第二十七話 騎士としての一歩
荒野。
夕暮れの赤い空の下。
一機の騎士が立っていた。
十七メートルの巨体。
古い装甲。
傷だらけの姿。
しかし。
以前とは違う。
アルトは操縦席で静かに息を吐いた。
「……。」
『周囲索敵開始。』
精霊の声が響く。
『前方二百メートル。魔物反応。』
「種類は?」
『フォレストリザード。』
アルトは眉を寄せる。
「中型か。」
グレイウルフより大きい。
硬い外皮を持つ魔物。
普通の騎士機なら問題なく倒せる相手。
だが。
今のアルトにとっては、ちょうどいい相手だった。
「試す。」
『何をですか?』
アルトは操縦桿を握る。
「俺と。」
「こいつが、どこまでやれるか。」
◇◇◇
森の奥。
巨大なトカゲ型の魔物が姿を現した。
全長八メートル。
分厚い鱗。
鋭い爪。
普通の人間なら、近づくだけで危険な相手。
しかし。
アルトの前には騎士がいる。
『敵、接近。』
「来る。」
フォレストリザードが突進する。
以前なら。
受け止めるしかなかった。
だが。
「右へ。」
アルトは機体を動かす。
騎士が一歩横へずれる。
巨大な爪が空を切る。
『回避成功。』
「思ったより動く。」
左腕部の補助機構。
修復前とは違う。
動きに無駄がない。
◇◇◇
フォレストリザードが再び襲いかかる。
今度は尻尾。
岩を砕くほどの一撃。
「受けるな。」
アルトは剣を構える。
そして。
振る。
ガキィィン!
鋼と鱗がぶつかる。
一瞬、火花が散る。
だが。
押し負けない。
『左腕出力、安定。』
精霊が報告する。
アルトは笑う。
「やれる。」
その瞬間。
昔、ガンツに言われた言葉が蘇る。
『動けばいいってもんじゃねぇ。』
『本来の力を出せるようにしてやるんだ。』
アルトは剣を握り直す。
「お前の力。」
「借りるぞ。」
◇◇◇
アルトは真正面から攻めなかった。
フォレストリザードの動きを読む。
攻撃後の隙。
足の運び。
重心。
騎士だから強いのではない。
機体が強いから勝てるのではない。
相手を見る。
考える。
判断する。
それが騎士の戦い方。
「そこだ!」
踏み込む。
左腕で魔物の頭部を押さえる。
右手の剣を振り下ろす。
一閃。
硬い鱗の隙間を正確に切り裂いた。
フォレストリザードが崩れる。
『討伐成功。』
精霊の声。
アルトは操縦席で息を吐いた。
「……。」
勝った。
でも。
今回は違った。
ただ生き残ったんじゃない。
自分で勝ち取った。
◇◇◇
帰還途中。
アルトは機体を歩かせながら呟いた。
「なあ。」
『はい。』
「俺。」
「少しは騎士になれてるかな。」
精霊は少し間を置いた。
『判断能力。』
『操縦技術。』
『機体理解。』
『全て向上しています。』
「それ、褒めてる?」
『事実を述べています。』
「……まあいいか。」
アルトは笑う。
◇◇◇
翌日。
討伐受付所。
また一つ、報告が届く。
「フォレストリザード単独討伐……?」
受付嬢は書類を見る。
騎士機による討伐。
しかし。
名前は残っていない。
「また、あの騎士……?」
そう呟いた瞬間。
少し違和感を覚える。
誰だったか。
どんな姿だったか。
思い出せない。
でも。
一つだけ残る。
「……この街を守っている人。」
そんな気がした。
◇◇◇
夜。
倉庫。
アルトは新しく手に入れた素材を見る。
「これなら。」
「次の修理に使える。」
まだ足りない。
まだ弱い。
でも。
確実に進んでいる。
父の遺した騎士と共に。
一歩ずつ。
騎士への道を。




