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忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく―  作者: HANABI
卒業後編

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番外編:境界に立つ者(カイとレヴァン&クロード)

短編 三部作

【第一部 あの日、森に来た理由】

【第二部:レヴァンとクロード】

【第三部:選んだ自由】

【第一部 あの日、森に来た理由】


夜の森。

風が強い。

枝が軋む音が、不安を煽る。

小さな影が、走っていた。


「っ……は……っ」


息が荒い。

足はもつれそうで、それでも止まらない。


――逃げている。

カイは振り返る。

遠く。

家があった場所。

炎。

揺れている。


(……来るな)


胸の奥で、何かがざわつく。

あれは“火”じゃない。

影。

黒いものが、家を覆っていた。


「……なんだよ、あれ……」


足が止まりそうになる。

でも。


「……っ」


歯を食いしばって、走る。

――逃げろ。

誰かの声。

それが誰なのか、分からない。


ただ。

その声に、逆らえなかった。

どれくらい走ったのか分からない。


気づけば、森の奥。

足が止まる。

限界だった。

そのまま、崩れるように座り込む。


「……は……っ……」


呼吸がうまくできない。

頭が、熱い。

そのとき。

気配。

“来た”。

カイの身体が、びくっと震える。


「なんで追ってくるんだよ……」


振り向く。

そこに立っていたのは――

“黒”。

輪郭の曖昧な影。

ゆっくりと、近づいてくる。


「来るな……!」


後ずさる。

でも、動けない。

足が、言うことをきかない。

 

影が、手を伸ばす。

その瞬間――


「そこまでだ」


低い声が、割り込んだ。

影が止まる。

そして。“消えた”。

音もなく。


「……え」


カイが目を見開く。

そこに立っていたのは、一人の男。

黒一色。長い外套。細身の体。

だが、どこか神経質そうな目。


「間に合ったか……」


小さく息を吐く。

そして、カイを見る。


「お前が“例の個体”か」


「……誰だよ」


警戒しながら睨む。

男は少しだけ眉を動かした。


「……その年でその目か」


わずかに、感心したような声。


「いい。悪くない」


「質問に答えろ」


「急かすな」


淡々としているが、突き放してはいない。

ゆっくりと近づいてくる。

カイは構える。

でも。さっきの“影”とは違う。


(……怖くない)


