第四百五十話「貴重なご意見」
「えっ!?この凄い食堂を咲耶っちが作ったの!?」
いや……、俺が作ったわけじゃないぞ……。
「このメニューも咲耶っちが作らせたの!?」
いや……、別にメニューを決めているのは俺じゃないぞ……。
「老朽化していた食堂の建て替えの提案と、その際に新しいシステムに刷新するように提案しただけです……」
「「ほぇ~~~……」」
いやいや……、良いお嬢さんが『ほぇ~』はないだろう、『ほぇ~』は……。
食堂でいつものメンバーに鬼灯と鈴蘭と花梨も混ざっての食事になったけど、その間に色々と話してると何故かそういう話になった。
何でも初日に俺達が食堂のメニューがおいしくないとか何とか言っているのを聞いて、外部生達はかなり反発していたらしい。俺達からすると実際に食堂のメニューなんて手をかけずに大量生産された安かろう悪かろうな食事だと思ってたんだけど、初めて食堂を利用した外部生達は無料で提供されるにしては上出来だと思っていたようだ。
俺達は別に悪意も悪気もなく思った通りに言ってただけなんだけど、それもこうして外部生達との軋轢の原因になっていたようだ。初等科から藤花学園に通っている内部生なら食堂のメニューなんて大しておいしくないと思ってるだろうけど、外から見ればこれでも十分無料にしては贅沢と思われるようなものだと俺達は気付けなかった。
こういうすれ違いの積み重ねが、やがて内部生と外部生の対立に発展していくかもしれないと思うと、こうして鬼灯や鈴蘭のような外部生の意見というのはとても参考になる。
「建設中の小ホールと大ホールも、各校舎の音響設備の刷新も全て咲耶様のご提案よ!」
「へぇ……」
「……ん。凄い……」
何故か薊ちゃんが踏ん反り返り、それを聞いて鬼灯と鈴蘭がふんふんと頷いている。何というか凄い絵面だな……。
ゲームでは薊ちゃんは咲耶お嬢様グループの筆頭のような役で、主人公イジメも積極的で外部生との対立も激しい。そして鬼灯と鈴蘭は本来主人公の親友として支え、外部生を纏めて薊ちゃんとも何度も衝突する間柄だったはずだ。それなのに今目の前にはその犬猿の仲であったはずの両者が楽しそうにおしゃべりしている。
原作を知っている者がいればこの光景に驚かないわけがない。
「……その時に九条様に後押ししていただいて……」
「なるほど……。貴女!見込みがあるわ!咲耶ちゃんの手となり足となりしっかり励みなさい!」
「はい!精一杯頑張ります!」
そしてそこ……。茅さんは花梨を洗脳するのをやめようか?いつの間にか仲良くなった二人だけど、茅さんの言葉に花梨も手を握り締めてフンスと気合を入れている。中央の地下家育ちである花梨は、典型的中央上位貴族である茅さんのようなタイプの相手をするのが上手いらしい。むしろこの状況は茅さんが花梨にのせられて操られているとすら言えるかもしれない。
それにしても……、茅さんも最初は三人の登場に驚いていたけど、いざ食堂で食事が始まるとあっさりと三人を受け入れていた。秋桐達と校舎が別になってしまって俺達のグループも人数が減っていたし、もしかしたら茅さんも案外寂しかったのかもしれないな。
「そういう経緯で予約席が出来たのかぁ……。私はまたてっきり内部生贔屓なのかと思っていたよ」
「ですから予約席は外部生でも使えるときちんと説明会があったでしょう?」
「……ん。でも寄付一万は高い……」
「あの料理が一万で食べられるわけないでしょう?あれは物凄く破格ですよ!その不足分は五北会から賄われているんですから!」
「それはもうわかったけどやっぱり外部生は使いにくいと思うよ。利用してるのは内部生ばかりだし、抽選って言われても当たらないし、実際には外部生には当たらないんだろうって最初から言われてたよ」
こっちはこっちで白熱した議論になっていた。どうやらここでも内部生と外部生の意識の違いというか、俺達では気付けなかった盲点の指摘があったらしい。
抽選が滅多に当たらないのは内部生だって同じだし、寄付一口一万で予約席の料理が食べられるのなら確かに破格だ。でも今までこのシステムを利用したことがない子が、しかも外部生は差別されていると思っている子達ならなおさら『抽選』と言われても、その抽選結果には作為的なものがあるんだろうと思ってしまうだろう。
何度か試しに抽選に応募しても誰も当たったことがなければ、『外部生だからそもそも最初から抽選で当たる可能性から排除されている』という誤解が広まってしまうことも考えなければならなかった。でも俺達はまさかそんな風に思っている子がいるなんて考えてもいなかった。
寄付一口一万というのもそうだ。俺や俺の周りにいる子達なら『一人の一回の食事が何十万』とか言われても何とも思わない。だから昼食一万と言われてもむしろ『安い』と思うくらいだろう。それどころかたった一万の食事なんて安物の大しておいしくないものではないかと考えてしまうくらいだ。でも庶民にとって昼食一食一万円と言われたらどう思う?
