番外短編:引かない理由(レオン視点・30話前後)
風が、少しだけ冷たくなっていた。
季節が変わる気配。
それと同時に、
考えなければならないことも増えていく。
(……進路、か)
クロードの話は、理解している。
回収者。
危険。
選ばれる側。
迷いはない。
(やるだけだ)
それは、昔から決めていたことに近い。
問題は――
別にある。
視線を上げる。
教室の中。
ミアと話すリナ。
笑っている。
その隣に――カイ。
(……あいつか)
静かに見つめる。
無駄のない立ち方。
隙のない気配。
強い。
認めるしかないくらいに。
(……敵に回したくはないな)
本音だった。
それでも。
(……だからって)
視線を逸らさない。
(譲る理由にはならない)
リナの反応を見る。
距離。
空気。
目線。
(……まだ、決まってない)
完全には、向いていない。
でも。
(……少しずつ、傾いてる)
それも、わかる。
だからこそ。
(今だな)
そう判断する。
遅すぎても、早すぎても意味がない。
この“中途半端な距離”だからこそ、
言葉にする価値がある。
教室の扉に向かう。
「リナ、少しいいか」
声をかける。
振り向いた表情。
少しだけ驚いている。
でも、嫌ではなさそうだ。
(……大丈夫だな)
確信に変わる。
廊下を歩く。
静かな場所へ。
言葉を選ぶ時間は、十分にあった。
でも。
(結局、言うことは決まってる)
余計な飾りはいらない。
向かい合う。
リナの目は、逃げない。
(……やっぱり、いいな)
そう思う。
強さも、弱さも、
全部含めて。
進路の話をする。
それはきっかけに過ぎない。
本題は、その先だ。
一歩、踏み出す。
(ここで引いたら、終わる)
それだけは、はっきりしている。
だから。
「俺は、お前が好きだ」
迷わず言う。
言葉にした瞬間、
少しだけ視界が澄む。
(……ああ)
これでいい。
リナの反応を見る。
驚き。
戸惑い。
そして。
(……少し、違うな)
嬉しさはある。
でも、それだけじゃない。
何かを探しているような。
(……あいつか)
すぐに理解する。
胸の奥で、小さく息を吐く。
(……だろうな)
納得している自分がいる。
悔しさはある。
でも、それ以上に。
(それでもいい)
そう思える。
だからこそ。
「返事はいらない」
言葉を重ねる。
選ぶのは、リナだ。
強制する気はない。
でも。
「俺は、お前を選ぶ」
これは、譲らない。
カイがどうであれ。
結果がどうであれ。
(逃げない)
それだけは決めている。
リナの「ありがとう」を聞く。
その温度を感じる。
(……ああ)
やっぱり、優しい。
でも。
(……足りない)
その違いも、理解する。
それでも。
(ゼロじゃない)
それで十分だ。
「戻るか」
何事もなかったように言う。
隣に並ぶ。
距離は近い。
でも、心の距離はまだ測れない。
それでも。
(……ここからだろ)
静かに、そう思った。
番外 短編② 完




