見ていく。まず最初に名前があったのは皐月ちゃんだ。十位以内に入っている。というかぶっちゃけほぼオール満点に近い。
「さすがは皐月ちゃんですね」
「いえ。実は中間テストではもう少し成績が悪かったんです。本来なら近衛様や鷹司様より下だったと思いますが、今回は咲耶ちゃんと一緒に勉強会を開いたお陰で期末は点数が伸びました」
皐月ちゃんはそう言って謙遜しているけど、中間、期末の合計なんだから中間もかなり点数が良くなければこの位置はあり得ない。皐月ちゃんより少し下に伊吹と槐の名前があった。あの二人はゲームの時から何でも出来る天才みたいな扱いだったしな……。
ただあのアホの伊吹がこれだけ高得点というのが納得いかない。あんなアホのボンボンが十位以内とはどういうことなのか。
「あっ!芹ちゃんも入っていますね」
「さすが芹!」
「鈴蘭の名前もあるよー!」
「「「ああ……」」」
何か鈴蘭の名前で急にテンションが下がるというか何というか……。
二十位以内には他に芹ちゃん、鈴蘭、柾が入っていた。上位二十位までしか発表されないから他に知り合いで載っている子はいない。そもそも二十位までに知り合いが七人も入っているだけでもびっくりするくらいのことだろう。
まぁ伊吹、槐、柾の攻略対象達は元々成績が良い設定だった。こちらの世界ではもしかしたら成績も下がっているかもしれないと思ったけどそんなこともなかったようだ。
それから鈴蘭が高得点で驚いたかもしれないが実は驚くようなことじゃない。外部生は成績優秀者が多い。外部生でも貴族ならば家柄で選ばれる子も多いけど、一応受験して合格した子達ばかりだから内部生よりは成績が良いのが普通だ。
ゲームの設定だからこちらとは多少違う可能性はあるけど、ゲームでは鬼灯も普通並の成績は取っていることになっていた。こちらの鬼灯を見たら陸上馬鹿のように思えるけど、外部生として受験に合格してきただけのことはある。
「張り出されるのは成績上位者のみですが、今日は全員の点数と順位が返ってきますから楽しみですね」
「あ~……」
「いやぁ……」
「はは……」
ちょっと何人か視線が泳いでいる子がいるな。薊ちゃんは何故か謎の自信に溢れているけど、ここに名前の載っていなかった子達全体の成績はどうなっているかな?




