第5話:選ぶ理由 再会3 卒業後 最終回
山の空気は、静かだった。
レヴァンが去ったあとも、風だけが残っている。
さっきまでの会話が、まだ胸の奥に残っていた。
「……まだ、いるのね」
リナがぽつりと言う。
「すぐ帰ると思ったか?」
カイが軽く返す。
「ちょっとだけ」
「ひどいな」
小さなやり取り。
でも、その距離は近いままだった。
少しの沈黙。
「……なあ」
カイが先に口を開く。
「何?」
「お前、ここまで来て――」
言いかけて、少しだけ言葉を止める。
「……引く気、ないんだな」
リナは即答だった。
「ない」
迷いも、間もない。
カイが小さく息を吐く。
「……ほんと、面倒なやつ」
「さっきもそれ言ってた」
「気のせいだ」
でも、その声はどこか柔らかい。
「……分かってるのか」
カイが少しだけ真面目な声になる。
「俺と組むってことが、どういうことか」
「分かってる」
「命の保証、ないぞ」
「最初からないでしょ、そんなの」
一歩、踏み込む。
「それに」
カイを見上げる。
「一人より、いい」
静かな言葉。
でも、まっすぐ。
カイの目が、わずかに揺れる。
「……他にもいるだろ」
ぽつりと落ちる。
「俺じゃなくても」
その言葉。
ほんの少しだけ、逃げ。
リナは、一瞬だけ目を細めた。
「……ほんと、そういうとこ嫌い」
「は?」
一歩、さらに踏み込む。
距離が、一気に詰まる。
「自分で決めて、自分で離れて」
胸を指で軽く押す。
「勝手に選択肢から外れるの」
カイが言葉を失う。
「私が選ぶの」
はっきりと言い切る。
「カイじゃなきゃダメなの」
空気が止まる。
次の瞬間――
ぐっと、胸ぐらを掴まれる。
「っ――!?」
そのまま、押し倒された。
背中に伝わる地面の感触。
視界が揺れる。
でも。
目は逸らさない。
すぐ下に、カイの顔。
距離が、近すぎる。
「……なんで、そこまで言える」
低い声。
「言うって決めたから」
即答だった。
「逃げないって決めたの」
沈黙。
風が、二人の間を抜ける。
「……ずるいな」
カイが小さく呟く。
「何が」
「そうやって、真っ直ぐ来るとこ」
ほんの少しだけ、視線が揺れる。
リナは、息を吸う。
(……今だ)
少しだけ、体を倒す。
距離が、さらに縮まる。
「……カイ」
名前を呼ぶ。
そのまま――
唇が、触れた。
一瞬。
でも、確かに。
カイの動きが止まる。
離れる。
ほんの少しだけ距離が戻る。
リナの頬が、少し赤い。
「……これで分かった?」
静かな声。
でも、震えてない。
カイは、何も言わない。
ただ、じっと見ている。
数秒。
長い、沈黙。
そして――
ぐっと、腕を引かれた。
今度は逆に、引き寄せられる。
「……足りねえ」
低く、はっきりと。
そのまま、キスが落ちる。
さっきより、深く。
逃げ場はない。
でも、逃げない。
やがて、ゆっくりと離れる。
呼吸が、少し乱れている。
「……分かった」
カイが小さく言う。
「何が」
「お前の気持ち」
一拍。
「……あと、俺のも」
リナの目が、少しだけ見開く。
カイは視線を逸らさない。
「……好きだ」
静かで、まっすぐな声。
「最初から、たぶん」
余計な飾りはない。
でも、嘘もない。
リナの表情が、崩れる。
嬉しさが、そのまま出る。
「……もう一回言って」
「断る」
「えー」
「一回で十分だろ」
でも、その声は少しだけ優しい。
リナが、ぐっと抱きつく。
「っ……おい」
「いいでしょ、今くらい」
離れない。
カイは少しだけ困ったように息を吐いて、
でも――
そのまま、抱き返した。
「……条件がある」
リナが顔を上げる。
「何?」
「組むのはいい」
一拍。
「でも、組織には戻らない」
はっきりと言う。
「仕事は自分で選ぶ」
「うん」
「管理者の指示も受けない」
「うん」
「……それでもいいなら」
最後の確認。
リナは、迷わない。
「いいに決まってるでしょ」
即答だった。
「自由がいい」
小さく笑う。
「一緒にいられるなら、それでいい」
カイが、少しだけ目を細める。
「……ほんと、強いな」
「でしょ」
得意げに笑う。
その顔を見て、
カイもほんの少しだけ笑った。
山の風が、やわらかく吹く。
もう、迷いはない。
「行くか」
「うん」
並んで歩き出す。
その距離は、もう離れない。
繋がれた手が、
静かに、でも確かに重なっていた。
卒業後編 再会 完
やっと再会して、ここまで来ました。
ここまで長くなるとは。
この後、もう少しストーリーが続きます。
番外編もいくつかありますので、よろしければお付き合いください。




