第三十四話 名もなき騎士
戦場。
誰もが限界を迎えていた。
防壁は崩れかけている。
騎士隊は半数近くが損傷。
魔法兵も魔力切れ。
それでも。
魔物は止まらない。
「後退!」
「第二防衛線まで下がれ!」
叫び声が響く。
その時。
街の外から。
一つの足音が聞こえた。
ズン。
ズン。
ズン。
巨大な何かが近づいてくる。
「……何だ?」
兵士が振り返る。
そこにいたのは。
一機の騎士だった。
◇◇◇
傷だらけの装甲。
古い型。
最新機とは比べ物にならない外見。
誰も知らない騎士。
しかし。
その姿には、不思議な威圧感があった。
「援軍か?」
「どこの騎士隊だ?」
誰も答えられない。
所属不明。
登録不明。
ただ。
そこに立っている。
◇◇◇
操縦席。
アルトは深く息を吐いた。
初めて。
大勢の人間の前に出る。
「……。」
怖い。
正体が知られるかもしれない。
養子としての立場が変わるかもしれない。
でも。
『契約者。』
「何?」
『恐怖反応を確認。』
「そりゃ怖いよ。」
『しかし、行動に変化なし。』
アルトは笑う。
「怖いからって。」
「守らなくていい理由にはならない。」
◇◇◇
大型魔物が咆哮する。
十年前の災厄。
その再来。
通常の騎士では近づくことすら難しい。
魔物が爪を振り下ろす。
その瞬間。
アルトは動いた。
「遅い。」
機体を滑らせる。
巨大な腕が空を切る。
兵士たちが息を飲む。
「避けた……?」
偶然ではない。
最小限の動き。
魔物の力を利用した回避。
父の騎士。
そして。
アルト自身の成長。
◇◇◇
大型魔物が怒りの咆哮を上げる。
周囲の魔物も一斉に押し寄せる。
「数が多い。」
アルトは呟く。
『推奨行動。』
『撤退。』
「却下。」
『了解しました。』
精霊の声に。
わずかな変化。
以前より。
少しだけ近い声だった。
◇◇◇
騎士が剣を振るう。
一体。
二体。
魔物を切り裂く。
しかし。
数が多い。
倒しても。
次が来る。
「くっ……。」
アルトは理解する。
このままでは持たない。
父の騎士は強い。
でも。
一機では限界がある。
その時。
『魔力反応。』
精霊が告げる。
『友軍支援を確認。』
◇◇◇
後方。
セレスが立っていた。
魔力切れ寸前。
それでも。
杖を握る。
「まだ……。」
あの騎士。
見覚えはない。
でも。
分かる。
この人は。
誰かを守るために戦っている。
「援護します。」
セレスの魔法が飛ぶ。
騎士の動きを邪魔しない。
絶妙な位置。
魔物だけを狙う。
アルトは驚いた。
「……。」
まさか。
あのセレスが。
自分を助けている。
『魔力供給効率、良好。』
精霊が報告する。
「何?」
『彼女の魔力波長は、機体との相性が高いです。』
アルトは一瞬黙る。
「……。」
不思議だった。
普段なら。
何かと言い合っている相手。
でも。
今。
背中を預けられる。
◇◇◇
戦況が変わる。
一機の騎士。
一人の少女。
それだけで。
崩れかけていた防衛線が、少しずつ戻っていく。
兵士たちが叫ぶ。
「まだ戦える!」
「援護しろ!」
「騎士に合わせろ!」
◇◇◇
しかし。
大型魔物は倒れない。
傷は増えている。
だが。
まだ動く。
アルトは剣を握り直す。
「強いな。」
『警告。』
『現在戦闘を継続した場合、機体損傷率上昇。』
「分かってる。」
アルトは前を見る。
「でも。」
父は。
この状況で逃げなかった。
「俺も。」
「ここで逃げるわけにはいかない。」
◇◇◇
大型魔物が最後の力を込める。
大地が揺れる。
次の一撃。
受ければ。
騎士は耐えられない。
その瞬間。
セレスが叫ぶ。
「騎士さん!」
「後ろは私が支えます!」
アルトの胸が締まる。
その声。
その言葉。
昔から知っている。
でも。
今は。
知らないふりをするしかない。
「……ありがとう。」
誰にも聞こえない小さな声。
アルトは剣を構える。
そして。
二人の戦いは。
最後の局面へ入った。




