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忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく―  作者: HANABI
過去編

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第8話:消えかけた約束

森を抜けた先に、小さな畑があった。

背の低い柵に囲まれた土地に、野菜が整然と並んでいる。

人の手で大切に育てられているのが、一目で分かる場所だった。


「……こんなところ、あったのね」

リナは少し驚いたように呟く。

「前からあったぞ」

隣でカイが言う。

「気づかなかっただけだろ」

「カイ、知ってたの?」

「まあな」

どこか当たり前のように返す。


その様子に、リナは少しだけ眉をひそめた。

(……なんだか、詳しいのよね)


森のことも、人のことも。

まるでずっとここにいるみたいに。


「おーい!」

明るい声が飛んできた。

畑の奥から、小さな女の子が手を振っている。


「カイー!」

ぱたぱたと駆け寄ってくる。

リナより少し小さいくらいの女の子。

日焼けした頬に、屈託のない笑顔。


「また来てくれたの?」

「ああ」

カイが軽く手を上げる。


「今日は友達も一緒だ」

「ともだち?」

女の子がきょとんとした顔でリナを見る。


じっと見つめてから――ぱっと顔を輝かせた。

「かわいい!」

「お人形さんみたい!目がとてもきれいね!」

「えっ」

突然の言葉に、リナは少し戸惑う。


「わたし、エマ!あなたは?」

「リナよ」

「リナおねえちゃん!」


無邪気に手を取られる。

その温かさに、少しだけ驚く。


「すみませんね」

少し遅れて、男性が歩いてくる。


穏やかな顔立ちに、優しい目。

「いつもこの子が騒がしくて」

「別に気にしてねえよ」

カイが肩をすくめる。


「……お世話になってます」

男性は軽く頭を下げた。

その言葉に、リナは小さく首をかしげる。

「お世話って?」

「カイは時々、手伝いに来てくれるんです。」

「手伝い?」


リナがカイを見る。

カイは少しだけ視線を逸らした。

「……まあ、暇なときにな」


カイが率先して畑の手伝いをするのを見て、見よう見まねで水やりや、雑草を取りする。

単純な作業だけど、思ったよりも体力を使う。


「リナおねえちゃん、こっち!」

エマが元気に呼ぶ。


「このお花ね、きれいに咲くの!」

「そうなのね」

しゃがみ込んで覗き込む。

小さなつぼみが、いくつも揺れていた。


「大事に育ててるのね」

「うん!」

誇らしげに頷く。

「お父さんと一緒にやってるの!」

その言葉に、リナは少しだけ微笑んだ。


一方で――

「……いつもありがとう、悪いな。力仕事が助かるよ。」

エマの父親がぽつりと呟く。

視線の先には、カイの姿。


水の運び方も、道具の扱いも、無駄がない。

「大したことねえよ」

「いや、十分だよ」

静かに、しかし探るように呟く。

「でも……普通の子どもとは、どこか違うな」

カイは何も答えなかった。


しばらくして、休憩になる。

木陰に座って、水を飲む。

「はい、どうぞ」

エマが差し出してくる。

「ありがとう」


受け取ると、少しぬるい水だった。

でも、不思議とおいしく感じる。


「ねえ、リナおねえちゃん」

「なに?」

「また来る?」

まっすぐな目で見上げてくる。


リナは少し考えてから、頷いた。

「おじさん、いいかしら?」

「……もちろん来てくれ……」

エマの父親は少し暗い顔で頷いた。


「じゃあまた来るわね」

「ほんと?」

「約束する」

そう言うと、エマはぱっと笑った。

「やった!」


そのやり取りを、カイが少し離れたところで見ていた。

何も言わずに。

ただ、静かに。


穏やかな帰り道。

夕焼けが森を染めていた。

「……いい人たちね」

リナがぽつりと呟く。


「ああ」

カイも短く答える。

「カイ、よく行ってるの?」

「たまにだ」

「ふうん」

少しだけ間が空く。


「……優しいのね」

「誰が」

「カイがよ」

そう言うと、カイは少しだけ顔をしかめた。


「別に」

「隠さなくてもいいじゃない」

「隠してねえよ」

「そういうところよ」

くすっと笑う。


そのとき。

ふと、違和感がよぎる。

風が、少しだけ冷たい。

ほんの一瞬。

気のせいかもしれないほどの、小さな異変。


「……?」

リナが足を止める。

「どうした」

「いま……」

言いかけて、首を振る。


「なんでもないわ」

カイは少しだけ目を細めた。


同じものを感じていた。

でも――何も言わなかった。


夜、ベッドに腰掛けながらふと思い出す。

エマの笑顔。


「また来てね」という声。

そして、自分がした約束。

「……守らないと」

小さく呟く。


その言葉は、静かな部屋に溶けていった。


まだ、このときは――

その約束の意味を、誰も知らなかった。


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