第四百三十八話「決戦はパーティー!……ではなかった」
鬼灯達を誘いに来た花梨は二人と共に四組へと戻るとクラスメイト達もパーティーに誘い始めた。
「今度開かれる萩原家のパーティーに是非参加してくださいね。招待状はあとから正式なものが来ることになっていますが、急な話なのでまずは私から伝えているんです」
「あっ、えっと……、はい……」
「あははっ……」
まずは伝えやすい内部生から伝えられる。萩原家のパーティーということは主催者は同級生の萩原紫苑だろう。昔にあった騒動の原因の一人でもあり、あれ以来九条様に睨まれているなどという噂もあって周囲から敬遠されている。
しかし半家とはいえ堂上家からの誘いを断るというのも難しい。わざわざ正式な招待状を送る前にこうして伝えてきているということは、断らずに出席しろという圧力に他ならない。招待状を送ってきただけならば不参加や欠席で送り返しても良いだろうが、先触れとして格下の一門の者に口頭で説明させるのは『断ることは許さない』という意思表示だろう。
内部生達は堂上家に逆らうことの意味を理解しているので、他の用事をキャンセルしてでも出席することで一致した。これでパーティーの誘いを断れる者は四組内部生にはいない。
「えっと……、主催者の萩原紫苑様が皆様も是非ご参加くださいと……」
「ふんっ……」
「お話はわかりました」
続いて花梨は外部生貴族達に伝える。内部生ほどではないにしても外部生貴族も貴族の端くれだ。鬼灯や鈴蘭と話していてもわかるが、外部生貴族達は堂上家達の恐ろしさを理解していない。それでも地方貴族として最低限の社交界のルールというものは理解している。
「まぁいいんじゃない?」
「内部生のパーティーとやら……。一度くらい見てあげるわ」
「「「きゃははっ!」」」
少し小馬鹿にしたようにそう言って引き受けた。断れば角が立つ。それに社交界に顔を出すのが貴族の務めだ。まだこちらの貴族達のパーティーに誘われたことはない。ついでに中央貴族のパーティーとやらを見て冷やかしてやるのも良いだろうと軽く考えていた。
「あの……、皆様も全員ご参加くださいね」
「ふ~ん」
「パーティーねぇ……」
外部生一般生徒達はニヤニヤとしながら花梨を見下した目で見る。吉田花梨は結局のところ、所詮はその萩原紫苑とやらの使いっ走りでしかないということだろう。こんなお使いを頼まれているのだから吉田花梨の立ち位置というものも知れる。
世間一般や不良の立ち位置であったのならば確かにその通りではあるかもしれない。使いっ走りなどただの捨て駒扱いで、日ごろは雑用をさせられ、いざという時は簡単に見捨てられ、切り捨てられる。外部生一般生徒達の認識はそんなものだった。だが貴族は違う。
どんな使いっ走りであろうとも、下っ端の取るに足りない家であろうとも、一族、門流、派閥の者に危害を加えられたならば、長が出てきて必ず守る。そういう信頼関係があるからこそ派閥、門流というものが成り立っているのだ。
つまり派閥の長や一族の長者の力を示すということは、そこに所属する者達がどのような者に庇護されているかを示す場である。花梨の吉田家が吉田本家ではなく分家で、卜部氏庶流の萩原家と直接の主従ではないとしても、一門である吉田庶流と萩原家は何かあれば協力し合う立場にある。
吉田花梨は萩原紫苑のただの使いっ走りで捨て駒などではなく、いざとなれば萩原紫苑も協力して吉田花梨のために手を尽くすことになる。しかし外部生一般生徒達にはそれが理解出来ない。
「いいわよ。出てあげようじゃないの」
「そうねぇ……。『出てやる』わよ」
「「「ぎゃははっ!」」」
内部生達は外部生達の言葉を聞いて『怖いもの知らず』という言葉を思い浮かべた。もちろん褒め言葉でも何でもない。度胸があるという意味ではなく、無知ゆえに怖いものも理解出来ずに無鉄砲だという意味だ。
こうして舞台は整った。四組の生徒達は全員萩原家のパーティーに出席することになった。それとは別に何故か押小路柾と錦織柳も出席することになったのだが、この時はまだそれは知らなかった。
~~~~~~~
あっという間に日は過ぎ四月も末の週末……。運命の萩原家のパーティーの日がやってきた。移動の足のある者は自力で、足のない者は萩原家からの迎えがやってきていた。そして連れてこられた会場を見た瞬間、外部生貴族、外部生一般生徒達は全員固まった。
「えっ……?」
「こっ……、ここがパーティー会場?」
デカデカとしたホールだ。明らかにパーティーなどの会場となる貸しホールだろう。そうに違いない。