前世で俺が昼食一食に一万円もかけていたか?かけるわけがない。精々小さいお札一枚と小銭くらいで支払い出来るような定食とかを食べていただろう。何なら節約のためにとワンコインの食事で済ませることもあったはずだ。それなのに俺は何故そんなことすら忘れていた?
「河村さんと加田さんのお話はとても参考になりますね」
「咲耶っち!その河村さんってのやめて!私達もう友達でしょ!」
「……ん!こっちは咲にゃんって呼んでる!加田さんはおかしい!」
「あっ!あっ!それでは九条様!私のことも吉田さんはやめてください!」
「わっ、わかりましたからちょっと落ち着いて……」
一斉に三人に迫られてまた俺の方がたじろぐ。この三人はかなりグイグイくるな……。きっと他の皆も呆れて……。
「「「「「…………」」」」」
「あれ……?」
何か皆ちょっと温かい目で三人を見てる?何かもっとこう……、新しい登場人物達に警戒とか、邪魔者扱いとかそういうのがあるかと思ったけど、何かこう……、姉が年下の子達を温かく見守っているような視線を送っている。
まぁ鬼灯や鈴蘭は主人公サイドになって敵対してしまったら厄介な相手だし、皆と仲良く出来るのならそれに越したことはないんだけど……。何か腑に落ちないというか、納得出来ないというか……。
「聞いてる?咲耶っち!」
「……ん!」
「九条様!」
「はいっ!聞いてますから!それではこれからは下の名前で呼びますから落ち着いて!」
それを聞いて三人が笑顔になると、グループの皆もほっこり笑顔になっていた。もしかして……、皆案外この三人のことをもう受け入れてくれているのかな?そう思うとうれしい反面、何だかちょっと複雑な気持ちもしたのだった。
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茅さんもグループの皆も、あっさり三人のことを受け入れて打ち解けていた。短い休憩時間まではこちらに来ないから昼食以外はバラバラだから今はいないけど、もしかしたらそれもそのうち休憩時間まで教室にやってくるようになるんだろうか……?
それよりも今日の昼食で思わぬ収穫がいくつもあった。やっぱり俺もこのお嬢様グループの中にずっと長く居たせいか結構毒されていることに今更気づいた。元々前世では庶民で、庶民の感覚がわかるお嬢様を自負していた俺だけど、いつの間にか皆に染められてこの生活が当たり前になっていたようだ。
内部生になれるような家柄の子なら寄付一口一万でも、予約席の料理がその値段で食べられるなら破格だということを理解している。それに決して安くはないとしても寄付出来ない金額でもない。さらに今まで初等科で経験してきているから、寄付出来なくとも根気強く抽選に応募していればそのうち当たることも知っている。
でも外部生は一般家庭育ちの子達もいるんだ。そんな家の育ちの子が、昼食一食のために一万寄付すると言われて寄付出来るだろうか?両親だって色々と藤花学園に通わせるために負担しているはずだ。その上でさらに余計な寄付まで出来る余裕のある家がどれだけあるだろう。
初等科六年間通っている間に俺も随分と常識が変わってしまったものだ……。郷に入っては郷に従えとも言うけど、庶民派お嬢様のつもりで庶民感覚を忘れてしまっていたとは……。
「予約席の件ですが……、初等科から経験してきている内部生は、何度も抽選に申し込めばそのうち当たることを理解していますが、やはり外部生は数度試して当たらなければ諦めてしまうのではないでしょうか?それに寄付も負担になってしまいますし、寄付ですら口数が多すぎて抽選になりますから、自分達は最初から弾かれていると勘違いしてしまっても仕方ありません」
「それはそうかもしれませんが……」
「私達でも予約はギリギリしか取れないしねー」
