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忘れたはずの彼が、気になってしまう。 ―琥珀の瞳が、嘘をつく―  作者: HANABI
番外編

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番外短編:影に選ばれた者 クロード&カイ 逃亡直前

夜。

学園の奥。

立ち入りを禁じられた区画。

石造りの廊下は冷え切っていて、足音だけが静かに響く。


「……来たか」


低い声。クロードがそこにいた。

窓のない部屋。灯りは一つだけ。


「遅い」


「別に急ぐ理由もないだろ」


カイは壁にもたれたまま答える。


「……相変わらずだな」


クロードは一歩、奥へ進む。

部屋の中央。円形の魔法陣。

微かに、黒く揺れている。


「感じるか」


「当たり前だ」


カイの目が、わずかに細くなる。

空気が、歪んでいる。影の“核”。

完全には現れていない、未成熟の存在。


「普通の回収者では近づくことすらできん」


「だから俺を呼んだ」


「そうだ」


クロードが振り返る。


「お前は“例外”だ」


沈黙。


「影に触れても壊れない。むしろ――」


魔法陣を見下ろす。


「消せる」


カイは答えない。ただ、一歩前に出る。

影がざわつく。拒絶するように。


「……やっぱりな」


小さく呟く。


「俺に反応してる」


「引き寄せているのは、お前だ」


はっきりと言い切る。

その言葉に、空気が重くなる。


(……分かってる)


カイは手を伸ばす。影が、暴れる。

だが――触れた瞬間。

静まった。まるで、従うように。

 

そして――音もなく、消える。

完全な消滅。痕跡すら残らない。


沈黙。


「……規格外だな」


クロードが静かに呟く。


「褒め言葉か?」


「事実だ」


少しだけ間を置く。


「そして、危険でもある」


カイは鼻で笑う。


「今さらだろ」


「……ああ、今さらだ」


視線が交差する。


「だからこそ、お前をここに置くべきではない」


はっきりと告げる。


「学園は“育てる場所”だ」


「俺は違うってか」


「お前は――」


一瞬、言葉を選ぶ。


「すでに“完成している側”だ」


静かな断定。

カイは目を逸らす。


「……面白くないな」


「感情の問題ではない」


クロードの声が、少しだけ低くなる。


「お前がいる限り、影は引き寄せられる」


「分かってる」


「それが、あの街の件だ」


あのときの光景が、脳裏に浮かぶ。

崩れた均衡。暴走した影。


そして――リナ。

歪んだ記憶。苦しそうな顔。

カイの指が、わずかに強く握られる。


「……だから離れる」


短く言う。


「それが一番被害が少ない」


「本当にそうか?」


クロードの声。


「……何が言いたい」


「逃げているようにも見えるが」


一瞬、空気が張り詰める。


「……言うなよ、それ」


低い声。


「分かってるくせに」


視線がぶつかる。

クロードは、ほんのわずかに目を細めた。


「……ああ、分かっている」


一歩、近づく。


「だが、それでも言う」


静かに。


「お前は“選んでいる”」


その言葉に、カイの目が揺れる。


「守るために離れるのも選択だ」


「……」


「だが、それが正解とは限らん」


沈黙。――長い、沈黙。

やがて、カイが小さく息を吐く。


「……あんたさ」


「なんだ」


「教師向いてねえよ」


クロードが、わずかに笑う。


「よく言われる」


その空気が、ほんの少しだけ緩む。

だが、次の瞬間。クロードの気配が変わった。

圧。

空間そのものが、沈むような感覚。


「……っ」


カイが反射的に身構える。


(これは――)


魔力じゃない。

もっと純粋な“圧力”。


「試すつもりか」


「確認だ」


クロードの瞳が、冷たく光る。


「お前が、どこまで“持つか”」


次の瞬間。空気が裂ける。見えない衝撃。

カイが踏み込む。正面から受ける。床が軋む。


「……は、はは」


口元が歪む。


「本気じゃねえな」


「当然だ」


クロードは動かない。それでも、圧は増す。


「それでも立っていられるか」


「誰に言ってんだよ」


カイの目が、琥珀に染まる。

空気が、反転する。押し返す。均衡。静止。

そして――

同時に、力が消える。静寂。


「……十分だ」


クロードが呟く。


「やはり、お前は“こちら側”だ」


「……気に入らねえ言い方だな」


「事実だ」


少しだけ、視線が柔らかくなる。


「だからこそ」


一歩、下がる。


「自由にしろ」


「……は?」


「縛る理由がない」


その言葉に、カイは一瞬だけ驚く。


「ただし」


視線が鋭くなる。


「自分の選択の責任は負え」


「……言われなくても」


「それと」


一拍。


「もし戻るなら、止めはしない」


静かな声。押し付けではない。ただの“余地”。


(……戻る、か)


一瞬だけ、浮かぶ。笑う顔。怒る顔。

リナ。胸が、わずかに痛む。


「……行く」

 

短く言う。

振り返らない。


「そうか」


クロードはそれ以上何も言わなかった。

ただ、その背を見送る。扉が閉まる。

静寂。


そして、誰もいなくなった部屋で。

クロードは小さく呟いた。


「……あのときと同じだな」


遠い記憶。幼い少女。泣いていた。

その前に立っていたのは――


「“第一席”か」


回収者の中でも、最上位。

あの日、リナの前からカイを連れ去った存在。


「……因果は巡る」


静かに目を閉じる。


「さて」


わずかに笑う。


「どこまで抗う」


誰に向けた言葉でもなく。ただ、静かに落ちた。

夜の外。カイは一人、歩いていた。

風が冷たい。でも、足は止まらない。


(……これでいい)

 

そう思う。思い込む。

胸の奥の違和感には、触れないまま。

ただ前へ。影の中へ。


番外編 完


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