「どっ、どうせどこかの貸しホールでしょ?」
「借りるのにどれくらいかかるのかは知らないけど、借りるだけなら私達だって出来るわよ……」
中等科一年四組の招待客は皆で集まっていた。そこで外部生貴族と外部生一般生徒達がそんな会話をしている。いつもは仲が悪い両者だが、こんな時は『ねー』『ねー』と言わんばかりに仲良く話していた。しかし……。
「ここは……、萩原様のご自宅ですよ……。隣にあるのが本宅です」
「「「…………は?」」」
内部生の言葉に外部生貴族と一般生徒達が固まる。言葉の意味が理解出来ない。とても立派な貸しホールにしか見えない。そこらの冠婚葬祭用のホールより遥かに立派なのだ。それが個人所有……。意味がわからない。こんなものを作って持っていてそんなに活かせるのかと疑問に思う。だが持っているのだ。中央貴族の堂上家ならばこれくらい持っているのだ。
「今回はこちらの小ホールで小さなパーティーだそうですが、いつもは別の場所にある大ホールでパーティーを開かれているそうですよ」
「「「「「――――ッ!!!」」」」」
この規模のホールを個人で所有し、しかもこれでまだ小ホール扱いだという。外部生貴族達は一気に青褪め、一般生徒達は自分達の場違い感にようやく気付いた。
出入りしている招待客は皆豪華なドレスを身に纏い、優雅に高級車で乗り付けている。それに比べて自分達はショッピングモールなどでも売っている安物のドレスに身を包み、萩原家の車に送迎してもらっている。
「おっ、お金持ちだからって何よ」
「そっ、そうよそうよ!」
「「「…………」」」
一部の者は必死にそう言って虚勢を張り、皆を同調させようとしていた。しかし外部生貴族は誰一人それに賛同しない。たったこれだけで自分の家との格の違いをまざまざと見せ付けられ、完全に萎縮してしまっている。一般生徒達でも『内部生と外部生の格の違い』というのははっきりわかる。これで何か言っても虚勢でしかない。
「あ~あ……。これだからパーティーは嫌だったんだよなぁ……」
「……ん」
鬼灯と鈴蘭もげんなりした顔で首を振る。この二人の場合は萩原家と自分達の格の違い云々というよりも、単純に堅苦しいパーティーが苦手で嫌だというだけだが……。
「全員揃っているな?俺から離れるな」
「やぁ!」
そこへ押小路柾と錦織柳もやってきた。押小路はビシッと決めているが表情は硬かった。それに比べて錦織は少し緩い服装に態度も緩い。
「あっ!錦織君、ごめんね。無理言っちゃって……」
「……ん。苦労かけた」
「いいよいいよ。それにうちも親戚だからさ」
「…………」
鬼灯と鈴蘭は柾への挨拶は一言で済ませ、すぐに錦織と話し始めた。しかも錦織には謝っている。錦織は本来このパーティーに呼ばれていなかったが、鬼灯達がパーティーが不安だからと錦織にも同行してもらえないかと頼んだのだ。だから二人が錦織に頭を下げるのはわかるが……、それにしてもほとんどスルーされている柾の周りの空気が痛い。
「皆も緊張してるみたいだけど、今日のパーティーはそんな堅苦しいものじゃないからさ。気楽にしてよ。それでも何か言われたら俺に言って。紫苑には俺から言うから」
「ありがとうございますぅ」
「錦織様ってぇ、許婚とかもう決まってるんですかぁ?」
そう言った錦織にワラワラと外部生貴族の女の子達が群がった。この状況で爽やかに、優しくリードしてくれる錦織の株は爆上がりだ。しかも堂上家といっても下位の半家……。もしかして地下家の自分にもワンチャンあるのでは?と思う女の子達が多かった。
「何あれ」
「……ん」
外部生貴族達はそれなりに強かなので、最初の緊張やビビりはすでにどこかへ行き、今は自分達でも手が届きそうな有力者である錦織を狙うことに夢中になっていた。
「行くぞ」
「そうね」
「……ん」
こうしていても仕方がないとばかりに柾を先頭に会場へと入る。会場の中の様子は……、まるで別世界だった。
「うわぁ……」
「すごっ……」
一般生徒達も緊張よりも、まるで物語の中の世界のようなパーティー会場に心を奪われた。
「皆さん、ようこそお越しくださいました。本日は萩原家のパーティーを心ゆくまでお楽しみください」
性格のきつそうな、つり目できつね顔の少女がそう告げた。どうやらあれが萩原紫苑らしいと四組の者達も理解した。自分達と同じ年でありながら、中央貴族というのはここまで違うのかと思わざるを得ない。
自分達はまだ子供だということで矢面に立たされることはなかった。しかし萩原紫苑はすでにパーティーの主催者として大人達の前に立ち、堂々とその役目を果たしている。