「本当なら咲耶ちゃんは毎日予約席でも良いはずですけど……」
「咲耶ちゃんが出来るだけ席を譲っていてもこの状態ですもんね」
俺が毎日予約席を確保するというのはどうかと思うけど、確かに優遇されている俺達だって週に一回分の席しか貰っていない、というかそれだけでいいと言ったんだけど……。これ以上減らすのは勘弁してもらいたいし、俺達がいくらか席を譲っても大きな変化はないだろう。もっと根本的な……。
「例えばですが……、月に一度でも外部生が優先される日を設けるとか、入学後に一度予約席を体験してもらうとかはどうでしょうか?」
「「「う~ん……」」」
俺の提案に皆も顎に手を当てて考えてくれている。大体中等科は毎年平均的に一クラス四十人に満たないくらいだ。外部生は四組に全て集められているわけではなく、一部は他のクラスに混ぜられ、内部生も四組に編成されることで内部生と外部生の交流が図られている。だから毎年中等科から入ってくる外部生は四十~五十人くらいだろう。
入学後に一日外部生達にも予約席を体験してもらうというのは比較的簡単だろう。内部生は初日だけ予約席が使えませんということにすれば済む。そして内部生は初等科で経験済みだからそう大きな反発もない……、と思う。でも毎月四十~五十席、それを三学年分、外部生優先で確保するとなると内部生の反発は大きいかもしれない。
内部生だって抽選や寄付で必死に席を確保しようとして、物凄い倍率を潜り抜けて席を確保している。それなのに寄付もせず、抽選もせず、外部生だというだけで毎月優先されては……、そりゃ反発するよな……。自分でも言っててこれは無理かと首を振る。
「毎月というのは少し難しいかと……」
「でも入学後に一回体験してもらうのは良いと思います」
「一度食べてみて、良いと思った子はその後から寄付でも抽選でも頑張るでしょう」
「その後でちゃんと外部生の子でも抽選が当たるとわかれば効果は十分だと思います!」
「さすが咲耶様ですね!」
薊ちゃんは褒めすぎだとしても、入学の後に一回体験してもらうというのは皆も好感触だった。一度予約席の料理を食べて、また食べたいと思って寄付したり、抽選に何度も申し込んで、外部生でも寄付出来たり、抽選に当たる子が出てくれれば皆の見る目や意識も変わるだろう。
今は何度か試してみても誰も当たっていなければ、やがて『外部生だから当たらないんだ』と思われて、誰も挑戦してくれなくなっている。それがますます『やっぱり外部生は当たらないから誰も利用したことがないんだ』という認識になってしまっている。
「それじゃ早速今日の放課後に校長と理事長に命れ……、いえ、『お願い』に行きましょう!私が電話しますね!」
「えっ?今日いきなりですか?大丈夫でしょうか?」
薊ちゃんが張り切って電話をかけ始めた。でも校長とか理事長ってそんな急に言ってすぐ会えるような相手だったっけ?まぁ校長なら学校にいることも多いだろうけど、あちこちに出掛けてることも多いだろうし、今日言って放課後にすぐというのは相手の都合もあるんじゃ……。
「……そうよ。今日の放課後に中等科校長室に集まっておきなさい。咲耶様が参られるわ。遅れたらわかっているわね?……、咲耶様!校長も理事長も放課後に校長室で待っているとのことです!」
一度少し離れて電話で話していた薊ちゃんは、ウロウロしながら電話先の相手と話していた。全部の内容は聞こえなかったけど、どうやら校長か理事長にうまく繋がったようだ。
「え~っと……、あっ、ありがとう?」
でも、あれ?校長とか理事長ってそんな簡単に会えるんだっけ?まぁいいか……。とりあえずこれで外部生と内部生の意識の違いや軋轢の原因の一つが取り除けるかもしれない。今後の俺の平穏な生活のためにも、もっと内部生と外部生がどちらも穏やかに過ごせる環境を整えなければな。




