↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺だけが乗れる父の遺した廃騎士を、世界最強の騎士へ~嫌われ者の養子は、父の遺志と精霊を継ぎ、誰にも知られず辺境を守る~  作者: なごやかたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/39

第三十九話 君の隣にいたかった

 静寂。

 先ほどまで戦場だった場所に。

 もう魔物の声はなかった。

 古びた騎士は。

 大地に膝をついたまま動かない。


◇◇◇


「アルト……!」


 セレスは必死に名前を呼ぶ。

 操縦席。

 傷ついた少年は、ゆっくりと目を開けた。


「……セレス。」

「よかった……。」


 その一言に。

 セレスの張り詰めていたものが崩れる。


「喋らないでください。」

「今、何とかします。」


 しかし。

 アルトは静かに首を振った。


「無理だ。」

「機体も。」

「俺も。」

「もう限界だ。」

「そんなこと……!」


 否定したかった。

 でも。

 セレスには分かっていた。


◇◇◇


「変だな。」


 アルトが小さく笑う。


「何がですか。」

「ずっと。」

「知られたくなかったんだ。」


 セレスは黙って聞く。


「この騎士のことも。」

「俺が戦っていたことも。」

「誰にも。」


 少し間を置いて。


「でも。」

「今は。」

「知られてよかったと思ってる。」


◇◇◇


 アルトは目を閉じる。


「俺はずっと。」

「何かになりたかった。」

「父さんみたいな騎士に。」

「誰かを守れる人間に。」

「でも。」

「俺自身には、何もないと思っていた。」


 セレスは首を振る。


「違います。」


 迷いなく。


「あなたには、ありました。」

「誰よりも大切なものが。」

「守りたいと思う気持ちが。」


◇◇◇


 アルトは少し笑った。


「……そうかな。」

「はい。」

「だから。」


 セレスは手を握る。


「あなたは騎士です。」

「誰よりも立派な。」


◇◇◇


 静かな時間が流れる。

 遠く。

 街では人々が戻り始めている。

 誰かが言う。

 名前も知らない騎士が。

 街を救ったのだと。

 でも。

 この場所には。

 二人しかいない。


◇◇◇


「セレス。」

「はい。」

「最後に。」

「聞いてほしい。」


 セレスは顔を上げる。

 アルトはゆっくりと言葉を探す。


「俺は。」

「君の隣にいたかった。」

「……。」

「ずっと。」

「君は眩しくて。」

「俺なんかが隣に立っていいのか分からなかった。」

「でも。」

「本当は。」

「ずっと。」

「君の隣にいたかった。」


 セレスの瞳が揺れる。

 胸の奥に。

 いくつもの記憶が蘇る。

 幼い頃。

 絶望の中で手を差し伸べてくれた誰か。

 顔も。

 名前も。

 分からなかった。

 ただ。

 優しい人だった。

 そして。

 今日まで。

 誰にも知られず戦い続けていた名もなき騎士。

 街を守るため。

 傷つきながらも立ち上がり続けた存在。

 その二つが。

 今。

 一人の少年へと重なる。


「……そうだったんですね。」


 セレスの声が震える。


「アルト。」

「あなたが。」

「昔、私を助けてくれた人だったんですね。」


 アルトは目を見開く。


「……知っていたのか。」

「いいえ。」


 セレスは首を振る。


「今、分かったんです。」

「ずっと別々の人だと思っていました。」

「私を助けてくれた人。」

「名もなき騎士。」

「そして。」

「いつも近くにいたアルト。」


 涙がこぼれる。


「全部。」

「同じ人だったんですね。」


 アルトは何も言えなかった。


「どうして。」


 セレスは小さく笑う。


「どうしてあなたは。」

「そんなに優しいのに。」

「自分のことだけは、いつも後回しにするんですか。」

「……。」

「私は。」

「あなたが弱いなんて思ったことはありません。」

「だって。」

「誰も見ていない場所で。」

「誰にも知られないまま。」

「ずっと誰かを守っていたじゃないですか。」


 アルトの視界が滲む。

 初めてだった。

 自分の全てを知られたのは。

 そして。

 それを否定されなかったのは。


「……ありがとう。」


 アルトが呟く。


「こちらこそ。」


 セレスはアルトの手を握る。


「私を助けてくれて。」

「私を守ってくれて。」

「そして。」

「最後に、本当のあなたを見せてくれて。」


 静かな時間が流れる。

 二人は。

 騎士でも。

 英雄でもない。

 ただの少年と少女として。

 初めて向き合った。

 そして。

 二人は互いの想いを確かめるように。

 静かに距離を縮めた。



◇◇◇



 やがて。

 古びた騎士から。

 小さな光が消えていく。

 しかし。

 最後まで。

 その内部には。

 二人の温かな時間が残っていた。



◇◇◇



 数日後。

 街は復興へ向けて歩き始めた。

 多くの命が救われたその理由を正確に知る者はいない。

 ただ、人々は語り継いだ。

 絶望の日。

 一機の古びた騎士が現れたこと。

 誰にも知られず。

 誰にも称えられず。

 それでも。

 最後まで戦った騎士がいたこと。



◇◇◇



 その騎士の名を。

 知る者はいない。

 どこから来たのかも。

 なぜ戦ったのかも。

 誰も知らない。

 ただ。

 あの日。

 確かに。

 誰かを守るために戦った存在がいた。

 それだけは。

 決して消えることのない記憶になった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

如何でしたでしょうか?

よろしければリアクションや評価、感想をいただけると今後の励みになります。


新作「婚約破棄を告げた王太子は、泣きそうな顔で私に微笑んだ」も是非どうぞ

↓にリンク貼ってます

https://ncode.syosetu.com/n4273mp/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。