外部生貴族達は嫌というほど思い知った。自分達がいかに小さな世界だけで粋がっていたのかを。『藤花学園の内部生』というのがどういう存在なのかを……。
「河村さん、加田さん、吉田さん、今までごめんなさい!」
「あっ!ずるい!ごめんなさい!」
「私も……、今までごめんね」
「いや……、あの……」
「……ん」
外部生貴族達の動きは素早い。地方のまだ未熟な子供とはいえ、それでも貴族社会で生きてきた子供達だ。誰と敵対してはいけないか。どう立ち回れば良いかは考えられる。上辺だけでも取り繕ったり、掌返しをすることなどお手の物だ。
貴族とは自分が悪くなくとも謝らなければならない時もある。もちろん逆に自分が悪いとわかっていても絶対に謝ってはならない時もあるが……。そして長いものには基本的に巻かれるし、上辺だけでも取り繕うのも、面従腹背も得意だ。
堂上家の中でも半家で下の方である萩原家でもこれだけの実力がある。ならば答えは一つ。『内部生貴族には逆らってはならない』
外部生貴族達はそのことを思い知り、この萩原紫苑と繋がりのある吉田花梨を侮ってはならないことを痛感した。いまいち冴えず、パッとしない吉田花梨ですらこのような一門なのだ。ならば他の誰がどんな家に繋がっているかもわからない。相手が大人しく冴えないからといって内部生を舐めてはいけない。その当たり前のことを今更思い知った。
「ねっ、ねぇ……、あれ……」
「うん……」
「やっぱりあの時のは……」
そして一般生徒達は、パーティーの警備をしているSP達を見ていた。自分達が放課後に、ちょっと脅してやろうと思って三人に近づこうとした時、物陰からここに立っているようなSP達がゾロゾロと出てきて自分達を遮った。
あの時はあまりにびっくりして何が何やらわからなかったが、今冷静に考えればあの時の黒服達は鬼灯か鈴蘭か花梨、あるいはそれぞれの護衛達だったのだろう。自分達が三人に何かしようと近づいたのがバレバレだったから、護衛の黒服達が自分達を止めるために出てきたのだ。
三人がそれぞれ護衛をつけているのか、それともあの三人の中の誰かの護衛なのかは関係ない。自分達にとっては映画やアニメなどのフィクションの世界でしか見たことがないような護衛が、藤花学園に通う貴族達にとっては当たり前の存在なのだ。
学園内にはさすがに黒服はいないのかもしれないが、一歩外に出ればあの時のように常に身辺警護されているのだろう。そして自分達が三人に危害を加える者だということも認識されている。だからあの時すぐに止められたのだ。でなければ同級生の友達が話しかけようとしただけかもしれないのに止めたりしないだろう。
つまり……、自分達は相手の家にすでに敵対者だと認識されている。そしてこれだけのパーティーを開いたり、常時あれだけの護衛をつけていられるような家の子達にあのような振る舞いをしているのだ。もし逆の立場だったならば、その相手をどうするだろうか?
世の中には事件として公表もされず闇から闇へと消えていく事件がある。表沙汰にならない事件もある。もし……、それだけの力ある家が、相手を徹底的に始末してしまおうと考えたら……。
ない、とは言い切れない。普通の一般家庭ならば一家丸ごと消される可能性すらある。自分達が絡んでいた相手がそういう相手だと、このパーティーを見てまざまざと見せ付けられた。あるいはこのパーティーに呼んだことは警告だったのかもしれない。
お前達が手を出そうとしている相手がどういう相手か良く見ろ、という……。
外部生一般生徒達はすぐに素直に三人に謝りに行くことは出来なかったが、二度と三人をイジメようとは思えなかった。それほどに今日のパーティーには大きなショックを受けたのだった。
「来るなら来い、女帝……」
柾は飲み物を受け取って一人壁際に立ちながら、四組の、特に鬼灯や鈴蘭達の方を注視していた。このパーティーが九条咲耶の仕組んだものであるのならば……、何か仕掛けてくるはずだ。その時に即座に動けるように万全の態勢で待ち構える。
「そんなに緊張しなくても今日は大したパーティーじゃないよ。お互い大変だね」
「錦織……、柳君、だったかな」
壁際で臨戦態勢を整えていた柾に錦織柳が話しかけてきた。柾にとっては錦織も怪しい人物の一人だ。もしかしたらこちらに来たのも足止めが目的かもしれない。そんな風に思って警戒する。
「押小路君も大変だったね。こんなことに巻き込まれて……」
「……」
こんなことと言いながら、それを起こしているのはお前達の方だろうとじっとり睨みつける。しかし錦織には通じずへらへらと笑ったまま流された。
