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忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく―  作者: HANABI
卒業後編

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第1話:春、旅立ちの日 第4章 卒業後

第四章始まりました。

リナの卒業式、そしてその選択。

また楽しんでいただけたら嬉しいです。

春の光が、校舎の白い壁をやわらかく照らしていた。

まだ少しだけ冷たい風が吹く中で、校庭には人が集まっている。


いつもと同じ場所なのに、どこか空気が違った。

ざわめきの中に、緊張と、少しの寂しさが混ざっている。


(……今日なんだ)


リナはゆっくりと息を吐いた。

視線の先――

壇上に立つ教師たち。

その中に、クロードの姿もある。

変わらない表情。

でも、ほんの少しだけ、目が優しかった。


式は、静かに進んでいった。

名前が呼ばれ、一人ずつ前に出る。

足音がやけに大きく響く。

リナの番が来る。


「リナ・エルフィード」


「はい!」


一歩踏み出す。

壇上へ上がる階段。

その一段一段が、妙に重く感じた。

証書を受け取る。


「よくやったな」


クロードが、小さくそう言った。


「はい」


短く答える。

それだけのやり取りなのに、胸の奥がじんわりと熱くなる。


(終わったんだ)


そう思った瞬間、

何かが静かに切り替わった気がした。

式が終わると、校庭は一気に賑やかになった。

笑い声、呼び合う声、別れを惜しむ声。


「リナーーー!!」


勢いよく飛びついてきたのはミアだった。


「ちょ、ちょっと!」


「卒業だよ!?ねえ卒業!!」


「分かってるってば!」


でも、自然と笑ってしまう。


「はあ……もう無理、泣きそう」


「さっきから泣いてるでしょ」


「これは違うの!」


「何が違うのよ」


そんなやり取りすら、もうすぐなくなる。

そう思うと、少しだけ胸が締め付けられた。


「で、お前どうすんの」


キースが隣に来る。


「決まってんだろ」


その後ろからレオン。

リナは、少しだけ視線を落としてから――顔を上げた。


「行くよ!」


その一言で、空気が変わる。

ミアが、ぴたりと動きを止めた。


「……やっぱり?」


「うん」


「カイのとこ?」


「そう、カイのとこ。」


まっすぐ頷く。

迷いはなかった。

少しの沈黙。

それを破ったのは、ミアだった。


「……そっか」


笑ってる。

でも、少しだけ寂しそうで。


「止めないの?」


リナが聞く。


「止めても行くでしょ」


「……うん」


「じゃあ意味ないじゃん」


肩をすくめる。


「それに」


一歩近づいて、リナの手を握る。


「ちゃんと帰ってきてね」


その言葉に、胸がぎゅっとなる。


「……うん」


「絶対だからね?」


「うん、約束」


ミアは満足そうに笑った。


「俺は――戻るよ」


キースがぽつりとそう言った。


「戻る?」


リナが首をかしげる。


「実家。牧場やってるんだ」


あっさりとした口調。

でも、その言葉には迷いがなかった。


「え、じゃあ回収者は?」


ミアが少し驚いたように聞く。


「やらねえよ。あれはレオンに任せる」


「任せるって……」


「向いてるやつがやればいいだろ」


肩をすくめる。

軽く言っているようで、その実、ちゃんと選んでいる言い方だった。


「俺は、俺でやることあるしな」


「……そっか」


リナは少しだけ考えて、それから笑った。


「キースっぽい」


「だろ?」


「でもさ」


ミアが腕を組んで、じっとキースを見る。


「絶対なんか隠してるでしょ」


「は?」


「“やらない理由”」


キースは一瞬だけ目を逸らして、苦笑した。


「……別に大した理由じゃねえよ」


「ほんとに?」


「ただ」


少しだけ、言葉を選ぶ。


「戻れる場所があるなら、ちゃんと戻っとこうかなって思っただけ」


その一言に、空気が少し変わる。


軽いのに、妙に重い。


「……なにそれ、ずるい」


ミアが小さく呟く。


「なにが」


「なんか、大人っぽい」


「今さら?」


「今さら!」


少しだけ笑いが戻る。

でもその中で、リナは思っていた。


(……帰る場所)


自分には、まだそれが“決まっていない”。

だからこそ――


(私は、行く)


