第二十八話 二つの顔
王立辺境学園。
昼休み。
校庭では生徒たちが訓練を行っていた。
「次!」
掛け声とともに、木剣がぶつかる。
その中心にいるのは、一人の少女だった。
「セレス・エルピス!」
「また勝ったぞ。」
「やっぱりすごいな。」
周囲から声が上がる。
セレスは息を整えながら木剣を下ろした。
「ありがとうございました。」
礼をする。
相手の男子生徒は苦笑した。
「相変わらず強いな。」
「俺、全然相手にならなかった。」
「そんなことないです。」
セレスは首を振る。
けれど。
誰が見ても分かる。
彼女は同年代の中でも突出していた。
◇◇◇
少し離れた場所。
アルトはその様子を見ていた。
「……すごいな。」
思わず呟く。
剣術。
魔力操作。
判断力。
どれを取っても、自分とは違う。
いや。
違いすぎる。
「また見てる。」
声がした。
振り向く。
セレスだった。
「別に。」
「別にって顔じゃないけど。」
アルトは視線を逸らす。
「お前はすごいなと思っただけだ。」
セレスは少し驚く。
アルトから素直な言葉を聞くことは珍しい。
「……ありがとう。」
一瞬だけ、空気が柔らかくなる。
しかし。
アルトは続けた。
「でも。」
「才能だけで勝ってると思うなよ。」
セレスの表情が変わる。
「……またそれ?」
「努力してるのは分かる。」
アルトは言う。
「でも、お前は恵まれてる。」
「魔力も。」
「才能も。」
「周りから期待される環境も。」
セレスは黙る。
そして。
「あなたは。」
静かに言った。
「いつも、そうやって人の持っているものばかり見るのね。」
アルトが顔を上げる。
「え?」
「私がどれだけ努力したか。」
「何を失敗したか。」
「何を怖がっているか。」
「見ようともしない。」
その言葉に、アルトは何も返せなかった。
「……。」
セレスは小さく息を吐く。
「あなた、本当に面倒。」
そう言って去っていく。
◇◇◇
放課後。
セレスは孤児院へ向かっていた。
途中。
街の掲示板を見る。
そこには最近の魔物討伐情報。
そして。
小さな記事。
『謎の騎士機による魔物討伐』
セレスは足を止めた。
「……。」
顔も分からない。
名前も分からない。
でも。
その人はきっと。
誰にも褒められなくても、誰かを守る人。
「すごい人……。」
思わず呟く。
◇◇◇
その夜。
倉庫。
アルトは機体整備をしていた。
『本日の会話について。』
「聞いてたのか。」
『はい。』
「忘れてくれ。」
『不可能です。』
アルトはため息をつく。
「俺ってさ。」
「なんであんな言い方しかできないんだろうな。」
精霊は答える。
『契約者は、相手を高く評価しています。』
「え?」
『しかし、自分との差を強く意識しています。』
アルトは黙る。
『その結果、言葉が攻撃的になります。』
「……。」
図星だった。
セレスが嫌いなわけじゃない。
むしろ逆。
眩しい。
羨ましい。
だから。
素直に褒められない。
「難しいな。」
『人間関係は複雑です。』
「機械なのに分かるのかよ。」
『長期間、人間と共に存在しています。』
◇◇◇
同じ頃。
孤児院。
セレスは今日届いた寄付の品を整理していた。
子供たちは喜んでいる。
「また助けてもらったね。」
院長が微笑む。
セレスは頷く。
「はい。」
そして。
ふと考える。
もし。
もしも。
謎の騎士が、あのアルトだったら。
「……。」
すぐに首を振る。
「違う。」
あの人は。
もっと優しい。
もっと強い。
もっと大人だ。
そう思ってしまう。
まだ。
二人が同じ人物だとは知らない。
◇◇◇
夜空の下。
一機の騎士が静かに立つ。
その操縦席には。
昼間、言葉を間違えた少年がいた。
そして。
誰かに感謝されていることを知らない少年だった。
二つの顔。
二つの評価。
その距離は。
まだ、少し遠い。




