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忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく―  作者: HANABI
卒業後編

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第2話:海風と、出会い 旅立ち

強い日差しが、地面を白く照らしていた。

馬車の揺れに身を任せながら、リナは窓の外を見ている。


どこまでも続く道。

乾いた風。

遠くに見える街並み。


(……遠いな)


学園を出て、もう数日。

見慣れた景色はとっくに消えていた。


「もうすぐ港だぞー!」


御者の声が飛ぶ。

その言葉に、リナは少しだけ身を乗り出した。

最初に見えたのは――


「……海」


思わず、声が漏れる。

視界いっぱいに広がる青。

太陽の光を反射して、きらきらと輝いている。

波の音と、潮の匂い。

風が、これまでとはまるで違う。


「すごい……」


知らなかった景色。

こんな場所があるなんて。

胸の奥が、少しだけ高鳴る。

港町は、賑やかだった。

行き交う人々の声。

荷物を運ぶ音。

異国の言葉も混じっている。

服装も、学園の街とは違う。

軽くて、動きやすそうで、少しだけ大胆。


(……全然違う)


リナは周囲を見回しながら歩く。


「まずは情報、よね」


小さく呟く。

新聞を売る声が聞こえる。


「影の異変!西の海域で発生!」


その言葉に、足が止まる。

買った新聞を開く。


“夜間、影の出現が確認された。船の消失も数件――”


「……やっぱり」


完全に外れではない。

むしろ、当たりに近い。


(カイ……)


首元の琥珀に、無意識に触れる。


「へえ、それ読むんだ」


不意に、横から声がした。


「え?」


振り向く。

そこにいたのは――

赤い髪の男だった。

ラフな服装。

どこか船乗りのような雰囲気。

そして、人懐っこい笑顔。


「珍しいね、女の子がその手の記事読むの」


「えっと……ちょっと興味があって」


少し戸惑いながら答える。

男はくすっと笑った。


「“ちょっと”で済む内容じゃないけどな、それ」


そう言いながら、自然と距離を詰めてくる。

でも、不思議と嫌な感じはしない。


「観光じゃなさそうだし」


「……分かるの?」


「分かる分かる」


軽く頷く。


「目が違う」


さらっと言う。


「え?」


「探してるやつの目」


その一言に、少しだけ胸が跳ねた。


「まあいいや」


男は手を差し出した。


「ジン。回収者」


「あ……リナ」


握る。

温かくて、しっかりした手。


「やっぱりね〜」


「え?」


「そんな感じした」


笑う。

軽いのに、どこか鋭い。


「で?」


ジンが少しだけ顔を近づける。


「一人?」


「うん」


「無茶するタイプだ」


「そんなことないよ」


「する顔してる」


即答だった。


「……」


言い返せない。


「ま、いいや〜」


ジンは、腕を頭の後ろに組みながら伸びをする。


「ちょうどいいし、一緒に来ない?」


「どこに?」


「記事の場所」


指で新聞を軽く叩く。


「影、出てるんだろ」


「……行くつもりだった」


「だろうな」


にやっと笑う。


「じゃあ決まり」


「ちょ、ちょっと待って」


「なに」


「なんで一緒に?」


「一人だと死ぬかもしれないから」


さらっと言う。


「……」


「冗談」


一拍おいて、


「半分くらいな」


結局。

リナはジンと一緒に付いていくことになった。

現場は、港の外れ。

使われなくなった倉庫。

空気が、重い。


「……当たりだね」


ジンの声が少しだけ低くなる。

さっきまでの軽さが消える。


「うん」


リナも頷く。

気配は感じていた。

影は、すぐに現れた。

黒い歪み。

形を持たない存在。


「来るぞ」


その瞬間。

ジンの動きが変わった。

一歩踏み込み、風が巻く。

短剣が閃く。

速い。

見えないほどじゃない。でも――


(速い……!)


影の攻撃を、紙一重でかわす。

流れるように切り裂く。

無駄がない。


「リナ!」


名前を呼ばれる。


「右!」


「っ!」


反応する。

水を展開。

流れで拘束。


「いいね」


ジンが笑う。


「ちゃんと戦えるじゃん」


余裕の声。

でもその裏で、しっかり見ている。

影が形を崩す。


「今だ」


リナは前に出る。

剣を握る。


(いける)


振り下ろす――

その瞬間。

影が弾けた。


「っ!?」


一瞬の油断。


「下がれ!」


ジンの声。

同時に、風が巻き上がる。

衝撃が逸らされる。

リナの体が引かれる。


「大丈夫か」


すぐ近くにいた。

距離が近い。

少しだけ息がかかる。


「……うん」


心臓が少し速い。


「油断したな」


軽く言う。

でも、責める感じじゃない。


「……ごめん」


「いいって」


頭を軽く叩かれる。


「初めてだろ」


「……分かるの?」


そう言って明るく笑った。


「うん。分かる――だから一緒に来た」


残った影を、二人で処理する。

今度は迷わない。

連携も少しだけ噛み合ってくる。

そして――

静寂。


「終わり、っと」


ジンが剣を払う。


「……強いね」


リナがぽつりと言う。


「まあな」


あっさり。

でも否定しない。

そのとき。

ジンの視線が、ふと止まる。


「それ」


リナの首元。

琥珀の首飾り。


「……え?」


「いや」


少しだけ目を細める。


「なんでもない」


でも。

ほんの一瞬だけ。

表情が変わった。


「……あれが例の、か」


小さく、誰にも聞こえない声で呟く。

帰り道。

夕日が海に沈んでいく。


「なあ」


ジンが歩きながら言う。


「しばらく一緒に動く?」


「え?」


「悪くないと思うけど」


軽い調子。

でも、少しだけ本気。

リナは少しだけ考える。


(……でも)


浮かぶのは、黒い髪。

琥珀の瞳。


「……ごめん」


首を横に振る。


「探してる人がいるから」


「そっか。――なんとなくそうだろうなと思った」


あっさりと受け入れる。


「そういう顔してるし」


ジンは笑った。


「じゃあ、またどっかでな」


「うん」


「死ぬなよ」


「そっちもね」


別れ際。

海風が強く吹いた。

その中で。

リナはもう一度、前を向く。


(……次へ)


旅は、まだ始まったばかりだった。


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