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終末セカイの正シイ終わり方  作者: 敗北猫先生


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第二章1 『壊れかけの人形』

 終着点のない旅は、再び新しい風を吹かせている。


 新しい街に足を踏み入れたが、そこもさして変わらずに崩れかけた家々が並んでおり、息づく気配もほとんどなかった。

 ステラとイドラはひび割れた舗装を踏みしめながら歩いていた。夜が近づいていた。


「ふぅん、泊まるには悪くないね」


 イドラが羽織っている外套を揺らしながら立ち止まる。見上げたのは、屋根の一部がまだ原型を留めている二軒の隣り合う家だった。


「どっちがいい?ステラ」


「右がいい。ドアがある」


「ほう、意外とまともな基準なんだな」


 イドラが肩をすくめながら、おどけた口調でそう言った。だが、その時だった。


「ママ、どこ…?」


 ほとんど風と見分けがつかないほどの小さな声が、家々の隙間を抜けて届いてきた。

 ステラが立ち止まる。続いてイドラも、眉をひそめて声のする方角を見た。


「幻聴か?あるいは…。どちらにしろ厄介な残留物だな」


 声がしたのは先ほど選ばなかった左の家からだった。ステラがそちらの方へ足を向けると、イドラが短く言った。


「待て、やめとけよ」


「でも、誰かがいるのかもしれない」


「幻聴か、亡霊か…。今の時代には等しくある。どちらにせよまともな判断じゃない」


 ほんの少し迷ったそぶりを見せたが、結局イドラの忠告を背に、ステラは左の半壊したドアを押した。木製のドアが軋む音が静かな夜に存在感を持って響いた。

 薄暗い室内。埃っぽい空気。まるで人が住んでいるとは思えない。不気味な雰囲気だった。

 しかし、ステラが家の奥へ進んでいくと、窓際に小さな影があることに気づいた。それは少女だった。ステラとそう年の変わらない。

 やせ細った手足に、どこを写しているのかわからない虚ろな目。おぼつかない足取りで室内を歩いている。


「ママ…どこ……ママ」


 その姿は生きている人間というより、電池の切れかけたおもちゃのようだった。

 ステラはその姿にしばらく言葉を失ったが、我に返ったように鞄の底をまさぐり、水の入ったボトルを取り出し、そっと少女の目の前に置いた。


「…水」

 

 小さな吐息のような声が、わずかに言葉を形作り、口から洩れる。その言葉をステラは聞き逃さなかった。彼女はまだ生きてる、ちゃんと。

 そう思った瞬間、後ろからため息交じりの声が響いた。


「案の定、手遅れの亡霊じゃねぇか」


「この子にはまだ意識がある。ぼくらが一緒にいてあげたら治るかもしれない…」


ステラの言葉に、イドラはあきれ顔をして首を振る。


「いいわけがない。壊れたおもちゃと一緒にいて、何か得るものがあると思うのか?」


「何かを得るためじゃない」


 むっとした口調でそう言うと、イドラは押し黙る。そしてふっと皮肉気な笑みを浮かべると、肩をすくめて言った


「分かった、お前がそういうなら好きにすれば。ただし俺は隣の家で寝る。勝手に情に絆されて腕の一本失っても文句は言うなよ」


そういって出て行くイドラを引き留めることはできなかった。


 夜が訪れた。いくらステラが名前を尋ねても、少女は変わらず「ママ…」とだけ、か細く繰り返していた。ステラはそんな様子にあきらめず、焚き火の火を少し小さくすると、鞄の中からこの前の町の戦利品である毛布を引っ張り出して、少女に静かに差し出した。

 イドラは向かいの窓から、ぼんやりとその光景を見ていた。冷えた室内で深緑色の外套で肩を包み、ぼやく。


「…ガラクタ拾いは相変わらずだな」


その目には理解しがたいものを見るような、複雑な感情が浮かんでいた。


***


 翌朝、まだ陽が完全に昇りきる前。

 ステラは炉に残った灰をかき出して、燃え残ったカスを捨てる。残った少ない燃料で、キッチンにあった小さな鍋に水を入れて火を起こしていた。

 

 少女は部屋の隅で毛布にくるまりながら、時折目を開いてはステラをぼんやりと眺めている。その視線に気が付かないまま、朝食の準備を続けていた。


「…あったかい」


 その小さな言葉に、ハッとステラは振り向く。か細い声がステラの背中に刺さった。確かにはあったかいと、自分の意志でそう言ったのだ。

 ステラは沸かした缶詰のスープを彼女の前に置いた。すると、ほんの少しだけ身を起こして、指先でカップに触れる。震える指は、昨日よりも少しばかりしっかりとしていた。


「おいしい?」


 一心不乱にスプーンを握って缶詰に顔を埋める少女にステラは優しく話しかける。しばらくして、手の動きを止めて顔を上げた。伸びきった黒髪が顔の半分を覆っていて、表情は読み取りづらいが、かすかに頷いたように感じた。



「これ、今日の分」


 イドラの様子を見に来たステラが、小さな紙袋を片手に携えてドアを開ける。中にはいくつかの缶詰と乾いたクラッカーが数枚。


「食糧調達もまともにできないおこちゃまって思われてんのか俺は」


 イドラはそういうと、紙袋を突き返す。


「昨夜、他の家を回っていろいろとかっぱらってっ来たんだよ。お前みてぇなガキに心配されるほど不自由じゃないっての」


そういって目を合わせない。


「そう、ごめん…」


「俺はいまここに住んでんだ。次無断で入ったら不法侵入で通報するぞ、隣人さん」


 イドラはそれだけ言うと、ひらひらと手を振って奥の部屋へと消えていった。ステラはその背中を見つめながら、やがて息を吐いて隣の家を後にした。


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