その気持ちが、よりはっきりした。


「レオンは?」


レオンは視線を落とさずに言う。


「……俺は、回収者を選ぶ」


「……そっか」


リナは少しだけ驚いて、でもすぐに納得したように笑った。


「じゃあ、そのうち会うね」


レオンは、ずっと黙っていた。

風が、少し強く吹く。

金の髪が揺れる。


「レオン?」


名前を呼ぶと、ゆっくりと視線が向く。


「……行くんだな」


「うん」


「危険だ」


「分かってる」


「それでもか」


「それでも」


はっきりと答える。

その目を、レオンはまっすぐ見ていた。

少しの沈黙のあと――


「……なら、止めない」


静かに言う。


「ただ」


一歩、近づく。


「無茶はするな」


「……うん」


「死ぬな」


「うん」


短い言葉。

でも、そこに全部込められていた。


「準備は出来てるのか」


クロードの声が、後ろからした。

振り返る。


「はい」


「行き先は」


「まだ。でも、まずは港町に」


「……妥当だな」


少しだけ頷く。


「情報は動く場所に集まる」


「はい」


「一つだけ言っておく」


リナは自然と背筋を伸ばした。


「お前はもう“守られる側”じゃない」


「……はい」


「選び、動き、責任を持つ側だ」


その言葉は、重かった。

でも――


「はい」


迷いなく答える。


「……それと」


クロードが少しだけ目を細める。


「見つけたら、どうする」


カイのことだ。

リナは、一瞬も迷わなかった。


「連れて帰る」


「無理やりか?」


「必要なら」


「……そうか」


ほんの少しだけ、口元が緩んだ。


「お前らしいな」


午後。


剣、最低限の服、保存食、地図……そして少しづつ貯めたお金。

足りない分は、行った先で仕事をしながら補う。

どこでも生活出来るような力はつけたつもりだった。


荷物をまとめ終えて、リナは一度手を止めた。

窓の外は、少しだけ夕焼けに染まっている。


「……キース、明日発つんだよね」


「ああ」


背中越しに返事が返ってくる。


「どんなとこなの?実家」


「んー」


少し考えてから、


「うるせえぞ」


「え?」


「動物多いし。朝早えし。匂いもする」


「うわ、大変そう」


「だろ?」


くすっと笑う。


「でもまあ」


少しだけ、声が柔らかくなる。


「嫌いじゃねえよ」


その言い方は、どこか安心しているようにも聞こえた。


「ミアは来るの?」


リナが何気なく聞くと、


「……どうだろうな」


キースは曖昧に答えた。


「忙しくなるだろうし」


「でも行くんじゃない?」


「来たら、困るけどな」


「なんでよ」


「落ち着かねえだろ」


「絶対嘘でしょ」


「……まあ、来たら案内くらいはする」


 完全に断らない。

 そのとき。

 ふと、ミアが部屋に顔を出す。


「ねえ聞いたんだけど」


「なに?」


「キースの実家、牛いるんでしょ?」


「いるけど」


「行きたい」


 即答だった。


「早いって」


「だって楽しそうじゃない!」


「絶対世話するの大変だぞ」


「やる!」


「絶対途中で投げるだろ」


「やるってば!」


そのやり取りを見ながら、

リナは少しだけ思う。


(……いいな)


ああいう“帰る場所”があるのは。

少しだけ羨ましくて。

でも同時に――


(私は、まだこれから)


そう思えた。

その距離感に、リナは少しだけ笑った。


そして――

首元に触れる。

琥珀の首飾り。


「……そろそろ行こっかな」


小さく呟いて立ち上がった。

この気持ちが確かに届いてほしい相手に向かって歩き出す。


 校門の前。

 振り返る。

 長く過ごした場所。

 笑って、戦って、迷って。

 全部ここにある。


「リナ!」


ミアの声。


「またね!」


「うん!」


「絶対だからね!」


「分かってるってば!」


キースが手を軽く上げる。

レオンは、ただ静かに頷いた。

一歩、踏み出す。


風が吹く。

春の香り。

新しい季節の空気。


(待っててよ、カイ)


胸の奥で、強く思う。


(今度は、私が行く)


もう迷わない。


もう止まらない。


――リナの旅が、ここから始まる。


いつも読んでいただきありがとうございます。

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