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俺だけが乗れる父の遺した廃騎士を、世界最強の騎士へ~嫌われ者の養子は、父の遺志と精霊を継ぎ、誰にも知られず辺境を守る~  作者: なごやかたろう


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第二十三話 名を残さぬ騎士

 翌朝。

 アルトは倉庫の中で父の騎士を見上げていた。

 昨日倒したグレイウルフ。

 その報酬として得られる素材。

 そして、機体修復に使える蒼晶石。

 問題は一つだった。


「これ、どうやって換金するんだ?」


 アルトは腕を組む。

 普通なら冒険者や騎士が討伐報告を行う。

 だが。

 十七メートルの騎士で魔物を倒したなど、説明できるわけがない。


「俺が乗っていたって知られたら……。」


 代官家の三男。

 才能なし。

 役立たず。

 そう思われている自分が、突然魔物を倒せる騎士を操っていると知られれば。

 面倒なことになる。


『提案があります。』


 精霊の声が響いた。


「何かあるのか?」

『認識補助術式を復旧可能です。』

「認識……?」

『前契約者が使用していた機能です。』


 空中に古い術式構造が表示される。


『これは隠密魔法ではありません。』

『姿を消すものではありません。』


 アルトは首を傾げる。


「じゃあ、何のため?」

『守護者認識補助。』

『存在は認識されます。』

『しかし、特徴や印象が記憶に定着しません。』

「……忘れられる?」

『正確には、重要な存在として記憶されにくくなります。』


 アルトは静かに騎士を見る。


「父さんも使っていたのか。」

『はい。』

『前契約者は、名声を求めませんでした。』


 その言葉に、アルトは少しだけ笑った。


「父さんらしいな。」


◇◇◇


 認識補助術式を起動する。

 騎士の周囲を淡い光が包む。

 だが、見た目は何も変わらない。


「本当に効果あるのか?」

『確認してください。』


 精霊の指示で、アルトは倉庫の外へ出る。

 ちょうど通りかかった農夫が足を止めた。


「おや?」


 農夫は騎士を見る。

 当然だ。

 十七メートルの機械が立っていれば、普通なら驚く。


「……騎士機か。」


 農夫はしばらく眺める。


「珍しいものがあるな。」


 だが。

 数秒後。


「まあ、いいか。」


 そう呟いて、そのまま歩いて行った。

 アルトは目を丸くする。


「今、普通に見えてたよな?」

『はい。』

「なのに……。」

『記憶への定着が弱まっています。』


◇◇◇


 アルトは騎士へ乗り込み、街外れへ向かった。

 途中、何人かの人間とすれ違った。

 誰もが一瞬だけ見る。


「騎士機だ。」

「珍しいな。」


 そう口にする。

 しかし、誰も立ち止まらない。

 誰も詳しく聞こうとしない。

 まるで、そこにあることが自然なもののように。

 アルトは不思議な感覚を覚えていた。


「変な魔法だな。」

『守護者向けです。』

『守った者が、報酬や名声を求めないために存在します。』

「……。」


 アルトは小さく息を吐く。


「本当に父さんらしい。」


◇◇◇


 討伐受付所。

 騎士姿のアルトが入ると、受付嬢が目を見開いた。


「騎士機……?」


 当然の反応。

 辺境とはいえ、騎士機を個人で動かす者など滅多にいない。


「討伐報告をお願いします。」


 アルトが告げる。

 受付嬢は慌てて姿勢を正した。


「は、はい。」

「お名前を――」


 そこで一瞬、言葉が止まる。


「……。」


 何を聞こうとしたのか。

 分からない。


「失礼しました。」


 受付嬢は首を傾げる。


「討伐証明を確認します。」


 素材を確認する。

 グレイウルフ。

 間違いない。


「報酬をお渡しします。」


 アルトは頷いた。


「ありがとうございます。」


 そして踵を返す。

 受付嬢は去っていく騎士の背中を見る。


「……。」


 何か大事なことを忘れている気がする。

 でも。


「まあ、いいか。」


 そう思ってしまう。


◇◇◇


 その夜。

 酒場では小さな噂が流れていた。


「最近、魔物が減っているらしい。」

「誰か倒してるんだろ。」

「騎士機らしいぞ。」

「どこの騎士だ?」


 男たちは考える。

 しかし。


「……。」


 誰も答えられない。


「知らん。」

「でも、悪い奴じゃない気がする。」


 それだけだった。


◇◇◇


 同じ頃。

 倉庫。

 アルトは報酬を机へ並べていた。


「これで部品が買える。」

『修復計画を更新します。』


 新しい機体図面が表示される。

 まだ壊れた場所だらけ。

 まだ足りないものだらけ。

 でも。

 確実に前へ進んでいる。


「父さん。」


 アルトは騎士を見上げる。


「俺も……。」

「誰かを守れる騎士になれるかな。」


 返事はない。

 ただ。

 胸部装甲の奥で、小さく精霊の光が揺れた。


『可能性は十分あります。』


 その言葉を聞いて。

 アルトは少しだけ笑った。

 誰にも知られない騎士。

 名を残さぬ守護者。

 その物語は、まだ始まったばかりだった。

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