いや。

怖いはずなのに。

さっきほどじゃない。


「……名前は」


「カイ」


「そうか」


小さく頷く。


「私はレヴァン」


それが、第一席の名前だった。


「……覚えておけ。お前の管理者だ」


「は?」


意味が分からない。

レヴァンは、少しだけ考えるように目を細める。


「……説明が必要か」


「当たり前だろ」


即答。

その返しに、ほんのわずかに口元が緩む。


「いい反応だ」


そして、視線を森の奥へ向ける。


「お前の家は襲われた」


「……」


カイの呼吸が止まる。


「影だ」


静かに告げる。


「お前の両親も、恐らくはもう――」


言い切らない。

でも、十分だった。


「……っ」


拳が震える。

レヴァンは、その様子をじっと見ている。

観察するように。

だが、完全に無感情ではない。


「泣くか?」


「……は?」


「選択だ」


淡々と。


「泣くなら、今のうちだ」


「なんだよそれ……」


「後では邪魔になる」


静かな現実。

カイは歯を食いしばる。


「……泣かねえよ」


即答だった。

レヴァンは少しだけ目を細める。


「そうか」


一歩近づく。


「なら、次に進め」


「次?」


「生きるための選択だ」


しゃがみ、目線を合わせる。


「お前は普通ではない」


その言葉に、カイの目が揺れる。


「影に狙われる側だ」


「……なんで」


「それはまだ知らなくていい」


少しだけ柔らかく言う。


「だが一つだけ確かなことがある」


真っ直ぐに見る。


「このままでは死ぬ」


沈黙。


「俺がいれば死なねえのか」


「可能性は上がる」


曖昧だが、誤魔化していない。


「……あんた、何なんだよ」


少しだけ間を置いて。


「“拾う側”だ」


そう言った。

カイは、しばらく黙る。

風が吹く。遠くで木が揺れる。


「……じゃあ」


顔を上げる。


「拾えよ」


レヴァンの目が、ほんのわずかに変わる。


「その代わり」


「なんだ」


「死なせんな」


真っ直ぐな目。子供なのに、覚悟を決めている目。

レヴァンは、それを見て。静かに頷いた。


「契約成立だ」


そして、立ち上がる。


「来い、カイ」


差し出された手。

少し迷って。掴む。

その瞬間。何かが、決まった。



【第二部:レヴァンとクロード】


数年後。

学園の一室。

窓の外は夕焼け。


「……途中編入、か」


クロードが腕を組む。

その向かいに、レヴァン。

机に軽く腰を預けている。


「珍しいだろう?」


少しだけ皮肉っぽく笑う。


「お前が“預ける”なんてな」


「預ける、という言い方は好きじゃない」


「じゃあ何だ」


「“委ねる”だ」

さらりと言う。

クロードは鼻で笑う。


「言い換えただけだろ」


「ニュアンスは重要だ」


レヴァンは肩をすくめる。


「で、その問題児はどんなだ」


「問題児ではない」


「ほう?」


「優秀だ」


即答。


「ただし」


「規格外だ」


クロードの目が細くなる。


「……お前が言うなら相当だな」


「否定はしない」


少しだけ間。


「カイという」


「……へえ」


クロードの表情がわずかに変わる。


「例の“あれ”か」


「知っているだろう」


「まあな」


軽く息を吐く。


「で、なんで今さら学園に?」


レヴァンは、少しだけ視線を外す。


「……視野を広げさせる」


「お前がそれ言うか?」


即ツッコミ。

レヴァンがわずかに眉を寄せる。


「必要だと判断した」


「情か?」


沈黙。一瞬だけ。


「……管理だ」


言い直す。

でも。

クロードは見逃さない。


「昔から変わんねえな、お前」


「何がだ」


「不器用なとこ」


レヴァンがため息をつく。


「お前に言われたくない」


「違いねえ」


二人とも、少しだけ笑う。

空気が緩む。


「壊すなよ」


レヴァンが言う。

真面目な声。


「分かってる」


「お前なら、大丈夫だろうがな」


信頼が混じる。


「珍しいな、褒めるなんて」


「事実だ」


短いが、重い言葉。


「……任せろ」


クロードが頷く。


「その代わり」


「なんだ」


「ちゃんと“人間”にしてやるよ」


レヴァンの目が、わずかに細くなる。


「……余計なことを」


そう言いながらも。

完全には否定しなかった。



【第三部:選んだ自由】


学園を去った夜。

風が冷たい。

人気のない通り。


「……来ると思った」


カイが呟く。

背後。


「当然だ」


レヴァンが立っている。

変わらない黒。


「で?」


振り返る。


「何の用だよ」


「確認だ」


ゆっくり歩み寄る。


「戻る気はあるか」


真っ直ぐな問い。


「回収者として」


沈黙。

カイは少しだけ空を見る。


「……ねえな」


短く答える。


「理由は」


「縛られるの、性に合わねえ」


軽く言う。

でも、本音だ。

レヴァンは少しだけ息を吐く。


「そうか」


否定しない。

ただ、受け入れる。


「意外とあっさりだな」


「お前はそういうやつだ」


少しだけ口元が緩む。


「昔からな」


カイが少しだけ目を細める。


「……覚えてんだな」


「当然だ」


「俺は忘れてるのに?」


一瞬の沈黙。


でも、レヴァンは逸らさない。


「だからこそだ」


静かに言う。


「お前の分まで、こちらが覚えている」


その言葉に、少しだけ空気が変わる。


「……そっかよ」


カイは小さく笑う。


「なら安心だ」


皮肉っぽく。


「一つだけ言っておく」


レヴァンが立ち止まる。


「お前は自由だ」


はっきりと。


「組織に縛るつもりはない」


カイが少しだけ驚く。


「いいのかよ、それで」


「問題ない」


「ただし」


視線が鋭くなる。


「自由には責任が伴う」


静かだが、重い言葉。


「その意味は分かるな」


カイは少しだけ笑う。


「さあな」


「……強がるな」


珍しく、少し柔らかい声。

カイが一瞬だけ黙る。


「……まあ、なんとかする」


それが答えだった。

レヴァンは小さく頷く。


「席は空けておく」


「は?」


「戻りたくなったら来い」


さらりと言う。


「お前の居場所は、用意してある」


沈黙。

カイはしばらく何も言わない。

やがて。


「……行くわ」


背を向ける。


「好きにしろ」


レヴァンも、それ以上は言わない。

ただ。その背を見ている。

完全に見えなくなるまで。

そして、小さく呟く。


「……それでいい」


ほんのわずかに。

安堵のようなものが混じっていた。


番外編 完


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