「まぁ本当は俺も今日は呼ばれてなかったのに、無理を言ってねじ込んでもらったから……。でも紫苑のパーティーだしそんなに気を張らなくても良いよ」
「あ~ら?それはどういう意味かしら?」
錦織が柾に聞いてもいないことをベラベラとしゃべっていると、そこへ主催者である萩原紫苑がやってきた。
「言葉通りだけど?」
「ふん!言ってくれるわね」
言葉には棘があるように聞こえるが、それは二人が気安いからだろう。二人の雰囲気からは本気で喧嘩を売っているというよりも、仲の良い気安い二人がじゃれ合っているようなニュアンスがある。
「錦織君、押小路君!……と、えっと、萩原……、紫苑様……?あの……、本日はお招きいただき……」
「……ん」
錦織と柾の所へやってきた鬼灯達三人は、そこに紫苑もいることに気付いて硬くなった。しかし紫苑はそんなことを気にすることもなく、バッと会場の方を向くと大きな声で宣言した。
「こちらにいる河村鬼灯さんも、加田鈴蘭さんも、吉田花梨さんも、私の親しい友人達です。皆さん是非私のお友達とも仲良くしてあげてください」
会場から『おお』という声が起こった。この瞬間全ては決した。これだけ大々的に言われたのだ。最早外部生貴族も一般生徒もこの三人に手出しなどできようはずもない。
あの宣言は自分達への警告だ。もし今後もこの三人に手出しをするのならば、それは自分を敵に回すことだと萩原紫苑がわざわざ宣言したのだ。これにより少なくとも四組でこの三人に絡み、イジメる者はいなくなった。柾がどれほど奔走しても解決出来なかった問題を、たった一言で解決してしまったのだ。
「……何が狙いだ?」
柾は訝しむ。萩原紫苑の、そしてそれを操っているであろう九条咲耶の狙いがわからない。これは一体何なのか……。
「良い?貴女達。これで貴女達に絡んだりイジメたりする者はいなくなったわ。でもそれはあくまで表面的に貴女達に害を加える者がいなくなっただけよ。本当に誰かと親しくなってお友達になりたいのなら、ここからは貴女達がその相手の信用を勝ち取りなさい。私に出来るのはここまでよ」
「「「…………」」」
萩原紫苑のその言葉に……、鬼灯も鈴蘭も、そして柾でさえも……、言葉を失った。
もしかして萩原紫苑とは、この見た目と言動に反してとても良い子なのではないか。自分達は見た目だけで萩原紫苑を悪者と決め付けていたのではないか。それは……、鬼灯達をイジメていた者達と何が違うというのだ。三人はそのことで大きな衝撃を受け、認識を改めることにした。
~~~~~~~
パーティーが終わってから暫く……、鬼灯達の生活は完全に平穏を取り戻していた。柾もまだ九条咲耶が何か狙っているかもしれないと警戒していたが、少なくとも萩原紫苑はそう悪い者ではなく、むしろ今回のことで助けられたということは理解している。もしかしたら九条咲耶と萩原紫苑は繋がっていなかったのかもしれない。それならば敵は九条咲耶のみだ。
「いやぁ……、一時はどうなるかと思ったけど、花梨のお陰で助かったよ!本当にありがとう!花梨にはいくら感謝してもしたりないよ!」
「……ん!」
鬼灯も鈴蘭もそう言って帰り道に花梨を振り返った。しかし花梨はその場で立ち止まり俯いていた。柾も花梨の様子がおかしいことに気付いてじっと注視する。
「……がう」
「「「え?」」」
花梨が何か言ったがよく聞こえなかった。三人で聞き返してみると……。
「違う!違うの!私は……、私は河村さんや加田さんにそんな風に言ってもらえるような者じゃないの!」
急にその場で蹲ってワッと泣き出した花梨に三人は驚いた。しかし、柾だけは何となく察した。やはりこの者は……。
「ちょっと!花梨どうしたの?」
「……ん!」
「私は……、私は今までずっと二人を騙していたの!私が今までしていたことは全て……、全て九条様の……」
そこまで聞いた瞬間、柾はカッと頭に血が昇った。やはり……、やはりそうなのだ。九条咲耶が吉田花梨に命令して二人に嫌がらせをさせていたに違いない。しかしそれに耐え切れなくなった吉田花梨が、九条咲耶の指示に従わず、二人に嫌がらせをせずに、むしろ助けるように動いていたのだろう。
「九条咲耶!」
柾は話も聞かずに駆け出した。九条咲耶はまだ学園に残っているはずだ。鬼灯と鈴蘭をイジメ、花梨を苦しめた張本人。その相手と対峙するために柾は学園に向かって駆け出した。
「私が行っていたことは全て九条様の……」
柾が駆け出していった。止められないと悟った鬼灯達は追いかけるのを諦めると花梨の方を見た。それを受けて花梨は今までのことを語り始めたのだった。




