第三十三話 災厄の始まり
最初に異変に気づいたのは。
街の外壁を守る見張り兵だった。
「……何だ?」
遠くの森。
黒い波のようなものが見える。
最初は影だと思った。
しかし。
違った。
「魔物……?」
次の瞬間。
鐘が鳴り響く。
警報。
緊急事態。
「魔物群接近!」
「全員、配置につけ!」
辺境の街が。
戦場へ変わった。
◇◇◇
外壁。
騎士隊が並ぶ。
十数体の騎士機。
この街に配備された防衛戦力。
普段はほとんど動かされない。
維持費。
燃料。
整備。
全てが高価だからだ。
しかし。
今日は違う。
「魔力炉、起動!」
「武器展開!」
巨大な騎士たちが立ち上がる。
住民たちはその姿を見上げる。
「騎士様だ……。」
「これなら大丈夫だ。」
誰もがそう思いたかった。
◇◇◇
魔物群。
先頭が迫る。
ゴブリン。
オーク。
獣型魔物。
数えきれない。
「攻撃開始!」
魔法兵が一斉に魔法を放つ。
炎。
雷。
氷。
夜の平原が光に包まれる。
大量の魔物が倒れる。
「やった!」
歓声。
しかし。
「……。」
騎士隊長の顔は険しい。
倒れた魔物の後ろ。
さらに多くの影。
「まだ来るのか……。」
◇◇◇
学園組は後方支援を担当していた。
負傷者の治療。
魔力補助。
防衛線の補強。
その中で。
セレスは前線寄りに立っていた。
「危険です!」
教師が叫ぶ。
「下がりなさい!」
しかし。
「まだ動ける人がいます。」
セレスは答える。
目の前には傷ついた兵士。
「この人を置いていけません。」
治癒魔法。
温かな光が兵士を包む。
「……ありがとう。」
「まだ終わっていません。」
セレスは立ち上がる。
怖い。
でも。
逃げたくない。
◇◇◇
アルトは。
倉庫の中にいた。
遠くから聞こえる鐘。
叫び声。
地響き。
『戦闘開始を確認。』
精霊が告げる。
「……。」
アルトは拳を握る。
まだだ。
今出れば。
自分が何者か知られる可能性が高い。
でも。
街は。
少しずつ押されている。
『防衛線、後退。』
『第二防衛地点へ移行。』
報告が届く。
さらに。
『第一騎士隊、三機損傷。』
「……。」
アルトは目を閉じる。
分かっていた。
普通の騎士だけでは足りない。
だから。
父の騎士がある。
◇◇◇
外壁。
騎士隊が押し込まれる。
「数が多すぎる!」
「弾薬が足りない!」
一機の騎士が倒れる。
その瞬間。
巨大な魔物が壁へ向かって進む。
通常個体ではない。
大型種。
「まずい……。」
兵士たちが青ざめる。
その時。
セレスが前へ出た。
「止めます。」
「無茶です!」
「でも。」
セレスは魔力を集める。
「ここを抜かれたら。」
「後ろにいる人たちが危ない。」
巨大な魔法陣。
光が集まる。
そして。
放つ。
大型魔物を押し返す。
「……!」
一瞬。
戦場が静まる。
「すごい……。」
しかし。
セレスの膝が震える。
魔力消費。
限界。
そして。
森の奥。
さらに巨大な咆哮。
◇◇◇
地面が揺れる。
現れた影。
今までの魔物とは違う。
巨大。
強大。
圧倒的。
「……あれは。」
騎士隊長の顔から血の気が引く。
「十年前の……。」
◇◇◇
同じ頃。
倉庫。
アルトは決断した。
「行く。」
『確認します。』
『正体露見の可能性があります。』
「分かってる。」
『今後の生活への影響も――』
「分かってる。」
アルトは操縦席へ座る。
父の騎士。
眠っていた機体。
魔力炉が唸る。
『起動。』
『認識補助術式、展開。』
『全システム、戦闘準備。』
アルトは前を見る。
「行こう。」
「父さんの騎士。」
◇◇◇
誰も知らない。
誰にも期待されていない少年が。
誰にも見えない場所で。
十年前から続く災厄へ向かっていることを。
そして。
この日。
辺境の街を守る新たな騎士が。
初めて人々の前に姿を現す。




