表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺だけが乗れる父の遺した廃騎士を、世界最強の騎士へ~嫌われ者の養子は、父の遺志と精霊を継ぎ、誰にも知られず辺境を守る~  作者: なごやかたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/19

第六話 誰にも知られず

 午前の授業が終わると、魔物学の教師が教壇を軽く叩いた。


「今日はここまでだ。」

「明日までに角兎についてレポートを書いてこい。」


 教室がざわつく。


「またレポートか……。」

「図書室行かなきゃ。」


 教師は教室を見渡した。


「生態、習性、危険性、討伐方法。何を書いても構わん。」

「では解散。」


 生徒たちは一斉に立ち上がる。

 セレスはすでに教科書を閉じ、ノートをまとめ終えていた。

 さすが学年首席。

 動きに無駄がない。


 一方。

 アルトは頬杖をつきながら天井を見ていた。


「角兎ねぇ……。」

『昨日まで八体討伐しています。』


 精神リンクを通して精霊の声が響く。


(そうだった。)

『解体手順も習得済みです。』

(それ、レポートに書いたら怒られるかな。)

『実体験ですので問題ありません。』

(いや、多分問題ある。)


 思わず笑みがこぼれた。

 その様子を見たクラスメイトが肩をすくめる。


「また変なこと考えてるぞ。」

「どうせレポートなんて白紙だろ。」


 アルトは何も言い返さない。


◇◇◇


 翌日。


「では提出。」


 教師がレポートをめくっていく。

 数人分を確認した後、アルトの紙で手が止まった。


「……アルト。」

「はい。」

「お前、この解体図は自分で描いたのか?」

「描きました。」


 教室が静まり返る。


「心臓の位置。」

「魔石生成器官。」

「筋肉の付き方。」

「よくここまで調べたな。」


 アルトは少し困ったように笑う。


「本で勉強しました。」


 嘘ではない。

 本でも勉強した。

 ただ、実物も毎日見ているだけだ。

 教師は感心したように頷く。


「戦闘はともかく、観察眼は大したものだ。」

「その調子で他教科も頑張れ。」


 教室から小さな笑いが起こる。

 アルトも苦笑した。

 席へ戻る途中、セレスと目が合う。

 彼女は少しだけ驚いたような顔をしていた。

 その視線に気付いたアルトは肩をすくめる。

 セレスは何も言わなかったが、その目には昨日までとは違う色が宿っていた。


◇◇◇


 放課後。

 アルトはいつものように森へ向かう……前に、街のパン屋へ立ち寄った。


「こんにちは。」

「おう、アルト坊。」


 白髪混じりの店主が笑う。


「今日もかい?」

「うん。」

「売れ残りを全部ください。」

「相変わらずだなぁ。」


 店主は棚を見回し、布袋へパンを詰めていく。


「少し硬くなってるが、味は変わらん。」

「十分です。」


 代金を払い終えると、財布の中はほとんど空になった。


「また貯めるよ。」

「無茶はするなよ。」


 店主の言葉に手を振り、アルトは店を後にした。


◇◇◇


 エルピス孤児院。

 夕暮れ。

 アルトは門の陰から中を窺う。

 子どもたちは庭で遊んでいる。

 院長もセレスもまだ建物の中だ。


「今だ。」


 門の脇へ布袋をそっと置く。

 その上に、小さな紙を添えた。



 孤児院の皆さんへ。

 少しですが、お使いください。



 名前は書かない。

 これで十分だった。

 アルトはそのまま足早に門を離れる。


 その時。


「セレスお姉ちゃん!」


 子どもの声。

 アルトは咄嗟に近くの木陰へ身を隠した。

 扉が開く。

 院長とセレスが外へ出てきた。


「あら。」


 院長が布袋を見つける。


「また届けてくださったのですね。」


 袋を開く。

 子どもたちの歓声が上がる。


「パンだ!」

「今日はいっぱいある!」

「やったー!」


 セレスは紙をそっと手に取った。

 優しく微笑む。


「また来てくださったんですね。」

「本当に……ありがとうございます。」


 その笑顔を見て、アルトはほっと胸を撫で下ろした。


(良かった。)


 それだけで十分だった。


『契約者。』

(なに?)

『正体を明かさないのですか?』


 アルトは静かに首を横へ振る。


(感謝されたいからやってるわけじゃない。)

(子どもたちがお腹いっぱいなら、それでいい。)


 しばらく沈黙が流れる。

 やがて精霊が静かに答えた。


『……理解しました。』


 その声は、いつもより少しだけ柔らかく聞こえた。


◇◇◇


 夜。

 倉庫。


『右腕制御回路の修復を開始します。』

「よし。」


 アルトは工具箱を開いた。

 そこには年季の入った小型旋盤が置かれている。

 塗装は剥げ、あちこちに傷があった。

 だが、手入れだけは行き届いていた。

 アルトは懐かしそうにその機械へ触れる。


「これも、あの人のおかげだったな。」


 数年前。

 廃騎士を毎日磨いていたアルトを見かねた老整備士が、倉庫の片隅へ運んできたものだ。


『捨てる予定だったガラクタだ。』

『動くかどうかも分からん。』

『お前なら直して使うだろ。』


 ぶっきらぼうに言い残して去っていった老人。

 アルトは三か月かけて修理し、この旋盤を動かせるようにしたのだった。


『新品の制御部品は存在しません。』


 精霊が設計図を表示する。


『製作してください。』


 アルトは小さく笑った。


「やっぱりそうなるか。」


 旋盤へ金属棒を固定する。

 ゆっくり回転が始まる。

 削る。

 測る。

 また削る。

 一つ目。

 失敗。

 二つ目。

 僅かに大きい。

 三つ目。

 慎重に最後の仕上げを行う。

 部品をはめ込む。

 ――カチリ。

 吸い込まれるように収まった。


『寸法誤差〇・〇二ミリ。』

『規定値以内です。』


 アルトは思わず笑みを浮かべた。


「……作れた。」

『はい。』

『契約者の加工技術を確認しました。』


 アルトは完成した小さな部品を掌に乗せる。

 それは誰が見ても、ただの金属片だった。

 けれど彼にとっては、父の騎士をもう一歩未来へ進める、大切な一歩だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