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忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく―  作者: HANABI
卒業後編

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第3話:山に潜むもの 再会1

夏の名残は、山の麓ではもう感じられなかった。

風は冷たく、空気は乾いている。

見上げた山は高く、鋭く、まるで拒むようにそびえていた。


「……ここ、か」


リナは小さく呟く。

港町からここまで、何日もかかった。

馬車を乗り継ぎ、歩き、情報を辿って――

辿り着いた先が、この山だった。


「一人で行くつもりか?」


低い声が背後からかかる。

振り向くと、木造の大きな宿。

その前に立っていたのは、宿の主人らしき男だった。


「はい」


「やめとけ」


即答だった。


「この山はな、甘くない。魔物も出るし、最近は“変

なもん”もいる」


「……影、ですか」


男は少しだけ目を細めた。


「知ってるなら尚更だ。一人は無理だ」


少しの間。

リナは山を見上げる。


(……でも)


ここまで来たのに、引くつもりはなかった。


「誰か、案内を頼めますか」


そう言うと、男はため息をついた。


「最初からそう言え」


宿の中は、思ったより賑やかだった。

武器を持った者たち。

笑い声と、酒の匂い。

“ただの宿”ではないと、すぐに分かる。


(……ここ、たぶん)


情報と人材が集まる場所。

――回収者とも繋がっている。


「おーい、レヴァン」


主人が声をかける。

奥の席。

壁際に座っていた男が、ゆっくり顔を上げた。


黒い外套。

無駄のない体つき。

けれど――


(……気配が、薄い)


いるのに、感じにくい。

不思議な違和感。

いるのに、感じにくい。

不思議な違和感。


「こいつを山に連れてけ」


「……」


男――レヴァンは、何も言わずリナを見る。

視線が合う。

その一瞬で、背筋がわずかに冷えた。


(……見られてる)


ただの観察じゃない。

測られているような感覚。


「腕は?」


低い声。


「一人で動くつもりでした」


「そうか」


それだけ。

評価も否定もない。


「頼む」


主人が短く言う。

レヴァンは一度だけ頷いた。


「準備は?」


「できてます」


「……なら、明日出る」


それで話は終わった。

翌朝。

空は高く、澄んでいた。


「一つ、言っておきます」


出発前、リナが口を開く。

レヴァンは無言で視線だけ向ける。


「私は、できるだけ一人で戦います」


「……」


「強くなりたいんです。並びたい人がいるから」


少しだけ、視線が鋭くなる。


「あなたには、いざという時のサポートをお願いしたいです」


沈黙。

風が、二人の間を抜ける。


「……いいだろう」


短く、それだけだった。

山は、想像以上に険しかった。

足場は悪く、道も曖昧。

空気は冷え、夜はさらに厳しい。


それでも――

リナは、しっかりと歩いていた。

野営。

火を起こし、水を確保し、簡単な食事を作る。

手慣れた動き。


「……慣れているな」


初めて、レヴァンが口を開いた。


「小さい頃からやってたので」


「そうか」


それ以上は聞かない。

だが、その目はやはり――


(……見てる)


常に。

数日。魔物との戦闘もあった。

リナが前に出る。

剣と魔法で押し切る。


レヴァンは動かない。

ただ、見ている。


「……今の、避けるか」


ぽつりと、戦闘のあとに呟く。

独り言のようでいて、確かに聞かせている。


「その戦い方、誰に教わった」


別の日、ふと聞かれる。


「……色々です」


「そうか」


それ以上は追わない。

だが――


「……似ているな」


小さく、呟いた。


「え?」


「いや」


それきりだった。

そして。最初の“影”が現れた。

空気が歪む。

黒い、形を持たない存在。


「……来る」


リナが前に出る。


「後ろは任せます」


「ああ」


レヴァンは動かない。

約束通り、サポートに徹する。

戦闘。


リナは一人で捌く。

水で拘束し、剣で断つ。

まだ粗さはある。

だが――


(……いける)


確かな手応え。

影は消えた。


「……悪くない」


レヴァンが言う。


「だが、まだ足りない」


淡々と。

評価でもあり、事実でもある。


「……はい」


リナは頷く。

悔しさはある。

でも、折れない。


数日後。山の奥。

空気が、明らかに重かった。


「……これは」


「来るな」


レヴァンが低く言う。

次の瞬間。

“それ”は現れた。

先の影よりも大きい。

濃い。

重い。


戦闘が始まる。

リナは前に出る。

だが――強い。

一撃が重い。そして、速い。


「っ……!」


受けきれない。

距離を取る。

水を展開。

それでも押される。


(……まだ)


足りない。

分かっている。

でも――


(それでも!)


前に出る。

影が膨らむ。

一気に距離を詰めてくる。


(まずい――)


その瞬間。

横から、風が裂けた。

黒が、一瞬で消える。


「……えっ?」


目の前の光景に、思考が止まる。

そこに立っていたのは――


「……カイ」


黒い髪。

変わらない、あの目。

静寂。

次の瞬間。


「……あんたがいたのに、なんで見てた」


低い声。

レヴァンに向けられる。


「……」


レヴァンは何も言わない。

ただ、見ている。


「……間に合わなかったら、どうするつもりだった」


一歩、踏み込む。

空気が張り詰める。


その声には――

怒りだけじゃない。

確かに、焦りが混じっていた。


「試していた」


レヴァンが言う。


「こいつが、どこまでやれるか」


「……ふざけんな」


カイの声が低くなる。

そのやり取りを、

リナは、ぼんやりと見ていた。


(……カイ)


やっと、会えた。

その瞬間。

力が抜ける。

膝が、崩れる。


「っ……」


倒れかけた体を、

支えたのは――

カイだった。


「……無茶すんな」


低い声。

でも、少しだけ近い。

手が、しっかりと腕を掴んでいる。


「……会えた」


思わず、こぼれる。

カイが一瞬だけ目を細める。

ゆっくりと、立たされる。

でも。

その距離は、ほんの少し近いまま。

視線が絡む。

離れない。


(……この距離)


心臓が、うるさい。

でも、嫌じゃない。


「……来ると思ってた」


カイが小さく言う。


「……遅い」


わずかに息を吐くように、そう続けた。


「来たでしょ」


少しだけ笑う。


その様子を見ていたレヴァンが、口を開く。


「……まだ未熟だ」


はっきりと。


「だが」


一拍。


「使える」


冷静な評価。


「こいつと組め」


カイに向けて言う。


「その方が効率がいい」


完全に、組織目線。


「……断る」


即答だった。


「俺は戻らない」


「そうか」


レヴァンは淡々と頷く。


「だが」


リナを見る。


「お前は、あいつに必要だ」


その言葉に、

カイの表情がわずかに揺れる。


「……勝手に決めんな」


低く言う。

でも、完全には否定しない。


風が吹く。

山の空気が、少しだけ緩む。


(……まだ、届かない)


リナは思う。

でも――


(隣には、立てる)


その距離は、もう目の前だった。


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