第三十八話 最後の一撃
大地が揺れる。
一歩。
また一歩。
森の奥から現れた存在に、誰もが息を飲んだ。
巨大な身体。
黒く染まった外殻。
周囲の魔力を喰らうような異質な気配。
『識別不能。』
精霊の声が響く。
『推定危険度――災害級。』
アルトは剣を握り直した。
「……。」
十年前。
父が戦った存在。
その姿に、どこか覚悟を感じる。
「父さんは……。」
小さく呟く。
「これと戦ったのか。」
◇◇◇
魔物が咆哮する。
空気が震える。
巨大な腕が振り下ろされた。
「来る!」
アルトは機体を動かす。
地面が砕ける。
間一髪。
攻撃を避ける。
『装甲損傷。』
『右脚部、負荷上昇。』
「まだ動ける。」
『推奨しません。』
「でも。」
アルトは後ろを見る。
その先には街がある。
避難した人々がいる。
「ここで止める。」
◇◇◇
魔物が再び迫る。
騎士は剣を構える。
しかし。
硬い。
刃が弾かれる。
「効かない……。」
『通常攻撃では有効打になりません。』
アルトは歯を食いしばる。
「なら。」
機体へ魔力を流す。
『警告。』
『出力限界を超えます。』
「構わない。」
セレスが隣で息を飲む。
「アルト……。」
「大丈夫。」
アルトは前を見る。
「俺はもう、一人じゃない。」
◇◇◇
セレスの魔力が流れ込む。
古びた騎士の内部。
長い年月眠っていた力が目覚める。
『精神リンク率上昇。』
『魔力循環、安定。』
『限定的な性能解放を確認。』
錆びた装甲。
古い機体。
誰にも見向きされなかった騎士。
その動きが変わる。
◇◇◇
巨大な魔物が吠える。
騎士が走る。
互いの距離が縮まる。
「行くぞ。」
「はい。」
一瞬。
全てが静止したようだった。
アルトが剣を振る。
セレスの魔法が重なる。
二つの力。
二人の想い。
それが一つの刃となる。
巨大な魔物の身体を貫いた。
◇◇◇
咆哮。
大地を揺らす最後の叫び。
そして。
静寂。
巨大な身体が崩れ落ちる。
『対象反応、消失。』
『災害級個体、討伐確認。』
アルトは大きく息を吐いた。
「……終わった。」
セレスも目を閉じる。
「……勝ったんですね。」
「ああ。」
その瞬間。
『警告。』
精霊の声が変わる。
『高エネルギー反応。』
アルトの表情が変わった。
「……何?」
◇◇◇
倒れたはずの巨体。
もう動かないと思われた身体。
しかし。
その奥。
残された魔力が膨れ上がる。
「アルト!」
セレスが叫ぶ。
アルトは反射的に操縦桿を動かす。
だが。
完全には間に合わない。
最後の力を振り絞った一撃。
巨大な衝撃が。
騎士の胸部へ叩き込まれる。
『操縦区画、損傷。』
『警告。』
『生命維持機能低下。』
「ぐっ……!」
激しい衝撃。
アルトの身体が座席へ叩きつけられる。
「アルト!」
後方のセレスが叫ぶ。
しかし。
彼女には大きな傷はない。
前方。
操縦席。
全ての衝撃を受けたのは。
アルトだった。
◇◇◇
古びた騎士が膝をつく。
外から見れば。
一機の騎士が。
最後の敵を倒した後。
力尽きたように見えた。
そして。
森の奥。
魔物たちが動きを止める。
主を失ったスタンピード。
やがて。
一体。
また一体。
森へと戻っていく。
災害は終わった。
街は救われた。
しかし。
誰も知らない。
その勝利の中で。
一人の少年が。
もう立ち上がれないほど傷ついていたことを。




