第三十七話 二人で動かす騎士
古びた騎士の内部。
セレスは隣に座る少年を見つめていた。
「……アルト。」
その名前を口にする。
いつもなら。
学園で呼んでいた名前。
けれど。
今は全く違う意味を持っていた。
「どうして……。」
セレスの声が揺れる。
「どうして、何も言ってくれなかったの?」
アルトは操縦桿から目を離さない。
「言えるわけないだろ。」
「どうして?」
「……。」
少しの沈黙。
「俺が、弱かったから。」
セレスは眉を寄せる。
「弱い?」
「騎士として認められていない。」
「魔力もない。」
「誰かに話したところで、信じてもらえると思わなかった。」
アルトは淡々と続ける。
「だから。」
「一人でやるしかなかった。」
セレスは拳を握った。
「……馬鹿です。」
「え?」
「本当に。」
アルトが驚く。
「そんな理由で。」
「ずっと一人で抱えていたんですか?」
「……。」
「助けてって言ってくれればよかったのに。」
その言葉に。
アルトは何も返せなかった。
◇◇◇
『魔物群、接近。』
精霊の声が響く。
現実が二人を引き戻す。
『第二波到達まで、三十秒。』
アルトの表情が変わる。
「セレス。」
「はい。」
「今から危険になる。」
「分かっています。」
「俺の指示に――」
「聞きません。」
「……。」
セレスは真っ直ぐ前を見る。
「私はあなたの部下じゃありません。」
「隣にいます。」
アルトは少し目を伏せる。
そして。
「……分かった。」
「頼む。」
◇◇◇
魔物群が迫る。
古びた騎士が立ち上がる。
先ほどまでとは違う。
動きが軽い。
魔力の流れが安定している。
『精神リンク接続。』
『魔力循環率、上昇。』
精霊が報告する。
『機体性能、回復。』
「これが……。」
セレスは操縦席から機体を見る。
「父親の騎士……。」
アルトは頷く。
「でも。」
「まだ足りない。」
◇◇◇
魔物が迫る。
一体。
また一体。
騎士が剣を振るう。
魔法が援護する。
だが。
外から見れば。
そこにいるのは一機の騎士だけだった。
古びた装甲。
古い型式。
誰も知らない機体。
それが。
圧倒的な魔物群を押し返している。
◇◇◇
避難を終えた住民たちは、遠くから戦場を見ていた。
「あの騎士……。」
「まだ戦っている。」
誰かが呟く。
先ほどまでとは違う。
動きが鋭い。
まるで。
何か見えない力を得たようだった。
「一体、何者なんだ……。」
誰も答えられない。
ただ。
街を守るために戦う騎士がいる。
それだけだった。
◇◇◇
騎士内部。
「右!」
「分かってる!」
アルトが機体を動かす。
直後。
巨大な爪が空を切る。
「今です!」
セレスの魔法。
魔物の動きが止まる。
剣が閃く。
一体撃破。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
短い言葉。
それだけで。
互いの動きが理解できる。
まるで。
最初からそうだったかのように。
◇◇◇
しかし。
精霊の声が響く。
『大型魔力反応。』
アルトの表情が変わる。
「……。」
『先ほど撃破した個体を上回ります。』
セレスも息を飲む。
「まだ……いる。」
森の奥。
大地を揺らしながら。
何かが近づいてくる。
これまでの魔物とは違う。
スタンピードを率いる存在。
十年前。
アルバン・ノーツが命を懸けて止めた災厄。
その再来。
◇◇◇
アルトは剣を構える。
「セレス。」
「はい。」
「次が最後になるかもしれない。」
セレスは小さく笑った。
「また、一人で決めようとしていますね。」
「……。」
「でも。」
セレスは魔力を流す。
「今は二人です。」
アルトは静かに息を吐いた。
「……そうだったな。」
◇◇◇
巨大な咆哮。
森が震える。
最後の敵が姿を現す。
そして。
父の遺した騎士と。
その意志を継いだ少年は。
少女と共に最後の戦いへ向かう。




